余話

『はい・・・』

 彼女、つまり五十嵐真理こと『マリー(そう呼んでくれと本人が言うんだからしかたないだろ?)』は布団の上で体を反転させ、手探りで枕元に置いた銀のシガレットケースとジッポを取り、中から一本、茶色いシガリロをつまみ出すと、口に咥え、

チャリン!

 と音をさせて火をつけ、そのまま隣に寝ていた俺に渡した。

『悪いが、やらないんだ』俺はそっけなく答えた。

『あら、意外ね。お酒もあっちも、あんなに強いのに?』

 真理は煙を吐き出し、くすりと小さく笑う。

『以前はもう30分もしないうちに、部屋の中がガス室になるほど喫ってたものだがね。あるきっかけでしばらく喫わなかったら、それっきりになっちまった。それだけのことさ』

『私なんか駄目ね。酒も煙草も、いつまで経っても止められないわ』

仰向けに寝ながら、紫煙を天井に向けて吐き出す。

『男も、じゃないのか?』

『やな人・・・・・』

 彼女は手を伸ばし、枕元の灰皿にもみ消すと、その代わりに今度はスマートフォンを取った。

 紅色のマニュキアを塗った指先が、ディスプレイの上をせわしなく動き回る。

『・・・・乾宗十郎・・・・・職業私立探偵。元陸上自衛隊第一空挺団所属。最終階級一等陸曹・・・・普通科レンジャー及び空挺レンジャー資格保有・・・・』

『驚いたな。そんなことまで分かるのか?』

『私を誰だと思ってるの?これでも現役の警察官よ。情報収集なんて朝飯前だわ』

彼女はスマホをポンと放り投げ、俺の方に身体を向け、首に両手を絡めてきた。

『もう野暮なお話はやめましょう・・・・折角の夜なんですもの』

 ルージュを塗った唇が、俺の口を捉え、歯を割って、舌が蛇のようにはいずりこんできた。

『ねえ、もう一度と言わず、いいでしょう?』

 まあ、いいさ。

 俺だって木仏金仏じゃあない。

 今度は積極的にこっちから抱きしめた。

                               終わり

*)この物語は架空のものです。登場人物その他全ては、作者の想像の産物であります。


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マリーよ銃を取れ 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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