第15話 生まれかけた赤ちゃんを股に挟んで歩く。
結婚して2年経った28歳の頃でした。
私はふと妊娠しようと思いました。
しかも女の子を。
なぜ女の子かというと、当時破格のイケメンだった夫(過去形)に相談したところ「男の子は要らない、愛せない、捨てる。」と言う阿保ぶりだったからです。
そして男の子がダメならと女の子を産む段取り(イロイロと調べて実行)をして女の子を妊娠することに成功しました。(偶然かも…。)
一発大当たりで授精した時も、無事に安産で生まれた女の子にも、夫は愛情や好奇心よりも自分が父親になったショックで荒れてしまいました。(自分は父親になっていいのだろうか、自分は父親になってしまった…と)お酒が入ると決まってグチグチ言い、家でも外でも深酒をしてしまっていました。
そんな状態でしたので残念ながら、子を授かった喜びを夫と分かち合うことはできませんでした。
妊娠検査薬で一応妊娠の確認をし、一人で妊娠に向き合い対処していこうと決心してから不思議な感覚に囚われました。
私は妊娠出産についてほぼ知らない…。
自分の人生で何度も妊婦に出会い、授乳をみる機会もあったのに自分のハッキリとした知識は妊娠するところまででした。
出産は人類繁栄のための一番重要なことではないのか?と思い、学校でその一番重要なことをほとんど学んでないことと自分の無知に大変ショックを受けました。(ちょっとは学んだ気もするけれど印象が薄い感じ)
産婦人科へ行き、妊娠を医者から告げられた後、本屋へ行き『妊娠出産』の本を二冊買いました。一冊だとその本にミスがあった場合、命に関わると思ったのです。
一から自分で未知の世界へ飛び込んだような気持ちで勉強し、妊娠ライフを一人で楽しみました。
初めての出産は超安産で、病院へ行って二時間で長女は生まれました。
それから8年、私たち夫婦は占いで『8年から10年の結婚生活で子ども二人を授かり離婚する』と毒親に決定されていたので、わざと11年目に乗り気でない夫を説得し二人目の子(これも女の子に決定で)を一発大当たりで授精しました。
不思議なことに乗り気でなかった夫は、次女については妊娠や子育てに何気に参加できていました。すでに父親になっていたので父親になるショックが無かったのがよかったのでしょうか。
人は環境に慣れるんですね。
私はといえば、一人目の出産の時、妊娠ライフを楽しく過ごせたので二人目も軽く考えていました。ところが二人目は高齢出産だったせいか、体調もよろしくなく体重も増えすぎで、しんどいばかりでした。
40歳手前の高齢妊娠ゼイゼイハアハアで、子どもを一人面倒見ながらのピアノのレッスンもしながらの妊娠ライフは、妊娠35週目に腹痛(軽い陣痛でした)と出血で絶対安静の入院生活になりました。(妊娠37週0日からが普通の出産になります。)
ベッドで陣痛を止める点滴をされ続け、『一日でも長くお腹に留めて子を大きくしてから産みましょう。』と産婦人科医に言われ、陣痛が軽くなったり重くなったりしながらの何ともしんどい寝たきり状態を二日過ごしました。
医者から
『早産だと赤ちゃんが小さくてトラブルが起こりやすいので出産が始まる時は未熟児センターに連絡をして万全を期すので安心してくださいね。』
との有り難いお言葉のおかげで不安で一杯になりました。
「トラブルが起こりやすいのね…。私の赤ちゃん大丈夫かな…。」と。
陣痛が起きているのに陣痛を止めるというのはものすごくストレスで痛みでおかしくなりそうでした。
「も、もうダメです…。」と先生に訴えて、二日目にやっと点滴を外してもらいました。(本当は37週まで持つつもりでした)
点滴を外した途端、陣痛は激しさを増したので出産に入りました。
陣痛と陣痛の合間の痛みのない2~3分を狙って、病室から看護士に連れられ歩いて分娩室の隣の部屋に移動、部屋に着いた途端、陣痛が起き立ったままベッドにしがみついてやり過ごし、陣痛が引くと急いでベッドに上がりました。
もう、陣痛の間隔は2分ほどで「破水したら分娩台に行きましょうね。」と言われて、いつ生まれてもよい感じなのになかなか破水しなかったのですよ。
それで、先生が待ち切れずに「破水させて。」と助産師さんに言っちゃいました。
これがいかん!これが!
助産師さんが何やら長い棒でちょいちょいと股間から突くと、ドバっ羊水が流れ出て…。
次の陣痛で叫びました。
「あ~、生まれる~!」
赤ちゃんが腹の中央から股の方向へ移動してきて、息みたい衝動に駆られ
「生まれます~!出ます~!」と叫ぶと、
先生が、
「駄目~!産んだら駄目~!そこで産んだら後始末が大変だから待って~!」って。
もうびっくりです。
「ええー???」
思わず自力で息むのを止めて我慢してみました。
でもね、もう出る寸前なのがわかるんですよ。
なんか頭が股の間に挟まっているんですよ。
「この陣痛がおさまったら分娩台まで来て!」
「え?え?どうやって?」
「歩いて!大丈夫、赤ちゃんを押さえておくから!」
「はい?」
と考える間もなく陣痛が収まった途端に
「はい、立ちますよ~。」
と立たされ、助産師さんが股を押さえて赤ちゃんが落ちないようにしてありえない程のがに股で歩かされ分娩台へ。
分娩台ってえらい足を開くから乗りにくいんですよ。
赤ちゃんの頭を挟んだまま、ずっと股を押さえててもらって何とか分娩台に乗りました。
ほんの5~6メートルの移動でしたよ。
でもね、分娩台に乗り終えた瞬間に陣痛が始まり、息んで2秒で生まれてしまいました。
なんせ、35週の赤ちゃんですから小さくてツルンと。
「おっとと!」
先生は落としませんでした。当たり前ですけどね。
ちっさい赤ちゃん(2200g)は
超高速で「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ!」って元気に泣きました。
3200gあった長女は「ほうわぁぁぁ、ほうわぁぁぁ、ほうわぁぁぁ、ほうわぁぁぁ!」って呑気な感じで泣いていたので一人一人産まれた時から性格が違うんだなぁ、と思いました。
そういえば、私が分娩台に乗ってから設置する予定だったらしいシートは設置できなかったようです。なんせ分娩台に乗って2秒でしたから。
なんかびしょびしょっぽい感じで看護士さんが床を拭いていましたよ。
いや~それにしても産まれかけてても陣痛の合間なら歩けるんだ~ってもうびっくりですよ。
ひとの身体って不思議です…。
もう、産まれかけてるんだから何処が汚れようと妊婦が楽なように産ませてよね。と、とっても思いました。
ご存知ない方のために。
テレビドラマなんかで出産シーンとかありますが、あれは陣痛の最中で産まれる寸前です。
陣痛と陣痛の間ってシーンとしてて使えないくらい普通なんですよ。
「うわー、死ぬー、痛い~!」
と叫んでいたのが嘘みたいに陣痛が数十秒で終わり痛みがかけらもなくなるのです。
「ねぇ、ちょっとお茶ちょうだい。疲れたわー。アッツ~!」
って普通に汗拭いてリラックスしてると急に、はい、休憩終わり、みたいにキッチリ陣痛が始まり
「来た来た来た、うぎゃ~!痛い~!なんで~!」
って感じです。
まぁ、安産だった私の感覚です。
出産も個人差が大きいと思いますので大変な人は2度とゴメンだと思うことでしょう。
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