第5話 オークション!

 

 広場に金が擦れる音が響き渡り、その音色につられて多くの民が近づく。

 民の進む方向にいる男が、大きな声を張り上げて尋ねていた。



「この中に女が連れ去られた瞬間を見た者、もしくは事情を知っている者はいないか」



 力強い声は10代の少年のものとは思えないほどの自信に満ち溢れている。



「女が連れ去られた瞬間?‥見てないねぇ」

「そんなん知らねぇよ!金をよこせ」



 集まった民衆は首を傾げる者、暴言を吐く者、単なる野次馬、様々だ。



 しかしながら有益な情報が全く手に入らない。

 場に留まること数時間、遂に我こそはという人物は現れなかった。

 そんな状況に一番イラついていたのは魔道士である。



「最初はいい案だと思ったけどさ。結局ダメだったじゃない!」



「ごめん。お詫びにおれが奢るから三人でご飯でも食べに行こうよ。もうそろそろ夕飯時だ」

「私もいいの?」



 依頼人の小さな女児はお腹を空かせているようだが、気を使って小さな声で聞いている。



「勿論だよ」

「奢ってくれるのか!よし。今日は高級レストランで食べまくるぞ」



 魔道士の方はというと対照的に金を払わせる気満々だ。



「お姉ちゃん、美味しいご飯の場所知ってるの?」

「あぁ!知ってるわ。さぁ一緒に行こう」



 女児に手を差し出すと、しっかりと握り返してくれる。

 魔道士はそのまま手を引っ張って高級レストランへ先導しだした。

 ちなみに先程出した全ての金貨は、魔道士が背中にぶら下げている布袋の中に入っている。



 後に続いてゴールドも歩き出す。

 その表情は、通常なら情報を得られずに暗い表情をするはずだ。

しかし、笑いを堪え切れないような様子である。





「おいゴールド!歩くのが遅いぞ。本当に10代か?」



 先頭にいる魔道士が急かすように挑発してきた。



「失礼ですね。わざと遅く歩いているんですよ」

「わざと? 怪我でもしたのか」



「いいえ違います。尾行してくる方が慎重すぎましてね。おれ達を見失わないように配慮してたんです」

「尾行だと‥」



「あっ、お姉ちゃん。ゴールドさんの後ろに黒い人がいる。ママを連れてった人達に似てる!」



 その発言が聞こえたのかゴールドの後ろに位置していた黒い人は、全速力で反対方向へ走った。



 しかし時すでに遅し。魔道士の視界に入ってしまったからだ。




「フォーレンさん、捕縛して下さい」

「分かってるって~ 空間魔法‥ エアボックス」



 〈バコッ〉

 魔道士が目をつぶり対象の方向へ右手を向けると、黒い人は一定の空間から出られなくなっている。




「あれ? 前に進めない… 左右後ろも無理だ。どうなってる」



 空間に閉じ込められた黒い人は困惑の声を上げ、必死に出ようと手で空気の壁を叩き続けていた。



「金が欲しくて追いかけてきたんでしょうけど、バレバレですよ。野次馬の中にいた時にあなただけ女の子を見ていましたからね。事件の事情を知っている人とは思っていました」

「無理だよ。魔法使えないと空間魔法は解けないから」




 いつの間にか、三人が近くまで来ている。




「もう観念して下さい。どこに誘拐していったんですか」

「ママを返して」



 追い詰められた黒い人は観念したのか。顔に巻き付けられていた黒い布を取り去る。



「すまない。私達も生きるために必要な事だったんだ」



 素顔をみるとその表情は悲しげだ。さらに詳しく見ると猫耳がついており人族ではないように見える。

 だが今はそんなことは関係ない。



「どこに連れ去ったんだ?」



 捕縛された人物はしばらく下を向くと目を合わせないまま歯切れの悪い言葉で答えた。



「奴隷商会に連れていった」

「は? 奴隷商会? 由緒正しき商会が、誘拐されてきた人を売買してたの。聞いて呆れるわ」



 魔道士が突然会話に入ってくる。



「フォーレンさん、奴隷商会って何ですか?」

「王家が直接資金を投下している商会でね。実質国の機関のようなもの。オークションで奴隷がどの主人の元へ行くかが決まるわ」



「じゃあ、オークションで勝てばいいんですね」



 魔道士は一瞬苦い顔をするとゆっくりと語り出す。



「このオークションには王家の者も多数出席するはず。王家の資金力に勝てる者なんて殆どいないから実質、王家でなければ勝てないわ」

「ママ‥ 帰ってこないの」



 一連の会話を聞いていた女の子が下を向いて泣き出してしまった。




「大丈夫だよ。オークションならお兄さん絶対負けない自信があるんだ」



 女の子の視線まで体を下げて頭を撫でる。




「そのスキルがバレない程度に勝負しないとね」




 魔道士は腕を組んで心配そうにこちらを見つめていた。


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