第43話 瑠奈side
「なんだあれは」
ルシオラと二人で神社で出店している屋台の店を色々と回っていると、ルシオラはある一つの屋台を不思議そうに見つめる。
「輪投げです。輪を引っかけたら、その輪に引っかけた景品が貰えるんです」
ルシオラが見ていた輪投げ屋の屋台には、景品に菓子がメインとして設置してあるようだ。景品はスーパーやコンビニに売ってある箱菓子やスナック菓子の他に、クッキーの詰め合わせが入ってる缶入り菓子もある。
「面白いものがある」
「やります?」
「いや。あれも気になる」
ルシオラが指を座したのは射的の屋台。ルシオラが指を座した方向を見ると、そこは人だかりが出来ていて、その人混みの中心では鋼太朗と麗二が射的屋台で何やら争っている。
「いい加減諦めたらどうだ!?」
「うるせぇよ! 彼女いない歴=(イコール)年齢のさくらんぼ野郎!!」
「やっかましいわ!! お前こそ早く諦めろ!」
「何をぉ!?」
お互いに小学生レベルの罵詈雑言を放ち合いながら、射的用ライフルの弾をこれでもかと乱射しまくっている。乱れ撃ちのように放たれるコルク弾は当然外れまくっているが、時折プラモデルやらぬいぐるみやらの景品をポロポロと打ち落としていた。
そんな端正かつ大柄な男二人の不毛な争いを、屋台の主や偶然見物していた勇羅と雪彦含め、周りの客達は呆れた顔をする者もいれば、苦笑いを浮かべながら見ている者もいた。
「······何やってんだか」
「楽しそうだ」
二人の低レベルの乱闘に対し真顔で感想を述べるルシオラに、瑠奈は噴き出しそうになるがどうにかして堪える。
「私の顔に何かついているのか?」
「う、ううん。なんでもないですっ! こ、この際だから夜店全部見て回っちゃいましょう!」
瑠奈は戸惑うルシオラの手を引き色々な場所を回った。
瑠奈の行動に対してルシオラは最初こそ戸惑ったものの、様々な屋台を見ながらあれは何かと聞くルシオラに対し、楽しそうに説明をする瑠奈を見ている内にすっかり馴れていった。
神社内にあるほぼ大半の屋台を見回り歩き回った所で、二人は休憩所のベンチに座っていた。
「何か···おかしいですね」
「おかしい、とは?」
ルシオラの顔を見ることなく、瑠奈は上を見上げながら自嘲する笑みを浮かべる。
「······離れていくんです。近づきたいと思えば思うほど遠く離れていくんです」
本当なら泪と一緒に見て回りたかった。しかし泪は今まで見たこともない凍りついた目と無機質な表情をしたまま、自分が傷付いたのは瑠奈のせいだと言った。瑠奈が泪を追い詰めたと言った。
「······」
「······思い知らされるんです。お兄ちゃんが手の届かない人、なんだって」
泪と距離が近づけば近づくほど、泪の過去に迫れば迫る程、泪が怖くなっていく。
何が矛盾で真実なのか分からない。泪の言葉は瑠奈にとって余りにも重すぎた。
「お兄ちゃんを追い詰めたのは···死にたくさせたのは、私だっ、て······だか、ら······っ」
『僕はどんな手段を使おうともこの世から消える。誰の邪魔もさせない』
泪は死にたがっている。
地獄を味わった末の自分の意思で。誰の声も、自分の声も届かない。いや、初めから誰の声も届いていなかった。
泪は生まれてからずっと一人だった。そして今も『自分が死ぬ為に』一人で戦っている。
「泣いているのか?」
「······ぁ」
上を見上げ続ける瑠奈の両目から涙がぼろぼろとこぼれ、頬を濡らしていた。ルシオラは瑠奈の肩に触れようとする直前、二人の背後から甲高い少女の声が聞こえる。
「ちょっと真宮。こんな所で何やってんのよ?」
瑠奈とルシオラの前に現れたのは、この場にいる筈のない泪と不機嫌そうな顔の翠恋。泪が勇羅の誘いを断った理由は翠恋と行く予定だったようだ。
泪は翠恋の少し後ろに立っているが、当然瑠奈の顔を見ない。いつもの穏やかな顔で翠恋だけを見ている。涙を拭うべく慌てて目を擦るが、どうしても真っ赤になってしまう。瑠奈の様子を見た翠恋は鼻を鳴らし、勝ち誇るような笑みを浮かべる。
「ふん、バッカみたい。何つまらない事で泣いてんのよ、みっともないわね」
「三間坂······」
さっきまで泣いていたのは事実だし、今回ばかりは何も言い返せない。先程まで無言で瑠奈の話を聞いていたルシオラが口を開いた。
「···君は失礼な奴だな」
彼の声色からして怒気を含んでいる様に思える。
「なっ! 何よそれ!?」
「私は本当の事を言っただけだ。もう少し相手に対する気づかいは出来ないのか」
ルシオラの衣を着せぬ物言いは翠恋にとって挑発に値したのか、彼女の顔はみるみる真っ赤になっていく。
「あっ、あんた何様のつもりっ!?」
「三間坂さん。止めましょう」
激高する翠恋を泪が冷静に宥めるが、ルシオラの発言を完全に挑発と受け取ったのか翠恋は止まらない。
「でっ、でも···でもっ! あたしは負けるのだけは絶対に嫌なの!! 大体、真宮も何つまらない事で泣いて―」
翠恋に追い討ちを掛けるかの様にルシオラは更にいい放つ。
「みっともないのは理由も聞かず、勝手に騒ぎ立てている君の方だ。相手の立場になって物事を考えろ。君はそれすらも出来ないのか」
「!!?」
ルシオラの歯に衣を着せぬ言葉が堪えたのか翠恋は神社の方向へと走り去る。
一方的に走り去る翠恋を泪はすぐさま後を追うとするが、何を思ったのかその場に立ち止まり泪は振り向かずに一言告げる。
「·········瑠奈を頼みます」
翠恋を追いかける為走り去る泪を、ルシオラと瑠奈は何とも言えない表情で見送った。
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