第55話 ルシオラside



―···。



「···やはり宇都宮家が、関わっていたのか」


伊遠の言っていた情報は事実のようだった。以前聖域が管理していたであろう、『聖女』と呼ばれる異能力者を育成する施設である『箱庭』を、悪質な手段で買収。その施設に居た、聖女候補の異能力者達全員を何らかの形で壊したと。一部の候補者達は箱庭が買収される前に宇都宮の手を逃れ、その聖女候補者の中に赤石泪の親族が居たと聞く。


宇都宮の一族は現在も、自分達にとって都合の良い『道具』を作り上げる為、裏で複数の施設を買収・自らの管理下に起き、自分達の手駒となる『道具』を作りあげる為に、異能力研究所の異能力者への実験と勝るに劣らない非人道的手段を使っていると。


「まだ行われているとは···」



―【ジョーカー】。



一般社会では決して知る事のない、裏社会にて行われているギャンブルと言う名の殺人ゲームだ。表面上は違法取引として取り締まりが行われているが、実際は賭け事だけでなく殺人すらも安易に容認され、ゲーム内では考えられない大金も動いている。表社会では決して味わえない刺激を求めるべく、この殺人ゲームの存在を知った国内外政府の要人や裏社会の人間達の間で大いに賑わっている。


この非人道なゲームには、異能力者や非異能力者は一切関係なく、運営から無差別に選抜された者が参加させられている。中には犯罪組織や異能力者勢力とは、全く無関係の一般市民まで無理矢理参加させられ、そのまま行方不明となった者までも居る。


しかしゲームの勝利者には、日常の生活の稼ぎでは考えられない程の、莫大な賞金や裏社会での高い名声が手に入る。異能力者への迫害の末に、裏社会でしか生きることしか出来なくなり、どのような手段でも己の存在を認めて貰いたいが故に、積極的にゲームへ参加する異能力者も後を絶たないと聞いている。


【ジョーカー】には幽閉時代。異能力実験の一環として、ルシオラも一度だけ参加した事がある。このゲームを生き残って知った事は、ゲームのルール以前に異能力の存在すら知らない、一般の人間すら混じっていた事が一番大きかった。


無理矢理連れてこられたその参加者は、当然ゲームの参加を拒否した為に、残りの参加者への見せしめとして最初に命を落とした。その参加者は参加者に殺されたのではない、ゲームの参加者は予めある首輪を付けられる。付けられた首輪は、遠隔操作式超小型爆弾が仕込まれた特別製。参加者は運営のルールに背いた為に首輪に仕込んだ爆弾を、運営が遠隔操作し参加者は殺された。


ゲームを生き残り何度も参加している者の間で、大きな噂になっていたのが当たれば最後。そのゲームに参加した者は、決して生きて帰る事すら叶わない『殲滅者』として、広く名の知れていた最強にして最悪のプレイヤー。まさかその『殲滅者』が赤石泪の事だったとは。


そして過去のゲームデータに記載されている『もう一人の真宮瑠奈』。今ルシオラが接している【真宮瑠奈】ではなく、彼女と深く関わった事で赤石泪は完全に壊れてしまった可能性が高い。そして彼女は既に『殲滅者』としての泪自身の手で殺されている。


その宇都宮家も『殲滅者』と化した、赤石泪の度重なる暴走を放置した事で、ある人物の引き渡しを求められ既に後がなくなっている状態だと。



「ルシオ、此処にいたのか」



聞き慣れた声に気付き振り向くと、いつの間にか入り口で玄也が立っていた。隣には武器を持ったままのクリフもいる。ここに来る途中何かあったのか、数時間前に乗っていた車には何故か乗っていない。


「どうした」

「最悪の事態だ。やっぱり充がウチの組織の情報を横流ししてやがった」


充が自分が結成した組織を利用して何かを企んでいる。これまでの伊遠との何度かのやり取りで判明したのは、玖苑充はどこか別の組織と繋がりを持っている事。伊遠の離反の件もあって、充のスパイ疑惑を今伝えるのは危険と判断し、ルシオラ自身が信頼出来る一部の者にしか伝えていない。


玄也達にも情報収集を協力して貰い、一刻も早い充への対処と今後の対策を練ろうと思索していた所、既に取ってやられたと。相変わらずルシオラの表情に変化はないが、感情は伴っている故に眉を歪ませる。ファントムを離反した伊遠には、間接的に協力して貰っていたとは言え、やはり充の方が一枚も二枚も上手だった。


「何処へ」


組織全ての構成員が異能力者だけ故に、流される場所は大方の予想は付いているが、ルシオラはあえて質問する。


「異能力者狩り集団・ブレイカーは予想通り。後ファントムの情報を流してた所はもう一ヶ所·········政府だ」


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