女子大生とサメたちが、上手に暮らす不可思議生活

宇枝一夫

第一部 シュモクザメ

第一章 シュモクザメが配達されてきました

第1話 ゴトゴト出会い


 スーパーのアルバイトが終わって、ワンルームマンションに帰ってきた私。

 宅配ボックスの前を通ると、何やらゴトゴト動いている。しかも私のボックスだ。


 マッサージ器なんて買っていないし、別のマッサージ器も……。

 誰かが悪戯いたずらでなにか入れたのかな?

 鍵を開けると現れたのは、


『いよぅ! ネェチャン! よろしくたのんますわ!』


 体長五十センチほどのシュモクザメ。そう、あの眼が横に張り出しているヤツだった。


 何でかは聞く気が起こらない。

 だって、ここまできたらそういうものと割り切らなきゃ!

 意外とコイツ日本語うまいな。関西弁?


「よくこの中に入り込めたね。眼が邪魔じゃなかった」

「ん~。気がついたらここにおったんや」


「とりあえずそこじゃ風邪ひくでしょ? うち来る?」

 サメって風邪ひいたっけ?

「おう! もとよりそのつもりやで! って! ネェチャン! 尾びれつかまんといてやぁ!」


 図々ずうずうしいヤツめ。よいしょっと。抱えると意外と重いな。

 でもサメ肌って紙ヤスリみたいって聞いたけど、意外とそうでもない。

 かといってヌメヌメしていないし、ちょうどよく持ち運べる。二度とする気はないけど。


 てかコイツ、横に眼が張り出しているからといって、私の胸をガン見していないか?

 ……気のせいか?


 とりあえずクッションの上に置く。もちろん使い古されたボロボロのヤツだ。

「なんか欲しいのある?」

「ネェチャンが帰ってくるまで飲まず食わずなんやぁ~。なんか食わしてやぁ~」

 とりあえず冷蔵庫や引き出しをあさる。


「飲み物は塩水として、サメが食べられるものなんてなにもないけど……煮干し?」

「食べられたら何でもええで」

 本当はサバ缶があるけど、とっておきだから隠しておこう。


 菜箸さいばしを使って一匹ずつ口に放り込む。煮干しも高いんだぞ。

 ん~。サメだけあって口の中意外とグロいな。


 海水の濃度は水一リットルに塩三十グラムぐらいか……500mlペットだと15g、大さじ一杯。

「水道水でも大丈夫?」

「あまり気にせんでもええで」 


 ペットボトルに水を入れて、大さじ一杯の塩を入れて、ふたをして、シャカシャカ振る。

「塩水はこんなモンかしら? 薄かったら言ってね」

 あごの下に手を潜り込ませて持ち上げて、開いた口にペットボトルでつくった塩水を流し込む。


「グブグブ……おう! いい塩梅あんばいだな」

 サメって『塩梅』って言葉知っているのかな?


「ネェチャンもなかなか泣かせるやん。この塩は故郷オーストラリアだな」

 ふと『宗方むなかたの塩』のパッケージを見る。当たってる!

 やるなコイツ。って、クッションが。


「あ~あ、こぼしちゃって。あと、おしっこしたくなったらちゃんと言うのよ」

「あぁ、その点は大丈夫や。俺らサメはそんなモン、しないからよ」


「本当? なんか思っていたのと違うな。うち水槽ないからお風呂に水張るけど、あたしもお風呂使いたいからな……」

「そこまでネェチャンの気を遣わせられまへん。さっきの塩水を体にかけてくれりゃ、何とか生きられるからよ」

「わかった。なんとかしてみるか」


 とりあえず引っ越しの時に使った段ボールをぶった切って、ビニールテープで二つくっつけて、底にゴミ袋を敷き、おろしたての手ぬぐいにさっきの塩水を浸し、中にく。これでおうちの完成なのだ。


 んで、その中にシュモクザメを置く。

「どう? 塩水足そうか?」

「おう! なかなかいいな! 乾いたお肌もしっとりうるおっとるわ!」

 本当か? 今度乳液の代わりに塩水塗って……ンな訳あるか! 

 アカン、一人ツッコミしてもうた。


「でも、ネェチャンのパンツが見えんから、ちょっと残念だわ」

 やっぱりコイツ覗いとったんか! おっと、口調が映っちゃったみたい?

 まぁいいか。犬や猫と思えば。


 とりあえずうちがペット可でよかった。

 もっとも、サメをペットと呼ぶかは私の知ったこっちゃ~ない。


 ハァ~疲れた。とりあえず明日、バイト先のスーパーでエサの買い出しと、こいつのベッドにする発泡スチロールでももらってくるか……。

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