第16話 ノンストップタクシー

 あれは、もう20年くらい前のことでした。


 なぜ貧乏なのにタクシーに乗ったのかも覚えてないくらい前のことです。


 自宅から某駅へ急いでいたような気がします。私がタクシーに乗って気になるのは料金メーターと運転手の人柄です。(みんなそうですかね)


 あんまり無愛想な運転手も嫌だし、かといってフレンドリー過ぎたり、ベラベラと喋ってばかりいる運転手もめんどくさいんですよね。


 その日乗ったタクシーは、まぁ私の地域では割に名の知れたタクシー会社のタクシーだったんですけど、感じの良い運転手さんで安心しました。

 でもね、乗ってすぐに不思議な道順を行き始めたんですよね。


 不思議な道順っていうのは、私も車を運転するので思うのでしょう。


なぜそう行くの?

そうじゃない道の方が簡単でしょう?

という通りにくい道に入っていくんです。


 うちは割と街中にあって小道がたくさんあるんですよね。

 一方通行も多いですし、運転しにくい地域かもしれません。

 ただタクシーの運転手さんは道路の事は大体頭に入ってるものですよね。

当時はナビもなかったですし。


 でその運転手さんが、私の思っている道じゃない方向へ進み始めたので

「どうしてそういう風に進むんですか?」というふうに聞いたんですね。


 すると運転手さんは

「こっちに行った方が信号にかかりにくいんですよ。」って言ったんです。


 私は、「へぇーっ」と感心した声を出しました。


 でも、内心は(そんなに毎回うまくいくとは限らないんじゃないかな)と思っていました。


で案の定、心配していた通り1番最初にあった信号に引っかかってしまうんです。


「あら、残念ですね。信号にかかっちゃいましたね。」


「いや、ここは仕方がないんですよ。ここから信号が青になってスタートしたらほぼ止まらずに行けますよ。」


 ホントかよ?って普通に思いました。


 そして、そこからは、タクシー運転手は見事な運転さばきを披露しつつ、信号はすべて青で、ゴールの某駅に到着しました。


 途中から驚きと感動で私は運転手さんを質問攻めにしていました。


「どうしてこの道順で必ず信号が青だとわかるんですか? 覚えてるんですか?」


「いや長くやってるとね、暇つぶしにね。どうやったら信号にかからずに行けるか研究してしまったんですよ。」


「いやすばらしいですよ。こんなことができるタクシーの運転手さんは、そうそういないんじゃないですか?ちょっと感動してます。」


「いやありがとうございます。そんなに喜んで下さるお客さんもあんまりないんですよ。嬉しいです。」

 

「そうなんですか?みんな驚くんじゃないですかお客さんは。」


「お客さんは案外偶然だと思ってたりするんですよね。」


「そうなんですね。いやー気が付いてよかったです。感動しましたよ、ありがとうございます。」

というような会話をしながらあっという間に目的地に到着しました。


 いや、ホント凄すぎました。


15分くらい乗って信号を10回くらい?もっとあったかもしれません。


 すべての信号が青だったんです。


 街中のほとんどは、ノンストップで行けるとおっしゃっていました。


 すごい!


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