第22話 ファントムside



―某所・ファントム国内第一支部。


「うふふっ、この手作りのお守り。ルシオラ様喜んでくれるかなぁ?

この手作りのビーズのお守りをルシオラ様の為に作るのっ。

心を籠めてー、思いを籠めてー、一針一針ルシオラ様への愛を籠めてぇー···るんるんるん」

「······」


訳の分からない歌を歌いながら、決して思い人へは届く事のないお守りを器用に作る薫を、クリフは薫に気付かれないよう遠くから眺めている。

お前が込めてるのはルシオへの愛じゃなくて、歪みに歪みきったお花畑思考な怨念じゃないのか? と盛大な突っ込みをいれたくなる。


「クリフ。ルシオからお呼びが掛かったから、すぐに行くわよ」

「了解」


ルミナに呼ばれたクリフは今だ歌を歌いながら、数ある待機部屋でお守りを作り続けている薫を放置し、その場を立ち去った。



―···神在市内郊外マンション。



「来たか」

「ルミナ達ももう来てるぜ」


ルシオラに呼ばれて来たのは、ファントム結成時から初期メンバーでもある玄也・ヴィルヘルミナ・クリストフの三人。五芒星のメンバーは本来五人だが、初期の三人を除き他の五芒星二人は頻繁に入れ替わっている。


更に玄也達三人がルシオラから全幅の信頼を得ている事をやっかんで、現状ファントム内部においては、彼らを陥れようとする者までいるのは、紛れもない明白な事実である。


「まさか連中、ルシオの行動妨害に入るとは思わなかったな···」

「妨害が半分ルシオの行動を知らない、が半分ね」

「盗聴される訳···ないよなぁ」


伊遠がファントムから去った現在、ルシオはファントム唯一のサイキッカーだ。感知能力に優れた異能力者や同じサイキッカーでもない限り、僅かな念でも察知され大方はルシオにバレる。


「例の『探し物』。見つかったんですって?」

「ああ。最も当のターゲットは異能力者だって事、隠して過ごしてたらしい。研究所とも無関係だ」

「協力を求めるのは難しそうね···」


異能力者への差別や迫害から程遠い『探し物』に対し、玄也もルミナも複雑な顔をしている。この場に居る自分達は差別や迫害だけでなく、人間による私欲の為の実験台···『研究材料』にされてきた被害者達だ。


異能力者とは言え、差別や迫害とは無関係な者を引き入れるのは、如何せん気が引ける。だとしても今現状の構成員に無関係の異能力者に手を出すな、と伝えた所で聞く耳は持たないだろう。


「でもよく見つけられたね。『聖域』の包囲網掻い潜れる当たり、一体誰が裏で手ぇ引いてたのさ」

「······『あの』伊遠だよ」

「あのオッサンが······?」


クリフが伊遠をオッサン呼ばわりするのも無理はない。何せ伊遠は見た目は若くても、もうすぐ三十代に突入する玄也よりも年上だ。


「彼が組織を抜けた時の後始末は大変だったわ···」


離反時の元幹部・陸道伊遠の所業を思い出したのか、ドッと疲れた声でルミナがぼやく。

彼はファントムの行為に対し余程腹に据えかねたのか、自分のデータや研究資料を証拠を、己が居た場所全て消さんと言わんばかりの如く、破壊するだけ破壊していった。


伊遠はルシオラに恨みはないと言っていた。

彼が恨みを持っているのは、確実に歪みに歪んだ『ファントム』と言う組織だろう。


「伊遠だけじゃない、娘の一族は『聖域』···サンクチュアリとも関わっている。一筋縄ではいかない」

「その娘の名前は?」


これから接触しようとする相手の名前を知らなくては、自分達も対象に接触出来ないと思ったか、クリフは好奇心半分でルシオラからターゲットの名前を聞いてみる。


「···すまない。話に夢中で聞きそびれた」


ルシオ自身表情に乏しいが、感情自体はきちんと備わっている。

肝心な情報を忘れてくる当たり、ルシオラはどこか抜けた所がある。


「ルシオらしいわ」

「また連中に悟られないで接触の必要がありそうだな」


玄也が言い終えた直後。ルシオラは何かを思い出したかの口調で呟いた。


「待て、確か······『瑠奈』と言っていた」


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