#4
脈は、ない。
正直ぜんっぜん脈はない。隆久が普通に女の子を好きになる奴だってことは知っているから女の格好までして、アイツの趣味を探り探り頑張っているけれど脈は全くと言って良い程ない。
幼稚園の頃から一緒で10年以上の付き合いになるはずなのに、その手の話は全然してこなかったから情報が余りにもない。
漫画のキャラで好きになるのは大体その話のメインヒロイン。ただまぁ、メインヒロインだっていっぱいいる。よくもまぁ毎回毎回メインヒロインを好きになれるなってくらい、その話のメインヒロインをあいつは好む。多分そんなに感情移入してないから、このヒーローにはこのヒロインって素直に受け止めてるだけなんだろうと思うけど。
というか、こんだけ必死に追っておいて本当にあれなんだけど、俺も男が好きなわけじゃなかったりする。
正直ね、男女問わず好いてもらえることが多いし、告白されて彼女を作ってみたこともあるけど、ときめいたことはなかった。
理由は単純で、好かれる理由がわかるから。
死ぬほど聞いた「優しい」って言葉は、何の価値もないと思っていた。問題が起きるのが怖くてやってるだけ、嫌われるのが怖くてやってるだけ、なんでか知らないけど喜ばれたことも繰返しやってあげて、男女問わず、それを繰返していたら「優しい」って言われて「好きだ」って言われた。
それ、都合が良いってだけだろ?
そんなひねくれた心が完全に出来上がっていた中学2年の夏。俺しか友達のいない可哀想な幼馴染が教員に押し付けられた荷物の山を一人で運ぼうとしていたから手伝ってやることにした。
「さんきゅ」
「いーよ、ほら、俺優しいらしいし」
けらけら笑いながらそう言ったら呆れ顔で「そうだな」なんて笑ってもらえると思っていたのに、返ってきたのは嘲笑だった。
「わかってねえなあ、お前は優しいっつーかめんどくさがりだよな」
「え?」
「とりあえず、相手の機嫌取るじゃん。ま、行動は優しいけどな」
俺の前を歩きながら「今も助かってるし」と付け加えて振り返った仏頂面に、不本意ながら初めて胸が高鳴った。
こいつの傍に居たいと願うようになって、だったら友達なんかより恋人の方がいいんじゃねえかと思うようになって、それからどうなったらそうなれんのかってのを考えて考えて考えて。
しっかり1年悩んだ結果、俺はこんなことになってしまった。
内心いじめられたらどうしようとも思ったし、知ってる奴は同じ学校に進まないとわかっていたけど覚えてない奴とか居たら…とか、不安は尽きなかったけど、なんとかなった。
持ち前の「優しい」をフル活用したらこんなんなのに友達はできた。世界は便利なものにどこまでも「優しい」。
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