第7話 カマキリの交尾を正確に絵に描いた次女

 私は小さな頃から昆虫を追いかけて育ちました。

 そのせいか、今でも虫取りが好きで長女が小さい時から子どもはみんな昆虫取りが好きだと信じていました。


 蝉、蝶、バッタ、トンボ、かぶと虫、くわがた虫、かたつむり(昆虫じゃなくて陸に住む巻貝)、カマキリ、ナナフシ、いろいろと捕まえて子どもと観察しては逃がしていました。


 かたつむりを見たいという長女のためにかたつむりを探し回ったこともあり、全然見つけられず諦めて家に帰り夕食の準備をしようと、冷蔵庫の野菜室を開けたら野菜にかたつむりが二匹くっついていて大喜びしたこともありました。


 そんな長女は実はママに付き合っていただけで、そこまで昆虫が好きな訳ではなかったと、8歳下の次女と昆虫取りを始めた頃に言われました。


 まぁ、女の子は年頃になると急に虫を見てキャ~とか言いはじめますよね。


 そんな長女にベッタリだった次女を昆虫取りに誘い、私と一緒に次女が公園へ行ってくれるようになったのは小学1年生になってからでした。


 次女は本当は外遊びが好きで昆虫も好きだったので、一緒にいろんな場所へ行っていろんな昆虫を捕まえては観察して楽しみました。


 長女の時は、全部私がやる感じでかぶと虫と蟹とかたつむりくらいしか家で飼育していませんでしたが、次女は自分で揚羽蝶の幼虫を持って帰って育て成虫にしてベランダから放したりしていました。


 その次女が二年生の時のことです。

 ある山へ遊びに行った時、捕まえた二匹のチョウセンカマキリを持って帰りたいと言い出したのです。


 基本、捕まえた昆虫はすべて逃がしていました。



 自分が子どもの時は、昆虫といえば簡単に殺していい物でした。

 兄はトンボに糸を結び付けて飛ばしていましたし、私は捕まえたトンボが弱れば、一匹ずつ並べハンカチをかけて看病していました。


 夏は毎日、蝉は虫かごの中で数十匹が夕方には死骸となり原っぱに捨てられていたし、ミミズは切って遊ぶ物でした。

 祖母は生きたアブの羽をちぎって孫の遊び道具にしていました。


 そんな話は一切聞かせず、無駄に死んでかわいそうだから逃がして帰ろうと説得しても、捕まえた二匹とも飼いたいと頑張ります。


 たまにはいいか、とこちらが折れて、餌のバッタを毎日捕りに行くことを約束させてカマキリを持って帰りました。


 カマキリは自分で狩った生きた昆虫しか食べないのです。


 次女は約束を守り毎日、まあ時には二日分、三日分のバッタ(少し小さい)を公園へ捕りに行きカマキリとは別の虫かごに入れて飼い、一日に数匹、カマキリの虫かごへ入れてはカマキリの狩りを見て喜んでいました。


 生きたバッタを食べる様子は、あんまり大人は見たくない感じです。


 二匹のカマキリは脱皮も見せてくれ、家族はもちろん、うちにピアノを習いに来る生徒達も十分に楽しませてくれました。


 一度、長女の悲鳴を聞いたことがありました。


 玄関に置いてある餌用のバッタが入った虫かごの蓋がズレていたので、バッタが逃げて廊下とトイレのドア、白い壁一面に散らばり緑色の模様ができていたのです。(何故か、床にはいませんでした)


 長女は朝、トイレに入ろうとトイレの前に行くと、キュウリの細かく切った物がドアに散らばって付いているので何でキュウリ?と思い近づいて見たら全部バッタだったそうで、そりゃあもう、すごい悲鳴でした。


 すぐに次女と私でバッタを捕まえ虫かごに入れました。

 朝っぱらからしたくない作業でした。


 

 無事に成虫になったカマキリは、オスとメスでした。


 成虫になってしばらくして、どうもオスがメスを追いかけているようでした。

 

 次女は、オスがメスを食べようとしていると思ったようでバッタをたくさん入れてみたり、二匹を離してみたりしていましたが、交尾が始まるのではと夫も私も思っていました。


 夫の提案で虫かごの蓋を外し長めの木の枝を置き、交尾と産卵に備えました。


 カマキリから目が離せなくなって長女以外は、みんな時間の許す限りカマキリを見ていました。


 次女にオスがメスに近づいても触らないように言い、自然に任せることにしました。


 すると、あっという間にオスがメスを背中から捕まえました。

 緊張が走りました。


 すると、メスは振り返りオスの首辺りを食べ始めたのですよ。衝撃的でした。子どもに見せていいものなのかと戸惑いました。


 オスのお尻から何か伸びてメスのお尻の辺りに絡まっていきました。ここでも、子どもに見せていいものなのかと戸惑いました。


 そんなことがカマキリの下半身で起きているのに、メスはオスを食べ続けているのです。


 そして、それを戸惑いながら見つめていた私達はショックを受けます。


 オスの首がちぎれて頭がボトッと下に落ちたのです。


 それでも交尾は続きます。オスは首から上を無くしてもメスの身体を離してはいないのです。


 メスは振り返ったまま、黙々とオスを食べ続けていました。


 次の日の朝、オスは上半身が無くなってカマや足が下に落ちていました。それでも下半身は絡んでいました。


 そんな状態で二日くらいしたらメスにくっついていたオスの身体が下に落ちていました。


 メスは動きが鈍くなり何日かして置いてやった木に登りタマゴを産み始めました。

 これも何日かかけてゆっくりでした。


 その後、しばらく生きたメスも命が尽きました。


 カマキリの卵は春になるまでふ化しないけれど家の中に置いておくのは危険です。

 マンションは玄関とはいえ冬でも室温はかなり高いので、間違ってふ化したらとんでもないことになるでしょう。


 長女が、早く外に出してと、ひつこく言っているのには理由がありました。


 長女が小学校低学年の頃に教室で、朝早くに置いてあったカマキリの卵がふ化していたのです。


 そして、教室中に400匹ぐらいいるだろう赤ちゃんカマキリは散らばり、見えにくく、登校してきた多くのクラスメートは気がつかず踏んでしまったそうです。


 後片付けは、気持ち悪過ぎて二度と見たくも片付けたくもない嫌な思い出となっているようです。


 結局、卵は夫の実家の庭に置きました。

 その後、知らないうちに卵の中は空になっていました。


 カマキリの交尾について長女はお年頃でスルーしていましたが、次女は衝撃を受け夏休みの絵日記にしました。


 その絵には、カマキリの上に首のないカマキリ、下に落ちたカマキリの頭、絡んだ二匹の交尾の様子がリアルに描かれていました。


 真実を見て知った感動を文章と絵にした訳で、なんら問題はないはずなのに、いいのか?これを学校に提出して小学生二年生のお友達やその保護者に見てもらって大丈夫なのか?(夏休みの宿題は、教室の後ろに張られる)


 まだ見せるには、早かったのではないか?

と思いました。


 結局、せっかく描いた絵を提出するなと言える訳もなく小学校に持って行きました。


 担任の先生からは、大変なお褒めの言葉をいただき、ここまでやられたなら、理科の研究発表にすればよかったのにと残念がられていました。



 次女は今JKですが、うちの車のトランクには、まだ虫とり網と虫かごが二人分のっています。


 




 

 










 




 


 

 


 

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