第13話 子を間引くということ

 祖母の話です。

 

 私の祖父母は、『ぞうきん』をカタカナで『ザウキン』と書く時代の人でした。


 祖母は昔の大女で160cm近い身長で骨太なおばあちゃんでした。

 今でこそ女性の160cmくらいではさほど高くはないですが、当時、そのような長身の女性はめったにいなかったでしょう。


 祖父も170cmくらいで当時では大男でしたが、とても痩せており、祖母が余計に骨太に見えたものです。


 その祖母は、信じられないかもしれませんが、カタカナ以外の字が読めませんでした。


もちろん、『自分の名前』以外の文字も書くことがほとんどできませんでした。


 反対に霊能者の祖父は身体が弱く、ろくに学校へ通えなかったのに字の読み書きが普通以上にできていたのは、家で勉強をする時間があったからだそうです。


 お経ばかりを読み書きしていたのでいつの間にか覚えたのだそうです。


 祖母は、もらわれっ子で学校には行かせてもらえなかったので祖父と結婚して祖父から少し習い、読み方(カタカナのみ)を覚えたそうです。


 祖母は大きな身体で男の人よりも重い物を持ち上げるほどの力持ちで、たんぼでも畑でもよく働く人でした。


 田舎では、ニワトリを絞めて(首を絞めて殺す)バラして調理することは、当たり前の時代でした。


 牛も祖父母が若い頃は、協力して解体して食べていたと聞いたことがあります。


 そんなたくましい祖母でしたが、私は祖母が泊まりに来るといつも夜、寝る前に一緒の布団に入り、絵本や童話を読んであげていました。


 それは、私が小学4年生くらいから高校生になるくらいまで続いたと思います。


 自分で本を読むことができない祖母はとても喜んでくれ、わからないことを質問したり物語の感想を聞かせてくれたりしました。


 今思い出してみて、私も心が満たされる大切な時間だったと思います。


 その祖母が一度だけ私に自慢したことがありました。


 それは、私が高校生の頃だったでしょうか。


 「わしの子は、皆じいさんが取り上げたでよ~。わしは一人も間引かなんだ。よそが間引いてもわしは間引かなんだ。わしは、自分でそれだけは偉いと思うとる。」


 「???」


 高校生の私にはさっぱりと意味がわからず、

「取り上げたって?間引くって?」と聞きました。


 祖母は教えてくれました。

「子を生む時にお産婆さんを呼ぶ金がなくてのう、じいさんが、取り上げたのよ。皆、6人とも、じいさんが。」


 「取り上げた」とは、自宅で夫婦二人で出産し、祖父が出産を手伝い、6人の子どものヘソの緒を切っていたということでした。


 「間引く」とは、生活苦から家族を増やせず、生まれた子をすぐに殺して埋めるという風習があったということのようでしたが、あまりに衝撃的で、それがどのような頻度で、どの程度の家庭で行われていたのか、近所の家でもあったのか、とても聞けませんでした。


 子を間引かなかったので、その地域では6人も子どもがいる家は祖父母の家だけで、中学や高校の学費や諸経費が支払えない月があると町内放送で名指しで催促されて辛かったと。


 世界中で『子を間引く』ということが行われていたのだと、情報のあふれている今だからこそ知ることができますが、高校生の私には遠い未開の地の裸族の話のようでした。


 その祖母は霊能者の夫がいたのに、脳血栓で半身不随になり、あまり良い晩年とはなりませんでした。


 祖父の霊能力は妻のためには発揮されなかったようです。

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