エピローグ


「……それで? その後はどうなったんだい?」呆れたような冬月の声=興味半分/怒り半分と言った口調。

「家に帰ってマリア医師が来てくれるのを待ったよ。何しろ普通の手足に戻らなきゃどうにもならねーからな」参った参ったという風な涼月の声/やや疲れ調子で語り続ける。「おかげでお説教もたっぷり食らっちまった。何で特甲を着けてんのかもしつこく聞かれたよ。あたしだって本当の所は何も分からないってのにな」

 平和極まりないランチタイムの学食――フロア内を漂う食べ物の香り/賑やかな学生たちの喧噪/テーブルの上には誰かが持ち込んだ新聞/その見出し=『特甲児童の活躍により、地下に潜むサイバーテロリストを一斉検挙!!』。

 本文の中に当然涼月の名前は無し――最初からそこには存在して居なかったかのように陽炎や隊員たちの活躍が華々しく書かれている/選定された写真が乗せられている/広報課と親友たちの配慮の賜物。

「当たり前だよ。まったく……急に学校を何日も休んだかと思えば、一人でそんな無茶な事をしてたなんて」ぷりぷり怒りながら昼食のカレーを平らげる冬月=口から離したスプーンを彼女へと突き付ける。「僕らがどんなに心配してたか、君には分からないだろうね」

「そーそー!」隣の席から追従する柳=レタスの突き刺さったフォークをびしっと涼月に向ける/〝あたしも怒ってるんだからね!〟と言わんばかりの態度。「あんなことがあったばっかだったし、すっっっっごく心配してたんだからっ!!」

「……悪かったよ」困ったように頭を掻く涼月=ちょっと不貞腐れ気味に。「あの時はそれ所じゃなかったんだ。もう勘弁してくれよ」

 学業をほっぽらかして吹雪探しに勤しんでいた涼月――登校するなり教師陣から次々と無断欠席を咎められる&問答無用の厳重注意&全教科での補修コースを受ける羽目に。

「ったく……犯人捕まえて吹雪も助けたってのに、こんな目に合うなんてなぁ……」ブリックパックの牛乳を片手に問題集と睨めっこ――遅れていた分の授業に必死ひ追い付こうと食事中も勉強にあてる。「これなら学生になったのは間違いだったかもしれねーな」

「自分で試験まで受けて入学してきた癖によく言うよ」肩を竦めながらちらりと冬月が問題集を見つめる/答えが間違っている個所を見つける。「涼月、そこの三問目まちがってる。正しい答えを出すにはここの公式を使うんだ」

「まじか?」言われてから間違いに気づいた涼月/参考問題を見ながら式を書き直す。「ありがとな。助かったぜ」

「まったく……そんな調子で留年になったらどうするんだい?」

「そん時はそん時で何とかするさ」涼月=さして気にもせず/二人の顔を交互に見つめる。「幸いあたしには苦手な科目を教えてくれる親友が二人も居るからな。留年しそうになったとしても何とかなるだろ」

「僕らをあてにする気かい?」冬月=再び呆れたように。「やれやれ。友達の頼みとあれば力にならない事はないが、それなりの見返りが欲しい所だね」

「見返りって……」困ったように二人を見つめる/今度は何を要求されるのかと戦々恐々。「一体何すればいいんだよ?」

「そうだね……さしあたっては、君の親友である特甲児童を僕らに紹介するっていうのはどうだろう?」面白そうだという風に冬月が笑みを浮かべる。「みんなが憧れにしてる特甲児童とお近づきになれるチャンスだ。サインくらいは貰っても罰は当たらないと思うね」

「いーじゃんそれ!」賛同するように笑みを浮かべる柳。「陽炎って子すごい美人だし、あの子を次のパーティに誘えばきっと楽しいことになるっしょ」

「お前らなあ」現金極まりない親友たちに呆れる涼月。「まあそんなんでいいなら、今度言っておいてやるけどよ」

 ひとしきり昼食を終えた冬月が思い出したように尋ねた。「それと涼月。最後に聞いてもいいかい?」

「なんだ?」

「結局のところ、その特甲は吹雪君が転送したと思うかい? 意識も自覚も居ないままでそんな事が本当に出来ると?」

「さあな。だけどあたしは確かにその時あいつの声を聞いた。だからそうだと信じてる」

 涼月の答えを柳が揶揄する。「いわゆる〝愛の力〟ってやつ?」

「そーかもな」涼月の快活な笑み。「馬鹿馬鹿しいかもしれねーけど、そういう事がたまにはあってもいいと思うぜ。あたしは」

 そう言って席を立つ――ちょうど昼休み終了のチャイムが鳴る。

「先に行ってるぜ。それ片付けたらお前らも早く戻って来いよ」

 一足先に教室へと戻る涼月を見送る二人――お互いにさもありなんと言った表情を浮かべると、昼食の食器を片付けてその後を追いかけていった。


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テスタメントシュピーゲル After 白雪の王子 引退小林 @intai_cobayashi

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