第11話 スリスリ・ワイルド

 いつものように先にコイツをお風呂場へ放り投げてから、ワイルドと二人、いそいそとお着替えする。

 私はこの前着たビキニの水着に濡れてもいいTシャツ&ミニパン。

 ワイルドはビーチバレーの選手が着るような、スポーツブラタイプの水着へと変身した。


「こ、これでよかったかな?」

「うん、どのみち上は脱ぐ羽目になるけどね。あと、最初に身体を洗った方がいいかも。背中も軽くね。その方が背中の垢が浮き出るし」


「マジか! だったらいっそ裸の方が……」

「でも今、中にアイツがいるよ」

「……スマン。ダチを一度、外に出してくれ。先に身体を洗うから」

「りょ~か~い」


 お風呂場のドアを開けると、あからさまにコイツの顔が残念になった。わかりやすいヤツ。

 身体を持ち上げ脱衣場へと運ぶ。


「ちょ、ネェチャンどうしたんやぁ!?」

「あ~わりいな。ダチ公。ちょっと心と身体の準備がな……」

 別に謝らなくてもいいのにな……って暴れるなって!

「どうどうどう、もうちょっと”お預け”してなさい。女子にはいろいろとあるのよ」

「準備やなんて、ネェチャンみたいに”おっぴろげ”で入ってこればいい……」


”ゴンッ!”


「ボディソープの泡は流さなくていいよ。そのままコイツを背中に乗せるから」

『らじゃぁ~!』

”ジャ~!”  

 脱衣所で待っていると、やがてワイルドのシャワー音がドア越しに聞こえてくる。

 う~ん、なんかラブホのベッドで待っている男子の心境だ。

 こういうシチュエーションに男子は萌えるのだろうか?


「へっへっへっ! ワシに抱かれる前にまず身体を洗ってからなんて、かわいいところあるやんけ」

 少なくともコイツには、萌えなんて概念は永遠に理解できないだろうな……。

『よしっ! いいよ~』

「あ~い」

「おっしゃぁ~! 気合い入れていきまっせぇ~!」


 ドアを開けると、ワイルドの顔があった。

 ちなみに私がやってもらう時とは向きが反対だ。

 もしお風呂中に泥棒や変質者が侵入してお風呂のドアを開けたら、一歩でお尻な状況よりはマシだけど。

 いかんなぁ。もしもの事を考えて、これからは気をつけなくっちゃ。


「ちょっと待っててね」

「お、おう、なるべく早く……な」

 コイツを風呂釜のふたの上に乗せてシャワーを浴びせる。

「もう一回背中にソープをかけるね」


”シュッ!””シュッ!”

 ん? 擬音がおかしいって?

 一応、健全な垢すりの場面だからね。


「おう! ”ドピュルッ!””ビュルルル!”っとようさんき散らしたわ! 最近出してなかったからなぁ、溜まってたんやなぁ」

 ……私の気遣いをすべてぶちこわしやがって!


 日焼け跡のついたお尻までまんべんなくソープを塗ると

「それじゃ乗せるね」

「う……うん」

「よっとっ!」

 そぉ~とワイルドの褐色の背中にコイツを乗せる。

「うひゃぁ!」

「あ、ごめん、冷たいって言うの忘れてた。それじゃあ、ごゆっくり」

「お、おう、おいダチ公。最初は優しくな」

「わかとりまっせぇ!」


 そういえば、コイツが浮くことをみんな知ってたかな?

 不思議が投げたカルパスとかをジャンプして食べてたから、そんなもんだと想って欲しいが……。

 そもそもサメを水中じゃなく丘の上で飼っていること自体、おかしな事……なのかな?


 お風呂場のドアを閉めると、今度はおしとやかと不思議の顔があった。

”!”

 驚く私に向かってすぐさま”シィ~~!”と、人差し指を唇に付けた。


『ほんじゃ、まずは前戯ぜんぎからいきまっせぇ~! あそうれっ!』

『ぐぬぬぉぉ!』

 三つの左耳が、ドアへ近づいてゆく。

『ぬああぁぁ~!』

『へっへっへっ! お客さん、こっとりますなぁ~。よいしょっとぉ!』

『な、なんのぉ~これしきぃ~』

『それじゃ、今度はこっちでっせぇ~』

『うおおぉぉ~キタキタキタァ~~!』


 一体、どんな状況なんだろう?

”これは……本当に垢すりなのでしょうか?”

 おしとやかの疑問に私も同意するが、

”……このシチュエーション、聞いたことがある”

”!?””!?”

 意外な所で不思議が答えを出してくれた。


”ウチのおじいちゃんが、お灸をえている時の声にそっくりだ”


””ハァ~!””と、二人同時に何か言いようのないため息を吐き出した。    

 いくらお風呂場で声が反響するからって、うら若き女子大生がどんな声を出しているんだよ……。


『こんなもんやな。ネェチャン、終わったでぇ~』

「は~い」

 慌てて二人は部屋へと戻っていった。


 お風呂場に入ると、ワイルドは放心状態でノビていた。

 こういうのをエッチな漫画でいう、”あへがお”ってヤツなのかな?

「ごめ~ん。ちょっと起き上がって。コイツを洗うからさ」

「お、おう、わりいな」


 マットの上でコイツにシャワーをかけると

「うげぇ! これ全部垢! うわぁ~。本当にこんなに出るンだぁ~」

 計ったように私と同じ反応に、ちょっと仲間意識を持った。 


「コイツの体をましてくるから、あとはお風呂入るなりご自由に」

「あいよ~。なるべく早く出るね~」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る