第94話 瑠奈side



「あの女?」

「はい、異能力者狩りに居たその娘の事。ルシオラさんは親の敵(かたき)のように、凄い目で睨んでましたし、その娘と何かあるのかなって···」


瑠奈は異能力者狩りに味方をしていた、異能力者の少女の顔を思い浮かべる。完全に殺し合いとも言う殺伐とした場所に、和風の巫女を思わせるような服を身に付け、少し指を触れただけで壊れてしまいそうな、危なげな雰囲気を放っていた少女。ルシオラは睨み付けていたと言う瑠奈の言葉に、一瞬だけ眉をしかめ目を丸くしたが、すぐに元の無表情に戻り顎に手をあて、考える仕草をしつつ瑠奈の顔を見ながら口を開く。


「···そうだ。あの女は異能力者でありながら、異能力者狩り集団に属し、何人もの同志を生かしたまま対象の心を。能力者の自我だけを破壊し、次々と生きた屍に変えてきた。君はその女の扱う能力を知っていると言っていたな」

「ええ。精神干渉を主にしているウチの一家でも、珍しい能力です。私の異能力は具体的に説明すると、自分の精神感応力と思念を使って、対象の精神の内部に直接干渉します。干渉中は私は完全に意識を失って、当然無防備になりますし。直接干渉すれば相手の精神だけでなく、当然自分の精神にも何らかの影響を及ぼすんですが、あれは······」


精神干渉系の異能力でも、対象の精神だけを壊す能力を見るのは始めてだ。琳は通常の異能力者が持っている精神感応を、更に強化し効果範囲も広く、対象の精神世界にまで干渉出来る非常に精度の高いもの。茉莉の能力は生き物や物まで触れるだけで、効力範囲でもある十年前位迄の記憶なら、ありとあらゆる様々な記憶を読み取る事が出来る。そして瑠奈の能力は今、ルシオラに説明した通りのもの。自分の能力を使っている最中、瑠奈は対象の精神に直接干渉するので意識を失い、能力を使っている間は完全に無防備となってしまう。ぶっちゃけ瑠奈の能力自体が、とても戦いで使えるものではないのだから。


「私は自身自分の能力が、相手次第で危ないって事は嫌と言う程理解しています。力の制御自体は子どもの頃から、同じ力を使う両親に叩き込まれましたので」

「···だな。能力者は力の制御方法を、予め叩き込まれている者も少なくない。特に先天的に異能力を持って生まれたのなら尚更だ。君の話を聞く限りでは、能力を使う度に意識を失うのであれば、死の危険がつきまとう戦いの中で、おいそれと自分の能力を使う訳にもいかないだろう」


精神干渉系統の異能力は、使い方を誤れば自分自身の精神にも影響を及ぼす。瑠奈は同じ力を持つ母親へ、幼少から耳が痛くなるほど聞かされたし、制御も念動力の基礎から存分に叩き込まれた。


「それに彼女のあの能力の使い方···あれは相当、脳の神経に負担掛かっている筈です。正直あんな能力(ちから)の使い方をしたら、絶対に身体が持ちません」


精神破壊の異能力を使う彼女は、まるで能力の制御が出来ていなかった。あのような外部から些細な刺激を受けただけで、能力が暴走する使い方では、脳への負担も尋常ではない筈だ。瑠奈もまた泪の精神世界に干渉しただけで、泪の深層心理下の精神に影響を受けてしまい死にかけたのだから。



「あぁ。敵である相手に疑いたくはないが、奴らは能力者が常に力を全力で出させるよう、あの女の精神を意図的に不安定な状態に、仕立てあげたのかもしれないな」

「まさか···」


「異能力研究所では念動制御や暴走実験など、異能力者ではない者の手で、安易に異能力を制御出来るかどうかも行われていた。異能力は己自身で思念を制御出来なければ、当然能力が暴発し念能力の暴走にも繋がる。過酷な能力実験で精神が不安定になり、力を抑えられず暴走した能力者も少なくはない。研究者達は実験で不安定になった、異能力者の脆弱な精神の隙を付け込み、内から彼らを支配していく。そんな精神の脆さにつけ込まれた異能力者は、研究所から与えられる過度の強迫観念、一種の洗脳状態に陥っているようなものだ」



意図的に脆弱な精神を作るとの発言に、なんとなくだが納得がいった。これは瑠奈個人の憶測でしかないが、彼女は異能力者狩り達に意図的に精神を脆くされているのだろう。


「···それなら茉莉姉にも、この状況の事を連絡しても良いですか? とりあえず私が、精神干渉の能力について話せるのはこれだけです。茉莉姉だったら、私以上に精神干渉の能力の事知ってるから、もっと詳しい話が聞けるかも知れません」

「わかった···。こうなってしまった以上、君の家族にも私が裏で手を回して協力してもらう。君がファントムに居るのも、【聖域(サンクチュアリ)】に所属している彼女に、長い間隠し通せるものでないからな」


瑠奈個人で精神干渉系の能力については、話せる情報にも限界がある。精神干渉系の能力の事はやはり、瑠奈以上に普段から能力に使いなれている茉莉に聞くしかない。茉莉ならばルシオラとも直接面識があるし、親族が持ってる能力や内情に関しても、もっと詳しい情報が聞く事が出来るかもしれない。何よりも、もう数日以上茉莉達とも連絡がついてないだろうし、今連絡すれば確実に家族には怒られる。とは言え、異能力狩り側に精神干渉系統の能力者を見かけたならば、もう四の五の言っていられなかった。


「それから、言いそびれてしまったが。赤石泪を半ば強制的にジョーカーへ参加させた、宇都宮一族もある事情が原因で追い込まれている」

「追い込まれている?」


あの宇都宮一族が追い込まれているとは何事なのだろうか。自分達の財力と理不尽な権力で、数々の無関係の人間を叩き伏せ犠牲にしてきた強欲な一族が、誰かに追い込まれている姿など想像が出来ない。


「己に楯突くものを手段問わず、全て自らの権力でねじ伏せる事が出来る一族が、追い込まれる原因となるのはただ一つ。宇都宮一族本家には『異能力者』がいる」


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