第4話 瑠奈side




―···。




『家族なんかいらない。

兄弟なんかいらない。

僕はなにもいらない。

なにも欲しくない。

僕が欲しいのは···』




『そ、それじゃあ···い······【いもうと】はほしくない?』



『······』



『わ···わわ、わたし。ひとりっ子だから【きょうだい】がほしい!』



『僕はお前の兄妹じゃない』


『えっ···えとね家族じゃなくても家族になれる、っておとうさんとおかあさんがいってたもん!』


『······』


『だからわたし【泪おにいちゃんのいもうと】になる!』


『·········好きにすればいい』


『やったぁ! それじゃあ、今日からわたし【泪おにいちゃんのいもうと】だ!』


『···僕は······僕は······瑠奈のお兄ちゃん···』



―···。





「んー······夢···?」



目が覚めた瑠奈はベッドからゆっくりと上半身を起こす。

眠たげな目で周りを見回すと、窓のカーテンからはすっかり陽が射しかけている。


「何で今になって昔の夢見たんだろ···?」


血の繋がりのない親族でもない、全くの他人である泪を『お兄ちゃん』、と呼ぶようになったのは十年位前だ。出会った当時の記憶はうろ覚えだが、この頃の泪は相当荒れていた様に思った。

いや、荒れていた所の話ではなかったように思った。


どう言えば良いのか分からないが、あの頃の泪は自分には何もないと思い込んでいる顔つきをしていた。


「瑠奈ー。起きてるー?」


閉まっている部屋の外から琳の声が響いてきた。

机に置いてある電子時計を見ると、もうすぐ七時前になる所だった。


「起きてるよー」

「朝ご飯出来たって」

「今行く~」


昨日は泪に家まで送ってもらい、更に遅くなった事情を一から説明してくれたのが幸いし、茉莉からの説教はあっさり難を逃れた。それ以前に泪からファントムの名を聞き、茉莉は何か思い詰めた顔をしていたのが少し気になった。


急いで支度をしてリビングへ行くと、茉莉がテーブルで既に朝食を口にしていた。

味噌汁を啜っている茉莉を少し見て瑠奈と琳も席に付いてから手を合わせ箸を取る。皿に乗ってる少し冷めた厚切りベーコンに、箸を付けようとする瑠奈を見て茉莉は味噌汁を啜る箸を止める。


「瑠奈。昨夜(ゆうべ)貴方がいない間叔母さんから電話あったわよ」

「うっ···」


まさか隣町に住んでる母親から電話があったとはついてない。

学校に近いからの理由で、今は従姉妹でもある茉莉達の家にやっかいになっている。

最初週一回は帰るようにしていたが、家から離れた生活が段々楽しくなって来て帰る頻度が減ってしまったのは事実だ。


「友達の家にいるって伝えといたわ。叔母さんからの伝言は『一度は家に帰ってきなさい』って」


門限を破ってしまったが行き先を伝えてたのは運が良かった。ちゃっかりはぐらかしてくれた従姉には素直に感謝。

相手が女性に対して極めて淡泊な泪とは言え、まさか男性の家に行ってたなんて、おっとりしてて対人関係には寛容な母親はともかく自分への親馬鹿具合がなかなか酷い父親には口が裂けても言えない。


「それから二人共。私今日は遅くなるから部活休んで真っ直ぐ家に帰ってきて」

「どうして?」

「最近何かと物騒な事件多いでしょ、教諭内でも今日は集まって話し合いする事になったの」


疑問を口にする琳に対し茉莉は昨夜の出来事を泪から聞いている。

最近色々と話題になってる連続殺人事件の事もあるし、あれから色々と騒ぎになれば学園の会議に出てもおかしくない。


「姉さんも会議に?」

「そ。ウチの学園生徒も教師も含めて異能力者結構多いでしょ、私も能力持ちだから出席なの。

全く面倒よね~。お前の異能力は色々物探しとかに便利だから、会議には絶対出席しろだなんて~」


茉莉の異能力は『サイコメトリー』と呼ばれる、手で触れた対象の記憶を読み取るタイプの力。

人だろうが物だろうが能力限界の約数十年前まで、遡(さかのぼ)れる範囲の記憶と言う記憶なら何でも読み取ってしまう。

しかし一介の教師が一生徒に対して、学校内の秘密をべらべら喋って良いのだろうか。

まぁ自分達の身内である茉莉だからこそ、こうやって色々と内情を話してくれるのだ。



「茉莉姉、一つ聞いていい?」

「どうしたの」


「···ウチの学校に『サイキッカー』っている?」



サイキッカーの名前を口に出した途端、茉莉の表情が一気に険しい物になった。

普段から誰にでも愛想良く飄々としている茉莉からは想像もつかない顔付きに、瑠奈も琳もビクリと身体を震え挙がらせた。



「瑠奈。その『サイキッカー』······何処で会ったの?」

「る·········泪お兄ちゃん」


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