#5



「え?」



恵流は間抜けな顔をして俺を見た。なんやかんやで時間は進み今日は2月14日のバレンタインデーだった。ついでに場所は俺の部屋。


恵流からもらった多分人生で初めての本命チョコをその場でいただきつつ、何度目かわからない告白に返事をしてやったら大きな目を更に見開いて固まっている。



「嫁にするかはわからんけど、まぁ、付き合ってみてもいい気はしてる」


「僕のこと好きなの?」


「…わからんけど」


「は!?」



正直に答える俺の胸ぐらを掴んだ恵流は正真正銘、男だった。ショートパンツに白ニットでニーハイまで履いているその姿はあざとい美少女に他ならなかったけど。



「恋愛的な意味で好きかどうかは正直わかんないんだけどさ…」


「続けて」


「とりあえず、なんか、その、あの」


「何」


「キ、キスはできる気がする…」


「は!?」



男らしく胸ぐらを掴んでいた手が離れて、恵流を見れば顔を赤く染めて狼狽えていた。1年近く猛烈なアピールをしていたくせに、なんなら迫って来たこともあったはずなのに、そんな純情な乙女のような反応を見せられてこちらが面食らってしまう。



「つ、付き合うってことはそういうこともするだろ」


「…!」


「だから踏ん切りがつかなかったんだが、イケる気がする」


「な、なんだよそれ…」


「…うん、別に変にキャラ作ってなくても、イケる気がするよ」


「えっ」



思わず漏れたような素の恵流に、俺は頷いた。見た目は女だけどそれでもどこか懐かしい恵流の反応に笑みがこぼれる。



「俺の友達って恵流だけだったからさ、素顔のお前と会えねえのは寂しいわ、未だに」


「…」


「かっこは好きにしていいけど、俺はそのままの恵流と付き合えると思ってる」


「隆久……」



目は口ほどにものを言うっていうのはよく言ったもんで、戸惑った表情で固まったままの恵流の瞳には喜びの色がはっきりと浮かんでいた。



「今から、証明してやるよ」



俺はそう言ってゆっくりと恵流を押し倒し、蹴り飛ばされた。そりゃあもう男らしい力で思いっきり。



「バッッッッッカじゃねえの!?」



これでもかと顔を真っ赤にした恵流は床に転がった俺を見下ろして絶叫した。いつも余裕をかましている恵流のこんな顔を見たのは幼稚園以来じゃないだろうか、なんて冷静に考えてもいられなかった。


叫んだ後すぐさま部屋から駆け出した背中を追わないといけないからだ。


1年近く熱烈な求愛行動をしてきたくせに、なんでこんなリアクションをされなきゃいけないのかちっとも理解できないが、本能が追い掛けなければと警告を鳴らすから仕方がない。


愛してるなんて臭いこと言えないけど、隣にいるのはお前がいいって本気で思ってんだよ。一応な。







ー属性は何を選択したらお嫁さんにしてくれますか?



ー何も選択しないで良い、そのまま俺の傍に居てくれよ。



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