第11話 瑠奈side



「この拾った奴どうしよう···」


瑠奈と同じ異能力者である白髪の青年と別れ、すぐその後その青年が落としたと思われるカードを拾い、自宅に持ち帰った瑠奈は盛大に悩んでいた。

まさかあの綺麗な顔立ちをした青年が、ファントムとか言う集団のリーダーだったとはいまだに信じられない。何故あの時まで自分は普通に会話していたのだろうか。


ファントムはあの時、異能力者でもある自分を半ば無理やり勧誘しようとして来た変な組織だ。前に勧誘してきた男は異能力者だけの世界を作るとか言ってたが、青年はファントムなど何一つ話題にしなかった。


「···偽物じゃないよね」


身分証明用のカードはご丁寧に顔写真まで貼ってある。

本人に直接返そうにも何処に居るのかが分からず、ましてや相手はあのファントムの総統。

下手に行動に出たら瑠奈の方がどうなるか分からない。最早自分は後戻り出来ない所まで来ているのではないのだろうか···。


ファントムが何故異能力者ばかり勧誘しているのか多少は気になったが、瑠奈は能力を隠しつつも今のこの日常生活が気に入っている。訳の分からない所に巻き込まれるなんてまっぴらごめんだ。


『瑠奈。ちょっと良い?』

「あっ! 茉莉姉っ···」


部屋の向こうから茉莉の声が聞こえ、無意識に部屋のドアを開けて茉莉を招き入れる。

ドアを開けた茉莉の顔を見て安心したのか、瑠奈は急に不安げな表情へと変化する。


「ちょっ! なっ、何泣きそうな顔してるの!?」

「じ、実は······」


ファントムとか言う訳分からないものが関わり始めた以上、もう隠し事など出来ない。瑠奈は茉莉に今日の出来事を全て説明し、ファントム総統・ルシオラのIDカードを茉莉に見せた。


「こ、これが······ファントム総統の素顔」


茉莉も驚愕の表情でファントム総統のIDカードを見つめている。

ファントム関連の物を見るのは初めてなのか、小刻みに全身が震えていた。


「···体つきも良くてなかなか良い男じゃない」

「突っ込む所そこ? 私のこれから先は一体どうなるの?」


彼の写真越しでも整った容姿は茉莉のお眼鏡にかなった様だった。

後は青年の中身が男前なら完璧なのだが。


「······知り合いが組織の事に心当たりあるから、ちょっと頼んでみるわ」

「よ、よかったぁ~···」

「それにしても、とんでもない騒ぎに関わっちゃったわねぇ」


茉莉はドッと疲れた声で呟く。

それもそうだ。知らず知らずの内に騒動と言う名の沼に、瑠奈自身が浸かってしまってるのだから。


「これは誰にも、琳にも言っちゃ駄目よ。特に探偵部の面々」

「わかった」


何らかの組織の頭領が関わってるとなると泪や琳はともかく、あの面々は情け容赦なく首を突っ込んで来そうだ。

仮にも人間など不要と言ってた組織、勇羅達だけではなく学園まで危ない状況になる。


数日前に騒動となった東皇寺学園の一件なんて軽い物と思える位に、騒ぎのレベルが違い過ぎる。ここまで来れば自分の方がトラブルメーカーなのではないかと思ってしまう。


「ところで茉莉姉の知り合いって」

「大丈夫。性格はアレだけどこの手のトラブルには凄く信頼出来る男だから」


しかし今の茉莉の顔は勇羅達同様何かを企んでいそうで、逆に余計な不安の方が襲い掛かってくるような感じがする瑠奈だった。


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