#3


入学式、つい昨日まで普通だった幼馴染の変貌に引くよりも先に心配した。何度も根気強く事情を聞いたけど、のらりくらりかわされて、わかったのは女物の制服が去年大学に進学した姉さんのお下がりらしいということだけだった。


そして1週間も経てば共学の高校で余りにも異常な俺らの関係は学年を越えて学校中に知れ渡っていたし、奇異の視線を隠しもせず向けられた。当然友達も作りそびれて恵流を恨んだ。


しかし1ヶ月後、毎日繰り返される日常に俺の心は適応してしまった。理解することを諦めて、日々俺の好みを探る為とキャラクターを作り込んで別人のようになることを除けば今までと同じ話しやすい良い奴なのだ。他に友達ができないからとかじゃなくて。


周囲も慣れたのか飽きたのか、上級生や他のクラスの連中には見られるけどクラスメイトたちは普通に恵流と会話をするようになった。俺とも喋ってくれるが何故か皆恵流の味方のようで、「なんでだめなの?」と聞いてくる始末である。


確かに顔は、というか見た目は、気持ち悪い程に可愛い女だからうっかりときめきそうになることはあるんだが…10年以上傍にいる幼馴染を今さらそういう目で見るなんて無理だろう。普通に考えて。


…普通にどこからどう見ても今までの幼馴染に見えないのはこの際置いておいて欲しい。


今日はわんこ系とやらの幼馴染は可愛い、確かに。ちなみに昨日はお姉様系で一昨日は妹系、その前はツンデレ系だった。お前ってそんなに演技力あったの?と引くくらい全部しっくりきていた。…そんなことを、もう1ヶ月以上続けている。


一度とてつもない違和感に耐えきれず、「その、あたしとか私とかいうのどうにかなんない?」と聞いたら次の日から僕っ子になったり自分をメグと呼んでみたり試行錯誤され、まんまと普通に会話できるところまで来てしまったのだから恵流は策士かもしれない。


素直に凄いと思う。そんな風に自分を変え続けられることが。だけど、今まで俺の傍にいた恵流はずっと無理をしていたのかとか毎日別人みたいなお前の本当の姿はどこにあるんだとか、どうしたってモヤモヤと募っていく気持ちだけはいつまで経っても慣れそうに無かった。


なんとなく、慣れてはいけない気もした。



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