第44話 ルシオラside



「ふふん。やっと見つけたわよ!」


翌日。ルシオラは泪の一件で塞ぎ混んだと思われる瑠奈の様子を見に、いつもの学園の正門へ向かうと背後から声を掛けられた。ルシオラが後ろを振り向くと、そこに居たのは赤みが掛かった髪をサイドへ二つに纏めた少女。先日瑠奈達と祭りで揉め事を起こした娘だった。


瑠奈は赤い髪の少女を三間坂と呼んでいた。異能力者特有の思念を全く感じない事から彼女は異能力者ではない。この場で争い事を起こす必要はない現状、ただの一般人である彼女に声を掛ける事も耳を傾ける必要性も感じなかった。


「···君はしつこいな」


以前からよく騒ぐので面倒くさいと感じていたが、これ程まで鬱陶しいと思ったのは初めてだ。彼女は何故他者への勝ち負けに拘るのかがどうも理解出来ない。


「言ったでしょ! とにかくあたしは誰かに負けるのが嫌なのっ!

例えそれが、見ず知らずのあんただとしてもね。あたしはいつだって勝たなきゃ意味がないの!」


この三間坂と言う娘が異能力者を迫害する立場であれば、どれ程楽だと思った事か。彼女からは自身への異常なまでの対抗意識はあれど、異能力者への敵意自体は全く感じない事から、どうも娘は異能力者に対し迫害や差別ではなく、羨望を抱いているようでなかなか性質が悪い。


「言って置くが、私に勝っても何も無いぞ。大体君は私に何の勝負をする気だったのだ?」

「うっ、うるさいわねっ!! あんたに何もなくてもあたしが納得いかないの!」


そもそもルシオラは瑠奈に会いたいと言うのに、ここまで来てとんだ妨害が入ったものだ。ここは大勢の人間が行き通りする場所故に、安易に異能力を使う訳にも行かない為、こう言った騒がしい相手はさっさと退いて貰うに限る。


「君に対して用事はない。私は瑠奈に会いたいのだが」

「なによっ! あんな奴どうでも良いじゃない! 早くあたしと勝負しなさいよ!

ふふん、それとも何? もしかしてあなた。可愛いあたしに見とれてるのかしら?」


話せば話す程、不愉快な気分にさせてくれる娘だ。どこをどう捉えればその様な珍妙な発想が出てくると言うのだろうか。


「先程から何度も言っているだろう。私は君と勝負する理由など何もない」

「ま、待ちなさいよっ!!」


ルシオラは立ちはだかる翠恋を避け足を進めるが、翠恋もルシオラへすがるように後を追う。


「まっ、まさか可愛いあたしに興味ないって言うの!? だから!」

「不愉快だ。私の前から消えてくれ」


あまりにも彼女がしつこいのではっきり不快なのだと言ってやる。だが目の前の少女は全く退こうとしない。


「こ、このっ···! あたしは······あたしはどうしても認められなきゃダメなのよっ!!」

「そこのあなた止めなさい」


どうやって彼女を対処しようかと思考していた、ルシオラの目の前に現れたのは深い緑の髪を一つに束ねた少女。

ルシオラは緑の髪の彼女に見覚えがあった。以前瑠奈が拾ったルシオラのIDカードを彼女から受け取る際、伊遠の口添えで郊外の喫茶店を指定された。その時何処かで情報が漏れたのか末端の構成員数名に感づかれてしまい、最終的に瑠奈ととんでもない殴り合いをしたファントム構成員の少女だ。


「君は···」


ルシオラが言葉を発する前に、構成員の少女は赤髪の娘に向かって言い放つ。


「ルシオラ様が迷惑がってるじゃない。これだから力のない獣(けだもの)は野蛮ね」

「け、獣(けだもの)って!?」


少女の放った言葉は赤髪の娘を激昂させるには、あまりにも十分すぎる効果を持っていた。


「あんたってバカじゃないの!? ふざけないでよ!!

このあたしが獣(けだもの)ですって!? 冗談言うのも大概にしなさいよっ!!」

「私は本当の事を言っただけよ。貴方達人間は獣(けだもの)同然の存在。弱い獲物を見下す事しか出来ない薄汚い獣(けだもの)だわ」


「こっ、このっ!!」


どうしたものか。自分の前に立つ少女は前に瑠奈と揉めている。此処は仮にも組織と無関係の場所であり、無益な揉め事は真っ平御免被る。


「止めろ」

「でもルシオラ様、この獣(けだもの)は私達の敵ですっ。絶対に見逃す訳には」

「お前は前にも別の場所で騒ぎを起こしただろう。また私に尻拭いさせるのか」


尻拭いと言う言葉が効いたのか、彼女はあっという間に俯き借りた猫の様に大人しくなった。


「あっ! も、申し訳ありませんっ···」

「ち、ちょっと何よっ! この可愛いあたしを差し置いて、何勝手に話を進めてるのよ!!」


問題は赤髪の娘の方だ。瑠奈が彼女を嫌っているのは薄々感じている。もちろん瑠奈の事も気になるが、今日は観念して引き上げた方が良い。


「退くぞ」

「あ、は、はいっ。ルシオラ様っ」


少女の言葉があまりにも気に触り捲ったのか、今だ甲高い声を上げて騒いでいる赤髪の娘を放置し、ルシオラは構成員の少女を伴い学園を後にした。



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