第4話 金の使い方
都市『ロットー』に突如として現れた『何でも屋』なる商会。
その商会に1人の女児が助けを求めに来た。
「ママを助けて‥」
ボロボロの服を着た少女を推察するに、酷く貧しいことが分かる。奴隷かと疑うほどだ。
無論、手荷物などないし靴さえも履いていない。
哀れそうな目で見つめるのは商会代表のゴールドである。
商会と言っても道端の片隅に布を引き、その上に立て看板を持って座っているだけなので如何にも怪しい。
「まずは詳しく話を聞いてもいいかな?」
ゴールドは女の子と同じ視線になるように身をかがめて近づく。
今にも泣きそうなお客様を刺激しないようにするためだ。
「おいゴールド助けてやりたい気持ちは分かるが、そのお客様は依頼料を払えるのか?」
後ろで突っ立っている若い女は魔道士の格好で短い杖を腰にぶら下げている。
そして腕を組んで視線を下に向け、申し訳なさそうに女児を見つめた。
「お、お金は今はないです…けど、何とかします」
依頼を聞き入れて貰えないと思ったのだろうか。
ゴールドの肩を掴んで必死に助けを請うている。
「大丈夫ですよ。依頼料は元々必要ありません」
「何言ってるんだ? それじゃあ商売する意味ないじゃないか」
今度は魔道士の女が肩を掴む。
しかし、それに動じずに肩から手を退けさせゆっくりと話し続けた。
「スキルがあるので元々依頼料を取る気は無かったんです」
「あ、そうか。そりゃ金は要らないわな」
「そうですよ。さ、お客様、詳しくお話を聞かせて下さい」
再び目線を下げて前の方を向く。
「あのね。急にママが連れて行かれたの。夕食のご飯を買いに行く途中だったのに」
「誘拐‥ フォーレンさん魔法で何とか居場所を掴めないですか?」
「無理だ。一度見た相手なら魔法で追跡することは出来るが、見た目が分からないとどうしようもない」
「難しいか… お客様、どこでお母様は連れ去られたのですか?」
「広場の辺り」
「連れて行ってもらっていいですか?」
「うん!連れてくよ」
ゴールド達は立ち上がって店の布や看板をしまい出した。
今日はこの依頼で終了ということなのだろう。
「ごめんね待たせて。では案内お願いします」
「分かった!ついてきて」
女の子は元気に走り出した。
一縷の望みが生まれてよほど嬉しいのだろう。スキップまでしている。
しかし魔道士の女は少し納得のいかない様子だ。
「ゴールド、現場に案内してもらっても私達に出来ること
なんてあるのか?」
「ありますよ。あまりスマートな方法じゃないから、使いたくはなかったんですけどね」
少し苦笑いをしながら頭を掻いている。
「あの子に変な期待を抱かせるだけだったら、この杖でブン殴ってやろうと思ってたぞ」
「おれ一応、商会の代表ですよ」
「それがどうした」
「フォーレンさん、ちょっと怖いです」
グイグイと詰め寄る魔道士に対して少し距離を取り、前方にいた女の子の方へ近づく。
怖い魔道士から逃げてきたわけではない。
お客様の情報を手に入れることが事件の解決に結びつく可能性があるからだ。
前世で大手企業の社員として働いてきたゴールドは問題解決において秀でている。
「お母様以外に親類はいないのですか?」
「分からない。いるのかいないのかすらもママ教えてくれないから」
「答えてくれないのですね。では連れて行った犯人の服装は覚えていますか?」
「全身黒くてよく分からなかった。顔も布で隠してたし」
全身黒ずくめで顔を隠して犯行に及んだということは、あらかじめ計画された犯行であるということだ。
顎に手をあてて考え事をしているうちに目的地に着いた。
「ここだよ。何でも屋さん!」
「ありがとうございました。では早速情報集めに入らせて頂きます」
「おい!まさか地道に聴き込むつもりじゃないだろうな? そんなんじゃいつまで経っても見つからないぞ」
魔道士は今度は肩ではなく胸ぐらを掴んで距離を詰めてきた。
しかし身長が低いために迫力は全くない。
「聞き込みは聞き込みですけど地道にではないですね」
ニヤッと満面の笑みを浮かべると、胸ぐらを掴まれたまま両手を左右に広げて大声を出す。
「今日ここでの誘拐について知っている者が入れば名乗り出ろ! 情報料として100万Gやろう」
大きな声と同時に金属が落ちる音が広場に響き渡った。
〈ガガガガガガ〉
大量のゴールドが突如広場の道端に現れたのだ。
この出来事によって広場全体の民の視線を集めるどころか、お客様があまりの出来事に驚き泡を吹いて倒れてしまう。
「お…お金がいっぱいある…」
「はぁ、無茶な方法を取るわね」
苦笑いを浮かべるフォーレンは力をなくして胸ぐらから手を下ろした。
ゴールドを見つめる目は冷ややかなものだったという。
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