第3話 『異世界何でも屋』
「100万Gを出すスキル?‥ 冗談でしょ」
「ほんとですよ。ここで証明して見せましょうか」
信じられない様子で、ガクガクと体を震わせながら近づいてくる魔道士はまるで子鹿のようだ。
「そ、そんなに見せたいなら、見せればいいじゃない」
「分かりました。あと、100万Gを出すスキルではないですよ。無限に金を生み出すスキルです」
「はぁ? 流石にそれはないわ」
「驚かないで下さいね」
ゆっくりと右手を前方に突き出し、目を閉じる。
基本的には心の中で念じればスキルは発動するらしく実際に心の中で金を生み出すイメージを作り出した。
すると
〈ガガガガガガ〉
右手の周りからゴールドがザクザクと溢れ出てくる。
ほんの数秒であったが小さな山を形作るほどの量のゴールドが生み出された。
「どうです? 100万Gくらいはあるでしょう」
「100万どころじゃないわ。1000万くらいはある」
魔道士の声は震えており非常に興奮している様子である。
無理もない、目の前に存在し得ないスキルを有した者がいるのだから。
「おい。物凄い量のゴールドがあっちにあるぞ」
金の音を聞きつけて、都市住民達が近づいて来てしまった。
「クレアの息子よ。その金を持って、私に近づきなさい」
「? わかりました」
なぜ近づけと命令したのかは分からないが何か考えがあるのだろう。魔道士の顔は自信満々に笑みを浮かべていた。
「では、参るぞ私の住処へ。テレポーーテーション!」
甲高い声とともに視界が急に真っ暗になり、少しすると、一瞬で視界に光が差し込んだ。
急に暗くなったと思ったら、明るくなったので目の働きが追いつかない。
視界がぼやける。
両目を手でゴシゴシと擦ると次第に視界が正常に戻ってきた。
「ここはどこ?」
「急にごめんなさいね。転送魔法は初めてだったかしら」
「転送魔法‥ あなた本当に魔道士だったんですね」
「どこからどう見ても魔道士でしょ!」
見た目が自分と同じ20歳そこそこなので喋りやすく、冗談も自然と言える。
安心から少し微笑むと辺りをぐるりと見回した。
ここは建物の中らしい。
木材で作られたリビングほどの四角いスペースに簡単な台所やベッドなどが置かれている。
「ここは、フォーレンさんの家ですか?」
「そうだ。よく分かったな。前の家は、家賃が払えなくて追い出されてな。森の中に自分で作ってやった」
「ずいぶんと豪快な方ですね。ははは」
苦笑いを浮かべるしかない。
なぜ家賃も払えないほど金が無いのか。
疑問は尽きないが関係悪化を避けるためにデリケートな質問はしばらくしないことに決めた。
「で、話を本題に戻すけど私を雇って何がしたいんだ?」
「そうでしたね、会社を作ろうと思ってるんです」
「会社ってなんだ?」
「商会みたいなものですね」
この世界には会社という概念が無い。
しかし商会という組織が存在していて、これが会社のシステムに似ている。
「なんで商会なんかやりたいんだ」
「奴隷を解放したいんです。昔、父と農作業をしている時に見た彼らを忘れられなくて」
実は、この話は嘘だ。
故郷はドがつくほどの田舎である。
奴隷を使役している大金持ちなどいない。
しかし、奴隷に関する話は父からたくさん聞いてきた。
勿論、彼らがどのような扱いを受けているのかも
その話を聞いているうちに、自身が前世で馬車馬のごとく働かせられていた事を思い出したのだ。
――会社から奴隷のように扱われていた事を
ゴールドは、そんな自分と異世界の奴隷とを重ね合わせていた。
「変な理由だな。ま、いいけどさ。私は具体的には何したらいいの?」
「仕事先に付いてきて欲しいんです。それにスキルがバレれば誘拐される危険性もありますしボディーガードとしての役割もお願いしたい」
「う〜ん、いいよ!金の事を心配しなくてよくなるし」
少し考えていたようだが魔道士は快く引き受けてくれた。
「ありがとうございます。では早速ですが先程の場所まで戻ってくれませんか?」
「はぁ?… 今すぐ戻るの?」
「善は急げです!早速、何でも屋を開業します」
「引き受けるんじゃなかったかなぁ」
「さ。早く早く」
「クソッ。テレポーテーション~」
やる気の無い声ではあったが空間魔法の詠唱を唱えて、元いた場所へと導いてくれた。
人通りの多い広場に場所を見つけると、道端にある木の切れ端に何でも屋と書き込み営業を始める。
その目には、熱い意思が滾っていた。
さて、なぜゴールドが『何でも屋』かというと、人との繋がりを作りたかったからだ。
田舎から出てきた若造を受け入れる程、世の中甘くない。
まずは『何でも屋』としてどんな依頼でも引き受けるんだ。
しかし、意気揚々とするゴールドとは対照的にフォーレンは死んだ顔をしながら道路に寝そべり体を丸めている。
「客なんかどうせ来ないって。もう帰ろうよ」
「もう少しだけ待ちましょう」
それから何時間待ったことだろう。
フォーレンの言う通り客は全く来ない。
しかしもう誰も来ないと二人して自信を失くし、地面を見つめていたその時だった。
当店第一号のお客様が現れたのだ。
その声は、小さく可愛らしいが力強いものがある。
「何でも屋さん… お願いがあるの!」
「は、はい!承ります。って、え?」
第一号のお客様と言っても高貴な大人ではない。
いや、大人ですら無かった。
ボロボロの布切れを着た小さな女の子、この人が当店第一号のお客様だ。
「ママを助けて。どこか行っちゃったの」
今にも泣きそうな女の子を見て先程までやる気のなさそうな顔をしていたフォーレンも表情を変える。
「帰らなくて良かったな」
「ふん、うるさい!」
嫌味も混じった言葉を言ってしまったせいでフォーレンを怒らせてしまった。
「おいゴールド!早く仕事を終わらせて家に帰るぞ」
「フォーレンさんお客様の前で何言ってるんですか…」
この依頼が奴隷と強く関わるきっかけになるなんて、まだ誰も思っていなかっただろう。
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