第10話 雨竜襲来
シャーッと軽快に自転車を走らせながら考える。
さっき聞いた話では、俺以外にもスキルを覚えた奴がいるっぽい。
道も混んでおらず、なかなかの快晴ではある。だけど俺は仏頂面だ。
「なーんか友達が出来そうな雰囲気じゃねーな」
そう呟き、ペダルをこいだ。
あの日の事件では未曽有の犠牲者が出ており、世間はまだ混乱をしている最中だ。ひょっとしたらその内の何人かが「目覚めた」かもしれない。そして職質しようと接触した警察がヤバい目に合わされた、か。
もちろん「俺だけの力だ。俺が神だ」とまでは思わない。だけど変な力に目覚めたからって、そんなに豹変するものか? たぶんそういう奴は元からヤバい奴なんだと思う。漫画やゲーム、アニメの影響を受けて……と報道されている奴らとあんまり変わりはない。
しかし不思議なのは、これまで魔物と戦った際、そういう奴らと出くわさなかったことだ。魔物を見つけて倒したりしないのかな、そいつは。
案内くん、俺以外の能力者もサポートしてるんだよね?
《 この世界線にたどり着いた
あ、そうなのー。
ちょっと可哀想になったな。こいつがいないと魔物の出現場所も分からなかったしさ。だからか、今まで出くわさなかったのは。
幸運だと喜ぶべきか、俺みたいなブッ飛んだ奴と組まされたコイツを可哀そうにと思うべきか。ああ、両方とも正解だったな。
ま、それはともかく魔物素材の加工だ。
部屋のベランダに出て、しゅわーと生産の煙を吐き出す。どこのホタル族だっつー話だね。
補充用の
盾かぁ……。地味くさいな。
持ち歩くのも邪魔そうだし、職務質問待った無しだ。そういや剣もそうだけど、バイクがあったとしても堂々と持ち運ぶのは気がひける。
剣はそれっぽいので包めばいいけど、盾はなぁ……。
だけど前の戦いでスゲー痛い思いをした。もしあそこで盾があったらどうにかなっていたか?
いや、分からん。でも武器以外に防具を整えたいのは確かだ。
流石にゲームみたいな金属鎧は嫌だけど、そもそも生産リストに「鎧」は加わっていないので選択肢以前の問題だ。
こういうとき攻略本でもあればなぁ。リセットも出来ないんだし、どんな出来上がりになるのか事前に知りたくてたまらん。
むー、スキルレベルも上げたいし、試しに作ってみるか。いらなければ河原にでも捨てればいいしな。
そう気軽に考えて
昼間のベランダで大量にモクモク煙が出るのは……顔面蒼白ものですね!
ごめんなさいごめんなさい、次からちゃんとした場所でやるから、通報だけはしないでください! 火事じゃないんです!
《 成功率81%の魔石加工に成功しました。
ドッドッと心臓がうるさいなか、ようやく鍛冶は終わったらしい。けど、想像してたのとなんか違う。
「黒い革の……穴あきグローブ? なんだこれ」
買った後は装備しないと効果ないぜ!という村人Aの助言を思い出しながら左手に着けてみる。
すると、目の前に変な物が浮かんだ。六角形の黒い鉄みたいな奴。大きさは二つ折りの財布くらいで、それと同じくらいの厚さだ。それが手の甲の10cmくらい離れた場所にふわっと……えー、なにこれー。なんで浮いてるのー?
このグローブを追っている、とか?
試しに指を握ってみると、カシシシッ!と他の部品も合体して……えぇーー、なにコレぇーー!
六角形の部品が、指を握ると盾として合体するらしい。使った素材は計9個。この部品も同じ数だけあって、ぴったりと隙間なく合体をする。
グローブをつけると部品がひとつ手の甲あたりに浮き、指を握ると地面から他のがスッと浮き出て、ややカーブを描いた盾に合体する……という代物らしい。
だけどこのカシシシッ!って合体音がさ、めっちゃ気持ちいい! うあっああっ、クセになるーっ! 待って待って、思ってたのと全然違うけど、これカッケーよ!
