第13話 スリスリ・不思議

 さっきと同じようにコイツに濡れタオルを被せ、三人でうちわを仰ぐ。

「お風呂頂きました。ありがとうございました」

 上気した顔と肌を身にまといながら、おしとやかが部屋に戻ってきた。


 そしてコイツの寝床のそばで腰を下ろすと

「シュモク”様”のとぎ、素敵でしたわ……」

 な、なんだその……つやっぽい流し目と妖しく濡れた唇わわわわわ!


「おい! いくら”よかった”からって、お持ち帰りするんじゃないぞ。まだ私の番があるのだからな」

 不思議がたしなめるように口を向けると、どこからか”チッ!”っと聞こえてきた。

 えっ!? えっ!? えっ!?


「すまんなお姉ちゃん。ワイにはここの水があっとるンや」

 コイツが申し訳なさそうにつぶいた。ちょっとぉ、泣かせるやないかぁ。

「ワイがおらんとウチのネェチャンは、自堕落の道を転がり落ちるからな。ハッハッハッ!」

 前言撤回!


「……わかりました。おとなしく身を引きます。でも、時々でいいですから伽をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「ええで! またみんなまとめて面倒見たるさかいな」


 立ち上がった不思議が、まるで演説のようにみんなに宣言した。

「では、私の番だな。さぁ皆の衆! 存分に私のあえぎ声を聞くがいい!」

 ある意味開き直りか。むしろ聞かれているとわかっていた方が気が楽か。


 ぞろぞろと四人+一匹で風呂場に向かう。なんの大名行列だよ。

 不思議が脱衣所に入り、残りは外で待つ。

「おい、いいぞ」

「は~い」

 風呂場のドアを開けると、不思議の顔が飛び込んできた。これで2:2か。


「この方が声がよく聞こえるからな」

 ひょっとして垢すりされながら、おじいちゃんから教わった演歌でも歌うのかな。


 シュモクザメコイツにお湯を掛け、ボディーソープをぶっかける。

 不思議の体、失礼だがもうすぐ成人とは思えない。だいじょうぶか? シュモクザメコイツが児童ポ○ノ云々で捕まるんじゃないのか?

 サメを捕まえてどこに収監しゅうかんするんだろう? 保健所? 水族館?


「それじゃ、いくよ」

”ピト!”

「おうっ! 『ゼロ方向より深海生物接近!』」

 何かのアニメのセリフかな?

「んじゃごゆっくり」

 ドアを閉めると、案の定ワイルドとおしとやかが聞き耳を立てる。ついでに私も。


『よっしゃ! 右に攻撃を集中やで!』

『左舷! 石けんが薄いよ何やっているの!?』

『おっしゃ~、胸びれ腹びれ尾びれの総攻撃、いっくでぇ~!』

『な、なんのぉこれしきぃ~まだまだぁ~!』


”な、なにをやっていらっしゃるのでしょうか?”

 おしとやかが小声で疑問を口に出すが、むしろアンタがアイツとなにをやっていたのかが興味あるンだけど……。


”このかけ声、なんか聞いたことがある”


 ワイルドの呟きに四つの目が集中する。


”これ、この前言ってた、戦艦のゲームのセリフにそっくりだ”


”ふうぅ~~!”と私とおしとやかが力の抜けた息を吐き出した。

 『あえぎ声、正体聞いたり……』だな。


『作戦終了! 撤収準備!』

「はいよ~」

 二人は慌てて部屋へ戻っていった。


 シュモクザメコイツにシャワーを掛けていると

「うむ、多大なる戦果に余は満足じゃ! ワッハッハッハッハ!」

 むしろ”装甲”がはがれたんだから、損害過多では?

「んじゃ、後はごゆっくり」

「うむ、苦しゅうない。ドッグにて補修にいそしむとするか」


 さすがに三人相手にしたから、コイツも軽口を言う気力もなく、うちわの風を受けながら寝床でのびていた。

「だいじょうぶ? お水いる?」

「……んあ、たのむで」

「ではわたくしが」

 おしとやかがフタに穴の空いたペットをコイツの口に向け、塩水を押し出すと、”ゴクゴク”といつもより多く飲んでいた。


「お代わりはご入り用ですか?」

「いつもすまんな、たのむで」

「それはいわない約束でしょ」

 なんか時代劇に出てくる、寝たきりの父親と世話をする娘みたいだな。

 おしとやか、意外とノリノリ?


 そうこうしているうちに、不思議が戻ってきた。 

「役目大義! 正に身も心も洗われた気分じゃ! カッカッカッカ!」

「そ、そうかぁ~喜んでもらえてなによりやわ~」

 幾分コイツの声に力がないような。


 本当にがんばったんだね。お疲れ様。

 明日辺り何か精のつく物でも買ってくるか。


 後日、教室にて。


 ワイルドが「フットサルのメンバーに垢すりのこと、口を滑らせちゃって……」

 おしとやかが「お茶会の方々にお話ししたら……」

 不思議が「コスプレ仲間に自慢したら……」

 戸惑う私。


「と、とりあえずアイツに聞いてみるけど……」

 家に帰って、早速口に出してみると……。


「ア、アカン! 堪忍や! 当分おなごの裸は見たくないんやぁ!」

 あわててアタシの布団の中へと潜り込んでいった。

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