第8話 ギズモ再来

 さて、なんであんな公園に居たかというと、次の魔物発生場所とやらが近かったのだ。面倒だしちょっと怖いから放置してもいいんだけどさ、俺のレベルアップと素材収集を考えるとちょっとなぁ。後々詰むわけにもいかないから、倒せる奴は倒しておきたい。

 今後、そのような退治を考えると乗り物がどうしても欲しかったので、先程はバイクを物色していたわけだ。


 ダンボールの筒を脇に挟んで、いまは川沿いの小道を歩いている。もう辺りは真っ暗で、たまーに犬の散歩をする人とすれ違うくらいだ。

 痴漢に注意という看板も、いつか「モンスターに注意」に書き換わるのかね。知らんけどさ。


 虫の鳴き声を聞いていると、足元を何かが駆けていった気がした。

 あー、昨夜も見たなぁ、これ。などと思いつつ、俺の散歩コースは河原行きに変わった。

 昨日はけっこう怖かったけど、やっぱり人間は逞しいね。もぞもぞ進むイガ栗の後を、犬の散歩みたいに追いかけるなんてさ。それは俺が特殊なだけかもしれないけど。


 ざり、ざり、と砂利道を歩く。

 すぐに目当てのものは見つかった。橋の下、雨風を避けるようにして「巣」があったのだ。

 慌てず騒がず筒状のダンボールから、すらりと得物を取り出す。さっきは慌てていたからちゃんと見れなかったけど黒いんだな。ナタというかドスみたいな形だけど、すこしばかり刀身も柄も長い。


 うん? 人差し指のあたりに丸い輪と、引き金みたいなのがある?

 あと気になるのは、背に溝があって、それが真っ直ぐ先端まで続いていることかな。日本の刀などと違い、驚くほど綺麗な直線だ。かっけーー。


 さて、装備をするとまず知りたくなるのはこれだろう。

 案内くん、ステータスと説明文を見せてくれる?


闇礫の剣バレットソード:魔虫ギズモから生み出された武器。飛翔、貫通という特性を持ち、溝を沿って発射される。有効射程距離50メートル。職業「狙撃士アサルト取得により能力向上 》



◆後藤 静華しずかのステータス


 ・レベル:3

 ・職業 :鍛冶士ブラックスミスLV3

 ・HP  :24

 ・MP  :5

 ・攻撃力:16《7》→41《7》

 ・AC  :3《2》

 ・MC  :0

 ※カッコ内は武器防具を無視した数値

 ※AC=アーマークラス。対物理耐性。

 ※MC=マジッククラス。対魔術耐性。


 おげえ、剣の攻撃力がたけえ。

 まあ比較対象が薪割り用の斧だしなぁ。一応と持ってきているけど、本当に薪割りにしか使わなくなるかもしれん。それに射程50メートルという性能は非常に気になる。安全な位置から攻撃できるのなら、かなり期待できるぞ。

 などと思っていたが、とある事に気づいて俺は歩みを止めた。


 飛び回っている奴らが妙に多いなー、なんて思っていたけど……よく見たら「巣」が2つあるじゃん! しかも片方がちょっと大きい気がするのは、遠近法的なアレ?


《 レベル2とレベル5のギズモです。周囲に死骸が散乱していることから、捕食を行ったと推測されます 》


 捕食という言葉にギョッとし、遠くから俺は観察をする。

 確かに近くには小さな死体が転がっているようだけど、たぶんあれは人じゃない。ネズミや鳥みたいな動物だ。

 ほうと安堵の息を漏らしつつ、倒し方についてじっくりと考える。


 昨夜、俺は苦戦をした。

 死ぬかもしれないと思ったし、下手したら死んでいたと思う。急所をザクザク刺されて、あの警察官たちみたいに……って、たぶんあの人たち、死んだよな。頭を刺されていたんだから。

