第2話 友友デビュー!

 朝起きる。着替えする。


「ネェチャン! おはようさん!」

「……おはよう。やっぱり着替える音で目が覚めたか」

 ジト眼でにらみつけてやる!

「おう! 朝から目の保養やで!」


 朝ご飯食べる。時々、煮干しつまんでコイツの口に放り込む。

「塩水はいいの?」

「ワイのベッドが湿っていたら、それで大丈夫や」

 そのうち家中に塩が吹きそうだな。


「大学行って、その足でバイト行くから、帰ってくるのは昨日みたいに夜になるけど、ちゃんとお留守番出来る?」

「おう! まかせときぃや!」

「煮干し置いておくけど、お昼用だからね。朝の分は今、食べたでしょ?」

「大丈夫や。わし、ネェチャンと違ってドカ食いせんからな!」

 しっかり見てたのか。


 朝から疲れる。ペット飼っている人を尊敬できそうだな。

 まだ日本語で意思疎通できるだけましか。


 大学着く。一限の講義の教室に入り、適当に座る。

(フゥ、とりあえずエサか。煮干し、ツナ缶、サバ缶。いっそイワシやサンマ丸ごとでも……)


 と、そこへ学友達が挨拶してくる。


「おは! お! 朝から物想いにふけっておりますな」

 ちょっと褐色でウルフカットなワイルド系女子。

 スポーツは見るのもやるのも大好き女子だ。


「おはようございます。素敵な殿方でも見つけられましたの?」

 天然っぽい黒髪ロングのおしとやか系女子。

 口を開くと体の周りに花が咲く、お花畑女子だ。 


「おは……よう。ひょっとして……恋?」

 会う度にいろいろな色や長さのヴィッグをつけている、何を考えているのかよくわからない、不思議系女子。

 アニメからゲームまで網羅しているサブカルチャー女子だ。 


「おはようさん」

 おっと、本当に口調がうつっちゃったか?


 まぁ、殿方っちゃ~殿方なのか?

 あとこいではなく、サメなんだが。


「写真……見る?」

「「「おおお!!」」」

 動揺する学友達に私はスマホの写真を見せる。

 中身はあまり期待するな。


「おお~サメだ! 意外と……いけてる?」

「へ、へぇ~。か、かわいい……ですね」

「シュモクザメ……キモかわ」


 『意外と』、『へ、へぇ~』、『キモ』。

 おし! この感想をアイツにチクってやる!


「んじゃ! 今度の女子会はシュモクザメ君の歓迎会だぁ!」

「「おぉ~!」」

「ちょっと、いきなり決めないでよ。コイツがびっくりするかもしれないし!」


 講義が終わり、いつもは時間を潰すけど、早めにバイト先のスーパーに向かう。

 さすがに刺身はまだ安くなっていないし、何よりアイツには贅沢だ!

 イワシやサンマも結構するな。


 お昼は煮干しを置いておけばいいか。生魚を部屋に置いておいたら生臭くなってしまう。

 おっと、あじの開きか……。半分私で半分アイツって手もあるな。

 ……ハァ、何やってるんだろ私。 


 バイトが終わった私は買い物袋と、発泡スチロールならぬ鮭の入っていた一メートルもの長さの木箱を抱えて家路につく。

「拾った猫を飼うから」と、鮮魚のおじさんに聞いたら、発泡だとかじって食べちゃうし、これなら爪研ぎも出来るからと木箱を勧められた。


 おとなしくシュモクザメと言っておけばよかったか……。

 でもまぁ、アイツの牙を研ぐのにもいいかもしれない


 うん、今、鮭の木箱を抱えて家路についている女子大生は、世界中探しても私しかいないと断言できる!


「ただいま~」

 ん? 初めてかな。一人暮らし初めて『ただいま~』なんて言ったのは。

 当然、「おう! ネェチャンおかえり」なんて返事は返ってこない。


 でも声はする。笑い声が聞こえる。

 テレビの音? 消し忘れたかな?

 ひょっとして泥棒? でもアイツがいるし。 


 部屋に入ると


『あんさんなにいうてまんねん!』

『って! そんなわけあるか~い!』


「ギャハハハハハハ!」

 シュモクザメがふわふわ浮きながら、バラエティー番組を見て馬鹿笑いしていました。


「ちょっとあんた! なに勝手にテレビ見ているのよ!」


 人間、二つ同時には突っ込めないんだな。


「おう! ネェチャンおかえり」

「ただいま。って! 私の質問に答えなさいよ!」


 やっと言ったか。


「退屈なんや。テレビぐらい見させてや~」

「まったく~。よくヒレでリモコンのボタン押せれたね」

「胸びれ先は器用ってよく言われるんや!」

 もう一つのことは、突っ込む気すら起こらなくなってきた。


「お風呂に入ってからご飯の支度するから、もうちょっと待ってて」

「ワシも一緒に入ってええか?」

 ん~どうしようか? って、なんで考えるんだ!


「お風呂大丈夫なの? 真水だよ」

「塩水飲むか。ネェチャンの作ってくれたベッドみたいな風にして、水分と塩分補給すれば、雨に当たっても大丈夫やで。昨日は体の中も外もカラカラだったからな」


「ゆでダコじゃなく、ゆでザメにならない?」

「ふるさとオーストラリアの北、ティモール海は暖かいで」


「そう言われてみればそうか。あたしも生臭いのはいやだし。……とりあえず最初はシャワーね。なにがあるかわからないから」

「おおきに~」  


 おい、なに服の上から私の体をガン見しているんだよ!

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