ギズモってばすごいじゃん。ゴミ虫だの何だのバカにしててごめんね。素材として見るとピカイチだ。
《 同じ素材を集めると、盾の範囲も広がります 》
集める集める、山盛りで集めちゃう! 弾だってもっと欲しいしさ! 今夜からギズモ狩りだ! 楽しみ過ぎるよーー! んぎょおおー!
ピンポーン♪
などとバタバタしていたら、ようやくネット通販からのお荷物到着だ。
これがまたサバイバル用品とかがたくさん入っててさー、非常ぉーに男心をくすぐるんだわ。何万回も火を起こせるメタルマッチとか、川の水を飲める道具とか寝袋とかナイフとかそういう奴。えへへ、調理器も買っちった。
よーし、今日はずっと検品しちゃうぞ!
あれ、なんか俺、仕事していたときより大充実してない? などと思いながらムクリと身体を起こす。
例えるならゲーム機を揃えてから夏休みを迎えたような気分だ。それだけでなく快食、快眠、快便というすこぶる体調の良さ。
《 レベルアップに伴い、あなたの身体も強化されています 》
あ、そうなんだー。言われてみるとちょっと身体が引き締まったような気が……する? かなぁ。鏡でチェックなんてしないから分からんが。じゃあひょっとしてだけどテンションが高いのもそのせい? 毎日楽しくて仕方ないんだけど。
《 いえ、そんな人はこれまで聞いたことも…… 》
なぜいまドン引きした?
まあいいか、精神的に操作されていたら嫌だなーと思っただけだし。なんとか耐性を獲得しましたーとか聞くたびに、ちょっと気になってたから。まあ確かに俺は元からポジティブだしな。
そう思いながら大量に出たゴミを透明袋にまとめ、タンクトップとサンダル姿で外に出る。俺の知らない世界、平日の気だるい午後ってやつだ。
ゴミ収集所に向かって歩きつつ、これからの予定について聞いてみる。
案内くん、次の魔物はどこに出るの?
《 視覚リンクを完了した為、後藤の網膜に直接投影します 》
へえ、そんなこと出来るんだ。すごいなぁ、ハイテクだなぁ案内くんは。
なんて感心している場合じゃなかった。ぱっと映し出された近郊マップに「おほ、スゲー」と感心したのだが、そこには5つもの光源があったのだ。それぞれ時刻が異なるのは……どさっとゴミを落としながら、俺はじっとりと嫌な汗をかく。
参ったな、今夜からは複数箇所にモンスターが出没するってのか。
「はやくバイクが届かないとマズいな。深夜2時なんて場所もあるし。うーん、だけどギズモなら幾らでも素材が欲しいし順に回るか」
まだ明るいし夜までは時間がある。
しかしこのペースでは、すぐに俺一人では狩れなくなるだろう。今夜頑張ったとしても、明日はどうなるか分からない。希望的観測なんて打ち砕くシビアさだ。
そろそろ刑事のおっさんにタレ込むのを真面目に考えないといけない。でないと何の準備も無いままモンスター退治の仕事があいつらにやって来る。
「身バレしたく無かったけどね。ま、しゃーない。携帯、携帯……」
と、ポケットを漁っていたとき、誰かが近づいて来ることに気づく。そいつは黒髪を背中まで伸ばした奴で、やけに生意気そうな顔つきをしていた。
「……先輩、いつになったら携帯に出るんですか」
「あれっ、昼間っから私服でどーしたの?」
「有給休暇を取りましたよ! 後藤さんと連絡がつかないものだから!」
殺気がすげぇ……。
こいつは会社の後輩であり、俺が殺人鬼から守ってやった奴であり、有休を使ってまでやって来る
へらりと笑いかけると、反比例するように雨竜の眉は逆立った。
「俺、プライバシーを大事にしたいんだよね。ほら、分かるだろ。何があっても守りたい物って奴が」
「電話、出ろ、テメエ」
俺は首を絞められた。
おっかしいなー、命の恩人じゃ無かったの?
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