 なので今回は対策をしっかりと練ってから攻撃をしてみたい。いつまでも怖がっているわけにも行かないしな。ちょうど今回は新しい武器もあるので、さっそく試してみたいところだ。


 草薮にしゃがみ込み、対象を睨む。

 距離は50メートルも無いと思う。でもこの先に近づくと、気づかれそうな気もする。ただの勘だけどさ。


 この剣は遠距離攻撃が出来るらしい。じゃあ試してみよう……の前に、ピンと来た。巣が2つあるけど、直線上に重ねたら両方とも貫通できるんじゃね? 俺って頭いいーー。

 そうと決まれば移動開始だ。なるべく音を立てないように、そろそろと。


 うーん、この辺りか。

 溝に沿って発射されると言っていたけど、たぶん剣の背に刻まれている奴だよね。これを真っ直ぐ向こうに向けて……おっ、柄が長いのはストック替わりってことか。さっきの丸い輪のところが引き金ね。ふんふん、なるほど。ライフル銃と同じ感じなのか。


 あとは狙って撃つだけで……緊張するな。エアガンではかなり遊んだけどさ、これって長筒があるわけじゃないからどう飛ぶかも分からない。さっきの攻撃力を見る限り、斧の3倍弱の火力があるらしいし、間違っても人に当てられない。

 でも昨夜見た限りだと、奴らの縄張りは2~30メートルくらいだった。つまり反撃を受けない可能性も高い。


 とりあえず一発……引き金を絞った。

 その後の光景は、すこしばかり俺の予想と違っていた。ビー玉くらいの大きさの奴が溝に沿ってシュカッ!と火花を散らし、夜の河原に放たれる。

 それから弾丸は無数のトゲを広げ、シュバーーッ!と回転をしながら加速をしたのだ。


 ブヒュルーー…………ッ!


 なんかこういう花火が無かったっけ。プロペラみたいなのが付いてて加速するやつ。

 などと考えていたら……外れた。くっそ、よく分からん飛び方をしやがって。


 壁に残された黒い染みを見るに、直線というよりだいぶ落ちる感じか。射程距離ぎりぎりだったから、ある程度は勘で合わせないと駄目だな。


弾丸バレット数、残り5発です 》


 あれっ、これ残弾数ありなの!?

 そういえば昨夜、見つけた素材は6つだったか。するとあれが弾丸みたいな物なのかな。うーん、分からん。分からんが、辺りをブオンブオンと飛び交い始めたのは昨夜と同じだ。

 まさかなぁ、仲間の死骸から攻撃されるとは夢にも思わなかったろう。昨日の友は今日の敵なんだぜ。


 ではもう一発、と軌道を勘で修正しながら打ち放つ。

 同じようにバシュルーー……と河原に響き、バッ!ボシッ!と小気味の良い音をたてて、2つの「巣」に拳大の穴が開く。やったぜ。

 角度が変わったらしく、もう片方に当たったのは端っこだったけど。


 しかし以前と比べると恐ろしく楽だ。

 レバーらしき物を引くと弾が装填されるらしく、がしゃんと気持ちのよい音を響かせる。

 敵もあちこち探しているようだけど、射程距離外らしく見つからない。やっぱ魔物はアホだわ。


 ――シュカッ!


 三発目を吐き出すと、今度は巣の根本あたりに大穴を開ける。その瞬間、半数たらずの魔物たちが地面に転がって行ったので、たぶん小さい方を倒したのだろう。

 ヤバい、楽すぎる。 鍛冶士ブラックスミスを職業にしておいて本当に良かった。それとごめん、ロングアックス君。君は今から薪割り専用になったから。


 レバーを引き、狙いを定める。

 昔はこの手のサバイバルゲームに散財してたから、姿勢とか狙いとかお手のものなんだよね。ただプロペラみたいに飛んでくから風の影響もありそうだ。今夜が無風だったことに感謝するしかない。

