第5話 瑠奈side



「ちょっと聞いただけなのに、あんなに怖い顔で睨み付けなくてもいーじゃん···」

「うん。普段あんな顔しないもんね···」



瑠奈は朝食中、物凄い剣幕で睨み付けて来た茉莉に愚痴を垂れながら、琳と一緒に並んでいつもの通学路を歩いている。あの後茉莉は何も言わずに車を出し早々に学園へ向かっていった。


幸い茉莉は泪の事については何も聞かなかった。

泪自身も普段から異能力者である事を隠して過ごしているし、泪の異能力がどんな系統のものなのか自体、あの時に初めて見た。ただ単純に火を使う異能力者である泪だが、昨日見た炎は自分の目から見ても明らかに能力の桁が違い過ぎる。

しかし今朝の茉莉の態度を見る以上、少なくとも泪の前でサイキッカーの名をうかつに出さない方が良いかもしれない。


「あ、前歩いてるの芽衣子だ」


二人の少し前を歩いているのはB組の鈴原芽衣子(すずはら めいこ)。瑠奈と琳の友人の一人だ。


「芽衣子~。おはよう~」

「瑠奈、琳。おはよう」


後ろで名前を呼ぶ二人に気付き、芽衣子は振り返りながら立ち止まる。

そして三人は横に並ぶ形で再び歩き始める。

歩きながら琳が何か思い付いたかのように口を開く。


「今日部活休みだから皆で一緒にケーキ食べに行こうよ。今月の新作ケーキ今日までだって」

「琳ったら、本当ケーキ食べ放題好きなんだね」

「えへへ···あの店のミルクレープ美味しいんだもん。それに甘いものならいくらでも食べられるよ」

「えーっそれ夕飯食べられなくなるよー」


友達同士の日常が感じられる、何気ない当たり前の会話。

こうやって琳や芽衣子と話していると、昨夜の異能力者同士の騒ぎそのものが、夢の出来事見たいに思えてくる。


「琳。茉莉姉今日は真っ直ぐ家に帰れって」


朝、茉莉に言われた事を思いだし琳に伝える。覚えていたようで琳はあっ、と言った顔になった。


「いけない。忘れる所だった」

「真宮先生から真っ直ぐ帰れって···何かあったの?」


お互いを見ながら困った顔をする瑠奈と琳に対し、眼鏡越しから目をぱちくりさせる芽衣子。


「実は···」


二人は茉莉から聞いた出来事を、自分達が説明出来る範囲で話した。

瑠奈達が異能力者だと言う自体芽衣子は知っている、ただ茉莉も異能力者とは言っていないので異能力関連の事は極力ぼかしてなのだが。



「それ···」

「あんまり友達を不安がらせない方が良いぞ」



瑠奈達の背後から聞き覚えのある男の声がする。

三人のすぐ後ろには背の高い男子生徒···瑠奈にとっては最早(もはや)見なれた、長身紫アホ毛の男が立っていた。



「こ、鋼太朗···なんで」

「お前と言い麗二の奴と言い、相変わらず先輩への礼儀がなってないな」



自分も鋼太朗への対応は大概酷いと言う自覚はあるが、鋼太朗への仕打ちは麗二の方が遥かに酷いと聞く。

芽衣子や勇羅から聞いたが、何でも鋼太朗が昼休み食堂で友人達と話してる間、テーブルに置いてあった鋼太朗の食事に、ジョロキア入りのタバスコを仕込んだとか。


あの時の鋼太朗の断末魔とも聞こえた悲鳴は麗二が元凶だったのか。顔立ちも良く見た目が大人びてる割に、やってる事が低レベルなのは何とも頂けない。


「そ、その青の制服···三年生」


平然と先輩を呼び捨てする瑠奈に対し、琳は困った顔つきになり芽衣子は僅かながらに引きつっている。


「いきなり先輩呼びなんてまだなれないから仕方ない」


鋼太朗とは泪の事もあり何となくぎこちなくなる、彼もまた泪の幼なじみの一人なのだ。最も泪自身は鋼太朗の事を覚えていない、と言っているらしいが。


「あのなぁ···」

「鋼太朗こそ、お兄ちゃんに迷惑掛けてないの?」


事ある度に鋼太朗がなにかと泪につきまとっては、泪が彼の尻拭いをしていると耳にしているが、最近は余り大きな騒ぎは聞いていない。


「お前が思ってる程あいつには迷惑掛けてないよ」

「そうだと良いけど」

「俺はむしろ泪の方が心配なんだけどな。あいつ、何かと一人で抱えこむ事多いだろ」


鋼太朗の言う事は最も当たっている。

泪は知り合い相手でも自分の事だけは絶対に話そうとしない、例えそれが昔からの幼なじみだとしても。

考えれば自分も目の前の鋼太朗も異能力者だ、しかし泪は···。


「どうした。考え事か?」

「あの···今日の放課後時間取れます?」


もしかしてサイキッカーの事について何か聞けるのではと思い、鋼太朗に時間を取れるか聞いてみる。

当たり前のように鋼太朗と話をする瑠奈に対し、既に二人の会話から置いていかれた琳と芽衣子はポカンといている。


「今日はバイトないし少しくらいなら。でも珍しいな、お前の方から相談だなんて」


泪の事を知っている彼なら、昨夜の話をしても特に問題はないかもしれない。

そして茉莉が話そうとしなかった事も、少しは知っている可能性もある。


「えと、その···泪お兄ちゃんの事で話したいんです」


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