女子大生とサメたちが、上手に暮らす不可思議生活

第12話 スリスリ・おしとやか

「お疲れ様でした」

「おう、カナヅチおつかれ」

　濡れタオルを敷いた木箱ベッドにコイツを下ろすと、上からも濡れタオルを掛け、うちわで扇（あお）ぐ。

「だいじょうぶですか？」

「ゆでダコならぬ、ゆでザメ状態だな」

　おしとやか、不思議の声に

「おう！　まだまだいけまっせ～！」

　いやらしい眼とスケベな声で答えた。元気なヤツだ。

　三人でうちわを扇いでいると、ワイルドが頭にタオルを掛けて部屋に戻ってきた。

「お待たせ～」

　おしとやかが「ど、どうでした？」

「おう！　最初はちくっとしたけど、擦（こす）れていくウチになめらかになって、最後には気持ちよくなって（垢が）いっぱいでたぞ」

　不思議が「おい、その言葉は色々と誤解を招くぞ」

「そうか？　あ、ダチ公ありがとな。背中がツルッツルになったぜ！　夏に日焼けして、皮がめくれ始めた時にもお世話になろうかな？」

「おう！　いつでも待ってまっせ！　さぁ～て、お次はどなたかな～？」

　なぜか三人＋一匹の目線がおしとやかに集中する。まぁ前回の流れから考えるとそうなるよね。

「で、ではわたくしが……ふつつか者ですが、よろしくお願い致します」

　うちわを床に置いたおしとやかが、三つ指ついてコイツに頭を下げた。

　なんだろう……ワイルドの口ぶりといい、あらゆる誤解を招く気が

「それじゃ先にお風呂場で待ってて。後でコイツを持っていくからさ。あ、そうだ、先に体にお湯を掛けて、軽く背中を洗った方がいいよ。泡はそのままでね」

「は、はい。かしこまりました」

　荷物を持ってしずしずとお風呂場へ向かうおしとやか。恥ずかしいのかな、すでに頬が紅（あか）いような。

「それじゃ、よいっしょっと」

　コイツを持ち上げお風呂場へ向かうと、不思議が後をついてきた。やっぱり盗聴するんかい。

「おい、どこへ……あ！　まさかアタシの時も盗み聞きしたのか！？」

　ワイルドに向かって不思議は”シィ～！”と人差し指を唇に当てる。

「アイツ（おしとやか）も盗み聞きしたんだぞ。むしろやり返してやれ」

「お、おう！」

　どんな理論だよ。

　脱衣所の外で二人は待機し、ドアを閉める。

「もういいかい？」

「あ、はい。よろしくお願い致します」

　ドアを開けると、お尻が眼に飛び込んできた。今のところドアに向けるのはお尻か頭かだと２：１か。だからどうした。

　てか、彼女こんなナイスバディーしてたっけ？　歓迎会の時はボディコン姿だったからあまり気にしていなかったけど。

　『脱いだらすごい』ってグラビアモデルの常套句だけどさ、この体は反則だろ。どおりでその手のお店の求人冊子をもらうわけだ。ちょっと分けて欲しい……。

「コイツにボディーソープを付けるから、もうちょっと待ってて」

「は、はい。お手柔らかにお願いします」

　コイツにお湯を掛け、ボディーソープを付けながら、ついついそのナイスバディーに目がいってしまう。

「それじゃ下ろすよ。ちょっと冷たいからね。よっと」

「ああ～ん！」

　なんだ今の声は？　どこから聞こえてきたんだ？

「うへへへへ！　ええ声してるやないかぁ～。もっと鳴かせたるで～」　

　あかん、完全にコイツの親父魂（オヤジだましい）に火がついたな。

「それじゃあごゆっくり」

　風呂場のドアを閉めると、早速ワイルドと不思議が聞き耳を立てる。素早い！

　そういう私も腰を下ろして耳を傾けた。

『そりゃそりゃ！　ここがええのか？　ええのかぁ？』

『い、いけませぬ、そ、そこはぁ～』

『グヘヘヘ、体は正直やなぁ～。なんならやめてもいいのだぞ～』

『そ、そんな、ご無体なぁ～』

　思わず頬を赤らめる私。

”ひょっとしてアタシも……こんな声、出してたのか？”

　ワイルドの問いかけに、私と不思議は沈黙を貫いた。花も恥じらう乙女が、お灸を据（す）えているおじいさんの声を出していたなんて、誰が教えることができようか。　

”な、なぁ、これって、中でなにを……やっているんだ？

　再度の問いかけにも私は沈黙を守ったが、不思議の口が開いた。

”このやりとり、聞いたことがある”

”！””！”と私とワイルドの目が見開いた。

　ちょっと待て、私の家でＲ１８発言は……別にいいか、シュモクザメ（コイツ）がいつもしゃべっているし。

”時代劇で、悪代官に弄（もてあそ）ばれる街娘の声だ”

　”ふぅ～”と私は心の中で安堵の息を吐き出した。おじいさんのお灸といい時代劇といい、ひょっとしておじいちゃん子なのかな？

『よっしゃ。こんなもんやな。ネェチャン、終わったで』

「は～い」

　二人は慌てて部屋へと戻っていった。

　コイツにシャワーをかけているとおしとやかが

「あはぁ、こんなにいっぱい……出たのですね。素敵ですわ」

　ちょ！　”とろ～ん”とした目と上気した顔でそんな言葉を出されると、色々誤解されるぞ！

「コイツを冷ましてくるから、あとはごゆっくり」

「ハイ、ありがとうございます。なるべく早く出ますね」