 それよりもゴミ虫くん、君たちの死骸は俺の弾丸バレットとなって役立つから安心するんだぞ。ヒャッハー、リサイクルの始まりだぜ。


《 称号、無慈悲な狙撃手スナイパーを取得。相手から見つかっていない時に、ダメージボーナスが発生します 》


 あ、なるほどね。称号ってのはプラス効果なのか。今でもかなり火力があると思うんだけどねぇ。ロングアックスの3倍以上あるし。

 まあ、さらに俺が有利になったというわけで。そして相手は巣だから動くことも逃げることも出来ない。可哀想にね、うふふ。


 ――ばずッッ!


 撃ちだすと同時に、右手から何かが来る気がした。すぐさま身体を傾け、嫌な感じがする場所に腕を差し出す。

 ブスススッ、と嫌な音と共に激痛が。グオッ!という悲鳴を思わずあげる。見ればイガ栗の大きいやつが一匹、さらにもう一匹が俺の腕に刺さった。


 いっでええーーっ!

 前言撤回、ロングアックス君にも活躍してもらうわ。地面に押しつけて相手を固定してから、横に置いていた斧を掴む。そしてグシャグシャと容赦なく叩き潰した。黒い体液が流れ出ると、奴らは腕に刺さったままブランと垂れる。

 グウウーーッ、指が震えるほど痛い!


《 痛覚耐性LV1を獲得しました 》


継続治癒リジェネーション――はやっぱり止めだ。このまま狙撃をする」


 すげー痛いし、今すぐに癒やしたいよ? 幾つも穴が開いてるんだもん。

 でもさ、そうしたら前みたいにブシャーって煙が出て、居場所を知られてしまう気がするんだよね。だったら倒せ。それから治そうぜ。


「いい加減、死ねよゴミ虫がッ!」


 吐き捨てながらも冷静に狙いをつけ、発射をする。

 既に相手は死にかけだったらしく、その一発を受けて四散をした。汗を流しながら、ふぃーーっと俺も息を吐いたね。


《 格上に 勝利し、チャレンジが成功しました。ポイントと経験値にボーナスが与えられます 》

《 シズカのレベルが4に上昇しました! 》

《 シズカのレベルが5に上昇しました! 》

《 ジョブ候補に【狙撃士】【剣士】が追加されました 》

隠密ハイドレベル1を獲得しました 》

《 暗視がレベル2に上昇しました 》


 うん、昨日と似たような案内アナウンスだ。

 ちょっと強めの敵と、さらにもう一体を倒したから2つ上がったらしい。


「いででー、それよりも、継続治癒リジェネーション素材回収コレクトだ」


 くるんとアイコンの砂時計が引っくり返り、みるみるうちに穴だらけの腕を癒してゆく。やはりブシューと蒸気が出てきたので、戦闘中に使っていたらかなり目を引いていただろう。

 血の跡も消してくれるとなー、マジでありがたいんだけどなー。


継続治癒リジェネーションがレベル3に上昇しました 》


 続いて、ギズモたちの「巣」や死骸たちが明滅をする。青白いラインを引いて、それは俺の手のなかに吸い込まれた。

 魔石がひとつ。それと角砂糖みたいな奴が……えーと、18個か。落っことしそうだから鞄に入れておこう。

 5発ほど撃って、18個のリターンならまずまずだ。


素材回収コレクトがLV2に上昇しました 》


 おっ、こっちも上がったか。スキルレベルが上がると高レベルの相手からも取れるらしいから、将来的に役立ちそうな気もする。分かんないけど初期から使えた方が良いかもね。


 さらさらという川の響きが聞こえてくる。

 闇を払うようにして、先程までの光景が変わった気がしたんだ。どこか気持ち悪い雰囲気だったのに、今ではごく普通のお散歩コースでしかない。それが不思議で、俺はしばらくこの景色を眺めていた。


 血だらけの服を着て、剣と斧を持ってる怪しい奴だけどな!

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