第8話 5対1の取っ組み合いのケンカ
近所に住むMちゃんは目の大きい勝ち気な女の子でした。
Mちゃんのお兄ちゃんは二つ年上で、いつも妹をイジメている印象でした。
そのせいでしょうか、Mちゃんは機嫌が悪くなると友達に意地悪を言う子でした。
私もMちゃんも小学一年生で、近所に住んでいてクラスも同じでしたし、よく一緒に遊んでいました。
Mちゃんは、しっかりしていて、みんなの前で発表もでき、我が儘も言えるリーダー格の女の子でした。
私はといえば、Mちゃんと一緒になら元気にクラスメートたちの真ん中で騒げるのですが、一人では前に出ることはできないおとなしい子どもでした。
その日、私はMちゃんとMちゃんと同じアパートに住む幼稚園の6歳男児とその弟の4歳児、何処からか遊びに来ていた6歳くらいの男の子二人、合計6人で遊んでいました。
みんなで仲良くMちゃんの住んでいるアパートの横にある広場で地面に絵を書いて遊んでいました。
みんなご機嫌で遊んでいたはずなのに、私の描いたリアルなチューリップの絵を見たMちゃんが突然、
「そんなのチューリップじゃない!」
と言い、私の絵に対しての批判を始めました。
すると、そこにいた年下の男の子たちがMちゃんに同調しました。
5対1の関係ができ、それはエスカレートしていきました。
「チューリップはこう描くのに変だ~!」
「下手くそー!」などと言っていたのが、だんだんと私自身への悪口になっていきました。
「バーバラは今日、学校で手を挙げて発表していないから馬鹿だ。」とMちゃんが言うと男の子たちは一緒になって
「バーカ、バーカ!」と連呼しました。
私はMちゃんが意地悪を言うと必ず無言で、いつもMちゃんの頭を平手で思いっきり叩いていました。
たいていそれでMちゃんは大泣きを始めるのです。
そして、私は走って逃げて帰るのが定番でした。
でも、その日は違いました。
いつものように思いっきり叩いたのに
「いたいじゃないの!」と言い返してきました。
同じアパートに住む年下の男の子たちがいるからでしょう。
男の子たちは、いきなり暴力を振るう私に驚き一歩下がりました。
いつも泣き始めるMちゃんは、グッとこらえ私に向かって反撃にでました。
私は興奮すると口より手が先に出るタイプで、年の近い兄が二人もおりケンカをするのは慣れています。
さっと、Mちゃんの振り上げた手をつかみ押し倒そうとしましたが、Mちゃんは踏ん張って動きません。
Mちゃんは私の腕を振り払いたくて必死で腕を動かそうと顔を真っ赤にして頑張っています。
私は身体がクラス一大きく、Mちゃんはクラス一小さいのであまり負ける気はしていなかったのですが、思わぬ展開が待っていました。
そこにいた男の子たちが、Mちゃんを助けるために私に攻撃を始めたのです。
Mちゃんの腕をつかんだ状態で、男の子3人に服を引っ張られ、腕に噛み付かれ、足や背中を殴られ蹴られ、4歳児に石を投げられ、砂を投げられ、さすがにこれでは負けてしまう、と思いました。
しばらく頑張っていましたが、5対1な上にMちゃんの両腕をつかんでいて両手がふさがっているので男の子たちにやられ放題です。
もう終りにするには、Mちゃんをなんとか泣かすしかありません。
私はMちゃんの腕を離し素早くMちゃんの髪の毛をつかみ、男の子たちを蹴り払い、Mちゃんの身体を引き倒して5メートルくらい引きずりました。
そこで、やっとMちゃんは、いつものように
「うわーん!うわーん!」とサイレンのように泣き始めました。
すると、一緒に戦っていた男の子たちも一斉に声を挙げて泣き始めました。
「ふう、勝った…。」と思いましたが、5人の子どもが、いっぺんにギャンギャン、ワンワン、うわーん、と泣くのです。
すぐにアパートの二階の窓が、ガラリと開き、
「こらー!お兄ちゃん!やめなさい!」
と怒鳴りながらMちゃんのお母さんが顔を出しました。
私は倒れたMちゃんの髪の毛をつかんだままの体勢でMちゃんのお母さんと目が合いました。
Mちゃんのお母さんの怒鳴り声で子どもたちはピタリと泣きやみ、シーンとした気まずい空気の中、二階にいるMちゃんのお母さんとMちゃんの髪の毛をつかんだまま見つめ合っていると、
「僕じゃないよ…。」と
Mちゃんのお兄ちゃんが物陰から出てきました。
ケンカの様子をこっそりと見ていたのでしょう。
直ぐに私に近寄り
「お母さん、血が出てるよ!」と二階に向かって叫びました。
私は自分で思っているよりも酷くやられていて身体のあちこちが痛く、Mちゃんの髪の毛から手を離して腕に流れる血の出所を探しました。
腕にはキレイな歯型が付いているだけで怪我を見つけられないでいると、Mちゃんのお兄ちゃんが、
「うわー、頭から血が!お母さん!」と騒ぎ立てました。
Mちゃんのお母さんが急いで外へ出て来ました。
Mちゃんのお母さんは頭からの出血を確認して、男の子が手に持っていた石を見て
「ごめんね、ごめんね。」と何度も言いながら私をアパートの部屋に連れて行きました。
ティッシュで出血した後頭部を押さえて止血し、血で汚れた顔や腕を拭いてくれました。
その頃にはアパートに住む男の子のお母さんも来ていて、お詫びを言ってくれました。
ケンカして泣かした子どもたちは逃げた子もいましたが、お母さんに叱られ再び泣きながら私の前に連れて来られ謝らされました。
私は心の中で
「血が出てラッキィ!」と思っていました。
先に手を出したのも泣かしたのも自分でしたから。
そのあと、逃げた男の子たちのお母さんも一緒に家まで来てうちの母親に謝っていました。
その時代、多少の怪我では病院に行く習慣などないですから、ちり紙を5cmくらい重ねて枕にして寝かされて起きたら傷にちり紙が一枚ぺったりと付いて乾いていました。
枕にした残りのちり紙には直径5cmくらいの血の円ができていました。
そのちり紙を見ながら、ケンカで血が出たら得なんだ。
「へえー。」と思いました。
次の日、小学校の教室で再びMちゃんは私に
「怪我させてごめんね。」と謝るのでした。
納得できていたのでしょうかね。
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