第12話 ルシオラside



―···神在市郊外某所。



「マスタ~。今日はノンカロリーカシスウーロン頂くわ~」

「同じくノンカロリービールおかわり~」


「······~~っっ」


ルシオラは頭が痛くなった。

ルシオラの両脇に居る二人のいい年した酔っぱらいがどう言う訳か、ノンカロリーアルコール飲料をノリノリで注文している。

そして何故自分はこんな所にいる、自分は真宮本家の娘の事について聞きに来たのではないのか?


運のいい事に伊遠と真宮の者にコンタクトを取れたのは良い。

この場所では話せないからと、伊遠行きつけの店へ誘われたルシオラは颯爽と別の意味での地獄を見せ付けられた。

そんな容姿年齢詐称の酔っぱらい二人に囲まれ、目を閉じるだけで表情一つ変えず項垂れる青年に気を使ってかマスターは声を掛ける。


「あんた。色々苦労してるだろ」

「······察してくれ」


「んもぅ~。まさか世界を揺るがす噂の異能力者集団の総帥殿がこんなに色男だなんてぇ~」

「あはははははっ。相変わらずお堅いねぇルシオは~。そんな若い内に眉間にシワ作りまくってたら、嫁の貰い手なくなるぞ~」


何だこのハイテンションな中年は。

これがかつてあの『ファントムの頭脳(ブレイン)』と呼ばれた、陸道伊遠なのか?

組織に居た時とはまるで別人過ぎる。ファントムを離反した時でも本性の片鱗を見せていたが、まさかこちらで見せているのが本来の伊遠の素だったのか。


正直、見た目十代中身中年の前代未聞な若作り男に嫁の貰い手を心配される覚えなんてない。


「そうそう色男君。ウチの従妹(いとこ)の事聞きに来たんでしょ~?

駄目よ~、従妹は子供の頃から一途に操(みさお)を捧げようとしている大切な人がいるんだから~」

「うっひゃ! それマジ~? ルシオに恋のライバル出現じゃん~」


酔っぱらって出来上がっているせいで、伊遠も茉莉もテンションが上がり捲っている。

更に伊遠は元若上司の色恋沙汰に興味津々なのか、酒を煽る勢いも増している。最早自分が知っている陸道伊遠と言う男は見る影もない。


「私は詳しい事は知らないんだけど、あの娘(こ)彼の事『お兄ちゃん』って今でも慕ってるのよ~」


お兄ちゃんって誰だ? その男は真宮の娘と関係する者なのか?

是非とも聞いてみたいが関係者共がこんな酔っぱらい状態では、自分含めて余計な火種を起こしかねない。


「僕知ってるぞ~。『おっきくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる』って奴か~?」

「やっだぁ~伊遠ちゃん。それ言ったら、年バレちゃうわよぉ~」

「失礼なぁ~~。僕はピチピチの『じゅうななさい』だぞ~~! あははははははっ」


最早付いていけない。そもそも真宮の親族とは、全員こんなあっけらかんな連中ばかりなのか。

ましてや彼らは異能力者しての状況と立場を知っているのか?

彼らは異能力者の自覚を持っているのか? 彼らが酔ってさえいなければ直ぐにでもこの場で問い詰めたい所だ。


「···兄さん、何か飲むかい?」

「······頭が痛い」


マスターの慰めも他所に、ルシオラの中で何かがガラガラと音を立てて崩れていくのも時間の問題だった。


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