第4話 すりすりサメ肌

 てか、コイツのお肌、なんかよさげ。

 きめ細かい軽石のような……。


「なぁネェチャン。ワシ、ネェチャンが今、何を考えているかわかるでぇ」

「え? なんのことかなぁ~?」


「ワシの頭と尾びれを持って、背中をゴシゴシ洗いたいんやろ? 他のサメならつるっと滑るけど、ワシの目は出っ張っているから、持ちやすいしなぁ~」

 チッ! コイツ、心が読めるのか?


「別にいいじゃない。アンタただめし食って、人の着替えや裸を見ているんだから、少しは私に奉仕しなさい!」

「オッケーやで。さすがに何もせんのは、ヒモみたいで後ろめたいからな」

 一応、自覚はしていたんだな。


「そんならネェチャン。ちょっとそこに寝てや~」

 そう言いながらふわふわ浮くと、私は空いたマットの上にタオルを敷き、うつぶせになる。


 ワンルームマンションのお風呂場だから狭い!

 当然、足を折り曲げる。

 ええい! これじゃまな板の上のエビだぁ。


「お、ええプリケツやな。こりゃ男がほっとかんやろ?」

「はいはい、ありがとさん。早くしてよね」


「おっと、忘れとった! ワシの体にその石けん掛けて~や」

 ノズルを押し、コイツの体にボディーソープをぶっかける。

 ん? ”ぶっかける”はちょいエロだったかな?


「本当はネェチャンにぶっかけるのがええんやが、ワシらそこまでの関係やないからな」

「ごちゃごちゃしゃべっている暇があったら、とっととやりなさい!」  


「ほんじゃいこうか。あんまりネェチャンをじらしちゃ、男の恥だからな」

 コイツ雄だったのか? てか、あまり気にしていなかったな。


 なんでだろう?


 ”ピトッ!”っと、コイツの腹が私の背中に降りてきた。ちべたい!

「あひゃ!」


「最初はチクッと痛いかもしれんけど、すぐ気持ちよくなるで~」

 半分浮きながら、体を前後に動かして、腹と胸びれを駆使して、私の背中を洗い始めた。


「あひゃ! あひゃひゃ! あひゃひゃ!」

「どうや、ワシのテクニックは? 女泣かせやろ?」


 あ、だんだん背中が慣れてきたのか、いた気持ちいい……。

 細くなったしっぽが”ピチピチ!”と左右に振られ、ちょうど私のもりあがったお尻の肉にあたり、いい具合に洗われている。

 あ~なんかいいわ~。エステやあかすりみたい~。寝ちゃいそう~。


「……お客さぁ~ん、初めてぇ~?」

「そういう話し方はやめなさい!」 

「なんなら前も洗ったるで~!」

「自分でやる!」


 ”マットプレイ?”が終わり、コイツにシャワーを掛けてやる。

「うわ! これ全部、垢? うわ~! サボっていたからかな~」


「ネェチャン、女の美しさは背中に出るんやで。油断していると女子力落ちるで~」

「ははぁ~」

 今、世界でサメに頭を下げているのは、私だけだろうな。


 湯船につかる。

 心なしか、背中に当たる風呂釜の感触がいつもと違う気がする。

”キュッ!”キュッ!”と、洗剤のCMの音がする。


「あ~なんかいつもよりお風呂が気持ちいい~。って、アンタ大丈夫?」


 お湯と水、半々でタオルを湿しめらし、マットの上でノビているコイツの体に掛けてやる。


「大丈夫やで。ネェチャンの裸でのぼせただけや」

「はいはい、”粗品”ですが、喜んで頂いて幸いです」

 そういえばコイツ、”男”って言ってたよな。ってことは、あそこらへん……。


「ネェチャン、あんまりいやらしい眼で、ワシの裸を見んといてや~」

「人のこと言えるんかい!」


 ―― 数日後、大学の教室にて。


「おは~。お! なんか最近お肌すべすべだね。ソープ変えたの?」

「おはようございます。エステにでも行かれたのですか?」

「おい、垢を……スリスリ、したな?」


 三番目が一番近い……かな?

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