第2話 瑠奈side
「それじゃあ、また明日学校で」
「気を付けて」
玄関先で泪に見送られ瑠奈は事務所から歩き出す。
あの後一緒に食事をして今月末の試験の課題やら色々と話し込んでる内に、すっかり門限の八時を過ぎてしまった。
「茉莉姉怒ってるかなぁ···」
茉莉はこの辺りの制限になるとかなり厳しい。
休日前の門限破りは多めに見てくれるが何せ明日も学校だ、下手に言い訳すればみっちりお灸を据えられるに違いない。
『お嬢さん、異能力者だろ』
家へ急がねばと早歩きで歩く瑠奈の前方から突然声が聞こえた。
『異能力者』の言葉に対しビクリ、と身体が反応し思わず足を止めてしまう。
「だ···だとしたら?」
自分が異能力を使えると言う事を知っているのは家族と親族、親しい友人位である。と言っても使えるのはある程度の念動力と相手の精神に干渉する程度のもの。
しかも自分の力は両親から余程の事でない限り絶対に使うなと、釘を刺されている曰(いわ)く付きの能力だ。
「いやいや、別に命まで奪おうって訳じゃないんだよ。
その素晴らしい力、我ら崇高なる『ファントム』の為に役立て見ないかって話」
「······」
相手も自分と同じ異能力者。
しかも『ファントム』とか言う訳のわからないグループに、自分を勧誘しようとしている。
そもそも『ファントム』って何? テレビでもネットでも聞いたことがない団体だけど。
とにもかくにもそんな物騒な名前の団体に関わっても録な事にならなさそう、当然ながら男の勧誘はお断り。
「嫌だ」
「何故だい? 人間なんて愚かな生き物は滅びるべきなんじゃないのか?
我々誇り高き異能力者を虐げた愚かな屑共なんだぞ」
屑って言う奴の方が実は屑なんじゃないのか?
この場合言ってる自分自身に跳ね返ってるのでは、とこちらは敢(あ)えて黙秘すると同時に負けじと瑠奈も言葉で応戦する。
「私は今の生活が気に入ってるの! あんたらのやってる事なんて更々興味ない」
「は、はぁ!? 貴様は異能力者だけの世界に興味はないのか!? 我々が誇り高き異能力者が安心して住める安息の地!!
我らファントムが世界の頂点に立てば、無能で愚かな人間共の下らない脅威に怯えずに済むのだぞ!!」
どうも話が全く通じない。
もしかしたら家に帰りたいと言っても、男がすんなりと承諾して帰らせてもらえるかも分からなかった。
ただその行動を今やらないと言う選択肢が、先ほどの男の言葉が発火点となったのか、瑠奈の思考からすっぽり抜け落ちていた。
「だ~か~ら~! 異能力者だけの世界なんて私は興味ないって言ってるの!
わかったら早く家に帰らせてよ! 門限過ぎてるし茉莉姉に怒られちゃうじゃん!!」
「お···おのれ! 散々下手(したて)に出てやったのに、あくまでも我々に刃向かうかクソガキがぁ!!」
「···あっ」
家に帰れないもどかしさに頭に血が上りかけていた瑠奈だが、目の前の男の怒号で一瞬で我に返った。
今自分は物凄くヤバい状況にいるのだと。
男は下手になど全く出ていない。
寧(むし)ろ終始上から目線で支離滅裂だったのではと心の中で黙っておく。
「仕方ない。少しばかり乱暴になるが力ずくでも我々ファントムの同志となって貰うぞ!」
「こ、このっ···」
異能力者の男が手を前へかざすと前方へ念がぶわっ!と見えない壁の様に放出され始める。
前方から見えない風のように放出された男の思念の力に負けまいと瑠奈も左手を前へ突きだし、前方へ念の壁を出す様に集中させる。
「あ、あんたの力でどうこう出来ると思わないでよ!」
「小娘が···!」
念の力は意思が強ければ強いほど強くなる。念を使っての戦い合いは当然意思の強い者が勝つ。
思念の押し合いで負ける事は、自分の意思が弱いと認めてしまう事だ。
瑠奈の予想外の抵抗に対し、ファントムの異能者は頬から一筋汗を流す。
瑠奈は歯を食い縛りながらも男の念動力に負けまいと、左手へ思念を集中させ続ける。
「くそ、しぶといガキだ。なら俺の異能力で······!!?」
数分程念の押し返しが続き意思の力の拮抗が続くかと思われた。
突然瑠奈の後ろから強大な念が、力を集中していた男を突風が吹いたかの如く後方の電柱へ弾き飛ばした。
「えっ!」
並の異能力者の力とは思えない強大な念に呆然とする瑠奈。
電柱へ吹き飛ばされた男は衝撃の反動で蹲りながらうめき声を上げ、地面に倒れているがまだ意識がある。
「こ、これは···」
「早く逃げなさい」
背後から聞き慣れた声を聞いた瑠奈が振り向くと、そこには左手を前方に突きだした泪が立っていた。
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