第3話

俺は言われた通りに両手を挙げ、ちらりと横を見た。

背の低い、ひげ面でぼさぼさ頭に、茶色の皮ジャンを着た男がショットガンを構えてこっちを睨んでいた。

『折角いい気持で散歩から帰ってきたら、武装銀行強盗のお出迎えとはね・・・』俺が言うと、奴は、

『何で俺たちの事を知ってる?』

銃口をこっちに向けたまま、俺の身体を探りながら言った。

『もうここらじゃ有名人みたいだからな。さっき駐在所の前を通ったら、巡査と自警団が騒いでたぜ』

やつは『ちっ』と声をあげ、俺に上がるように促した。

俺は下駄を脱いで奴の言うとおりにすると、チビは後ろに回り銃口を背中に突き付け、今度は二階に行けという。

拳銃?

幾ら強面の私立探偵だからって、休暇にまで拳銃をぶら下げてくるなんて無粋な真似はするもんか。

二階はちょっとした宴会が出来るくらいの大広間があり、俺は背中の銃口に睨まれながら、襖をあけて中に入った。

そこには泊り客の老夫婦二組に、仲居を始め番頭、宿の主人夫婦・・・・それからあのマリーという美人が、一塊になって座らされていた。

床の間の前にはスキンヘッドの大男が、積み上げた座布団の上にどっかと腰を下ろし、手にはM1カービンを構え、人質たちをねめつけている。

人質達の後ろにはもう一人、ロン毛で中くらいの背丈の男が、これは右手にGⅠコルト、そしてベルトには44口径のブルドッグを挟み、嫌らしい笑いを口元に浮かべていた。

『誰だ?そいつは?』俺の顔を見ながら、坊主頭がチビに聞いた。

『ここの客みたいです。さっきまで散歩に出てたらしいんですが、どうやらこのあたりにも手がまわったみたいですぜ』

 坊主頭は俺に座れと命じる。

 俺は黙って言われるとおりにした。

 坊主頭の傍らには、大ぶりのボストンバッグが2つばかり積み上げてあった。

 どうやらあれが七千万円の札束らしい。

『ボス・・・・どうしやす?早いとこずらかっちゃ』

『なあに、そう慌てることはねえさ。幾ら奴らがいても、こっちにはこれだけの人質がいるんだ。』

どうやら坊主頭が三人組のリーダーらしい。

俺はさり気なく、人質全員を眺めた。

皆おびえきったような顔をしていた。だが、ただ一人、そう、あの『真理』という名の若い女だけは、落ち着き払ったような顔をしている。

しかも、単に落ち着いてるだけじゃない。

極めて冷静に、周囲の様子を観察しているのだ。

(あの時、露天風呂での態度や物腰・・・・やはり俺の目には狂いはなかったな)

俺は一人心の中で呟いた。

『なあ、来て早々悪いんだが・・・・』俺は三人組に向かって手を挙げた。










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