第5話
長閑で小さな温泉町に、これだけの警察が押し寄せてきたのは、恐らく初めてのことだったろう。
三人組はそれぞれ手錠腰縄で、警察官の付き添いで救急車に乗り込み、病院へと運ばれていった。
命に別状はないそうだ。
当たり前だが、俺は事情を聞かれたが、探偵免許とバッジを見せると、向こうも不承不承ながら納得はしてくれた。
(今の世の中、例え胡散臭いと思ったって、免許持ちの探偵ってのは、このくらいの権威はあるもんだ)
だが・・・・
問題は彼女、つまりあの『真理』という女の事だ。
いくらなし崩しに銃の所持がずるずるになっているご時世とはいえ、流石に民間人が発砲をしちまったのは不味い。
だが・・・・その後の展開は、実に意外なものだった。
彼女は手に持ったハンドバッグから、黒い革製のホルダーを出して、事情を聞いていた警察官に提示した。
警官はそれを見た途端、頭の天辺から足の先まで緊張させ、目をむき、
『ちょっと、お待ちください』
といい、少し離れたところに止めていたパトカーの無線を取り、何事か問い合わせ、戻ってくると、なんと敬礼をしたのである。
『失礼しました!五十嵐警視殿!』
『お判り?探偵さん?』
一通りの捜査が済み、パトカーが引き上げると、彼女はにこりと笑って俺に言った。
『警視庁外事課特殊捜査班主任、五十嵐真理警視、か・・・・』俺は彼女の身分証を改め、手渡した。
彼女は国家公務員第一種試験をパスした、所謂、
『キャリア組』というやつだった。
『なるほどね。ただ者じゃないと思っていた』
『拳銃なんか撃ったの、久しぶりだわ。』
半年ほど前のことだ。
都内で発砲事件があった。
某国の大使の息子が、闇組織から仕入れた銃を使って、不良外国人集団の数名を射殺した。
麻薬絡みのもめ事だったらしい。
その巻き添えで、民間人の少女が一人、流れ弾で射殺されてしまった。
捜査の指揮を執っていたのが、彼女、つまり五十嵐真理だったのだ。
だが彼は外交官の家族ということで、警視庁も逮捕拘束には二の足を踏み、結局釈放されてしまったのだ。
彼女は警視庁の上層部と揉め、あろうことか管理官一人を会議の席上でぶんなぐってしまった。
『それ以来、銃が握れなくなってしまったの、だから女は・・・・って、散々言われたわ、それでちょっと嫌になって、ここに来てたの。』
『でも、あの時のあんたは、ためらいがなかったぜ。』
『ふっきれたのよ。貴方のお陰よ』
『俺はそんな大層な存在じゃないさ。たとえ誰かを撃ったって、撃たれたって、これっぱかりのもんさ。ただのちんけな探偵だからね』
彼女はまた、微笑んだ。
『どう?今日はもう何も用事がないんでしょ?だったら付き合わない?』
『いいよ』
俺は答えた。
まあ、別に仕事じゃないからな。行きずりのなんとかってのも悪くはない。
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