第56話 瑠奈side
―午後三時半・水海家リビング。
「お待たせ」
「先輩、おじゃまします」
瑠奈達は水海家のリビングに集まっていた。彼女の家に訪れたのは瑠奈を始め勇羅や麗二、琳と芽衣子と言ったいつもの面々である。今回ばかりは事情が事情な故に、学校の視聴覚室のパソコンで検索するのは難しい。昼休みに友人達と食堂のテラスで食事していた京香に事情を話し、放課後に水海家のパソコンを使わせて貰うことになった。
「ウチの事務所が使えたら良かったんだけどね···」
いつもの探偵事務所が使えない事に、京香は思わず瑠奈達の手前にて苦笑する。現在居候と言う形で泪が住んでいるが、事務所の所有権自体は水海家である為、水海探偵事務所のパソコンを使えば一番手っ取り早い。だが今住んでいる泪にバレる危険も高く、もし証拠を消しても精密機械に詳しい泪の事だ。和真仕込みのプログラムやハッキング操作を駆使し、閲覧履歴やログと言ったシステムデータなど根本から掘り起こされ、あっさり復元されてしまう。
京香は自室から持ち出して来たノートパソコンを起動した後、手早くブラウザを開き、瑠奈や勇羅達の聞いた情報をたどりながらキーを打ち込み慎重に検索する。学園や財界に関連するワードを検索し続けていると、ある一つの村の情報が表示された。
「何? 暁村?」
「あまり聞いたことない村の名前ね」
勇羅や瑠奈達の検索行動を手伝っていただけで、先程までずっと黙っていた麗二が口を開く。
「······俺知ってる。地方にある人口約三千人程の何とかの土着信仰が、古くから習慣のように練り固まってる寒村だ。数十年前から隣町との合併問題で町の議会と村全体が揉めてるんだが、その度に外部からの圧力が掛かって、村の合併そのものが何度も見送られてる」
隣町と村との合併が見送られているという麗二の話を聞いて、京香もまた何か思い出した様に話し出す。
「待って···。この村過疎化が進んでるにも関わらず、隣町との合併が出来ないのは宇都宮が関わってるって噂」
「へ? なんで宇都宮家が地方の寒村に関わってるの?」
「んー···そこまでは···。だけど暁学園はこの村の中にある筈よ」
暁学園と聞き麗二が再び口を開く。
「···暁学園生徒会長・宇都宮小夜。一年で在りながら生徒会会長の座に付く『白百合(しらゆり)の君』であると同時に、暁学園の全てを牛耳る影の支配者」
「ちょ、また宇都宮ぁ?」
宇都宮の名前を聞きその場にいた全員がまたか、と言うようなウンザリとした顔になる。唯一宇都宮家の現状を直接知らない芽衣子も、瑠奈達の表情を見て色々察したのか深刻な表情になる。
「つーか。奴ら本当になんでもアリだね」
「あの件以来。宇都宮夕妬の方もまだ見つかってないってさ」
あの事件から数週間経つが、依然として宇都宮夕妬の行方も分からない。あれだけの犠牲者を出し、更に東皇寺学園の悪行が全国的に曝され、学園全体が社会的な制裁を受け、来年三月で廃校が決まったも同然の状態にも関わらず、『彼と宇都宮一族』だけは何の制裁も受けなかったのは全くもって腹立たしい。
「本家の連中はあれを囲ってた分家を、実際は相当嫌ってたものね。例の一件であれだけ息子が好き放題やらかしたんだし、彼も今は安易に表へは出られない筈よ」
「あの上から目線の偉そうな態度だと、また裏で悪いこと企んでそう」
「同じ東皇寺の三年の娘にやたら執着してたからね」
友江継美の事は二学期から、別の学園へ転校が決まった二羽から電話で噂を耳にする程度だ。なんやかんやで宇都宮の手から保護されたが、彼女自身は元々の不眠症だけでなく拒食と失調症。更に度重なる自傷行為の悪化も相まって、遂に精神病院への入院が決まったと聞いた。
妹の芙海もあの状態では手遅れとも思われていたが、医師に勧められた専用の医療施設での適切な治療により、何とか一命は取り留めたらしい。しかし薬物による中毒症状だけでなく、両親の過剰な過保護と姉が側に居ない環境が返って悪循環となり、現在も病院の入退院を繰り返している。あの出来事で夕妬が周りに与えた傷は余りにも大き過ぎる。
「···鋼太朗が言ってた。宇都宮小夜は自分の家族と関係あるって」
以前鋼太朗や泪と家族の事で話をしたのを思い出した。後は泪から又聞きした程度だが、鋼太朗には両親と弟の他に腹違いの妹···宇都宮家に親族が居ると。そして鋼太朗を含め鋼太朗の家族は、彼女の存在を頑として認めていない事。
「四堂君が宇都宮と?」
「詳しい事は知らない。でも、あの宇都宮が自分と兄妹だってのは鋼太朗は絶対認めないって言ってた」
親族に存在を認められていないと言う点では宇都宮夕妬と似ている。決定的に違うのは、宇都宮小夜と言う人物は片方の家族である宇都宮一族からは愛され、もう片方の家族である四堂からは徹底的に拒絶されている所。
「これ、鋼太朗にも色々聞いてみる必要ありそうだな」
「本人は親族の事大分言いたくなさそうだったよ」
今も健在とはいえ、一家共々散々な被害を被っている鋼太朗からして見れば、宇都宮一族と血が繋がっているだなんて御免被るだろう。
「それなら難しいか。あっちが話してくれないのなら、結局自分達で検索するしかないな」
「家族の事だし、実際四堂先輩自身の問題ですもんね」
そして泪から聞いた話では、彼女は当主含め暁村の者達から溺愛されているが、異能力者としては『出来損ないの異能力者』だと。
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