第23話 瑠奈side



泪が瑠奈の護衛を始めて数日が経つ。

自分達の周辺には今までと何も変化が無かったが、一つだけ変わったのは瑠奈は泪と一緒に登下校する様になった事だった。


始めの内は琳と一緒に三人で登校する事もあった。

ただ二日目で琳は泪の顔を見たり周りを見ながら、どこか落ち着かない瑠奈の様子を見て何かを悟ったのか、最近は途中で合流する芽衣子と一緒に登校している。

泪と琳以外の探偵部の面々には、瑠奈はしばらく部活には出られない報告を茉莉経由で入れて貰い、兼任している調理部の方も予(あらかじ)め休部届けを出しておいた。


瑠奈の急な部活の休部に対し勇羅は訝しげにしていたが、雪彦や万里は茉莉の話を聞いて思う所があったのだろう。幸いにも細かい所まで追及はされなかった。

今日は泪の授業が終わる迄、瑠奈は正門の外側で校舎や中庭の方を見ながら泪を待っている。


泪を待ち始めてから少し経ち、待っている瑠奈の側に誰かが近付いて来る足音がしてきた。泪が来たのかと思いもたれ掛かっていた壁を離れると···―。


「ぇ······っ」

「此処が君の通ってる『学校』と言う所か?」


間違いない、氷の様に表情を変えない男性はファントム総帥ルシオラだ。

この前の出来事もあってか、瑠奈は一気に顔面が蒼白になっていく。


「あ、あの······な、に······か?」


突然のファントム総帥との会合に対して、何を話していいのか分からず頭が混乱し瑠奈は言葉が詰まる。

ルシオラ本人に害は無いとは言え、彼はファントムのトップでありサイキッカーだ。


幸か不幸か周りにはほとんど人がいない。

誰かを助けを呼ぼうにも呼べず、更に運良く呼べたとしても相手はどんな異能力を使うかも分からない。それ以前に普通の異能力者がサイキッカー相手に、見苦しく抵抗するなんて難しいし、何より非異能力者が異能力者相手に喧嘩を買うなど無謀な行為など、余程のお人好しでもない限りする事なんてない。


あれやこれやと頭の中で考え続け混乱状態に陥った瑠奈の背後から、救いとも取れる青年の声が聞こえた。


「そこまでです」


瑠奈が後ろを振り返ると、泪だけでなくその隣には四堂鋼太朗の姿もあった。


「ごめんなさい···こんな事に巻き込んで」

「構わねえ。例の研究所に関わってる時点で、こう言う事に巻き込まれるってのは分かってたから」


「君らは······」


表情に乏しいルシオラが僅かに口を開く、泪とはこの前会った事あるが恐らく鋼太朗とは初対面の筈だ。


「あいつがファントムの総帥なのか?」

「······直球過ぎです」


以前の研究所での件と言いなんて脳筋な。

鋼太朗自身家族が異能力研究所に関わっていたし、異能力や異能力者の事には詳しいが、異能力に関わる組織とかの事情はあまり知らない見たいだ。


「あの時彼女から聞いたでしょう。彼女は今まで通りの生活が送りたいと」

「ファントムってのは、普通の生活を送りたい異能力者も裏の世界へ引きずり込みたいってのかよ?

やってる事が異能力研究所の連中と変わんねぇな」


ルシオラは黙って泪と鋼太朗の話を聞いていたが、少しして口を開いた。


「そうだな···奴らと同じだな」


あっさりと自らの非を認めたルシオラに対し、鋼太朗と瑠奈は目を丸くし拍子抜けした顔をするものの、泪は尚も表情を緩めない。


「貴方は他のファントム達とは違う。貴方個人が瑠奈を狙う目的はなんですか?」

「······」


茉莉の言っていた様にルシオラは、瑠奈の異能力に関心を示している。

瑠奈自身が他者の精神に干渉出来る異能力···ファントムがどれ程の価値を置いているのか分からないが、ルシオラの方は相当関心を持っていると見える。


「お前達は人の真意が知りたいと思わないか?」

「な、何を言って···」


瑠奈と鋼太朗は怪訝な表情でルシオラを見ていると、泪が口を開いた。


「人間の真意や本質など僕達には関係ないし他者の本心など興味もない。

精神(こころ)に干渉などしなくとも、誰も何も変わりはしない」


淡々として答えた泪の言葉は、一瞬どこか自分自身に言い聞かせている様だと瑠奈には思えた。


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