急変


 耳をつんざくアラート音=異常事態を知らせるこの上ない証。

「な、なんだ!?」

 突然の事態に驚き戸惑う涼月――何が起きたのか確かめようと立ち上がったその時、入り口の扉が大きな音と共に勢いよく開いた。

 青白い顔で戻って来る柳と冬月=一目で分かるパニック状態。

「大変だよ涼月! 建物の中に銃を持った人たちが入ってきたらしい!」「警備の人たちが急いで避難しろって! 涼月も早く逃げよ!」

「なんだって!?」涼月=瞠目。

 部屋から出ようと咄嗟に椅子から立ち上がる/不意にベッドで眠り続ける少年に目が移る。「……吹雪はこっから動けねぇんだぞ!」

 未だ意識の無い吹雪――このまま彼を部屋に置いていけば、人質として武装犯に利用されかねない。

「吹雪くんの事は施設の人たちに任せよう。すぐに迎えが来るはずだ」

「だけど……」

「早く! 急いで逃げないとあたしらもヤバいんだって!」

 しきりに急かす親友たち=迫り来る死の恐怖に支配され、パニックに陥っている。

 どうしたらいい――選択するべき行動を必死に考える/状況を考察する。

 彼を一緒に連れて逃げるべきか/他の人間に避難を任せるべきか/あるいは二人だけでも先に逃がして時間を稼ぐべきか。

 頭に巡る複数の選択肢――それを一つずつ絞っていく。

 やがて覚悟を決めたように大きく息を一つ吐くと、ベッドで眠る彼に告げた。

「……すまねえ吹雪。また後でな!」

 言うと同時に急いで部屋を出る――不意に廊下の遠くから聞こえてくるもの=鳴り響く銃声と大勢の足音。

「どんどん近づいて来てる……!!」「ヤバい! ヤバい! ヤバいよ! マジでヤバいって……!」ますます顔を青くする二人。

「大丈夫だ。いいから落ち着けって」脅える親友に必死に声をかける/恐怖を少しでも和らげてやる。「くっそ……こんな時に特甲がありゃあ……」

 悪態を付くがどうすることも出来ず――今は音から少しでも遠ざかるべく、三人でビルの廊下を走り抜ける。

 廊下の角をいくつか曲がり、階段を一つ降りたところで、不意に一人の男と出くわした。

「大丈夫ですか!?」施設を巡回していた警備員=おそらく逃げ遅れた人間がいないか探している最中。「ここは危険です! この先で警備員やスタッフが避難誘導をしているので、そちらの指示に従って急いで避難してください」

「あたしらが居た部屋にまだ患者が取り残されてるんだ!」訴えかけるように伝える涼月=必死な声音。「早く助けないと人質になっちまうかも知れない。頼む! 助けてくれ!」

「分かりました!」力強くうなずく警備員。「その方は自分が助けに行きます。ですから、あなた方は早くここから避難を!」

 彼の言葉に従って再び廊下を進む三人――誘導の警備員たちが控えている居るという場所へと向かう。

 そこへ遠くから何発もの銃声――続いて悲痛な男の叫び声。

「くそ……」涼月=事態が悪化してしまった事を悟る。「二人はこのまま先に逃げろ。あたしはやっぱり吹雪の所に戻る」

 ぎょっとする二人=まさかと言った表情。「なに言ってんの!? そんなのいくらなんでも無茶っしょ!?」「そうだ! 今から戻るなんて死にに行くようなものだよ!」

「それでも行かなきゃダメなんだ!」頑として譲らない涼月。「いいからお前らは早く逃げろ! あたしも吹雪と一緒に後から行く!」

 必死に引き止める親友をその場に置いてそのまま廊下をひた走る――そして見つけた。

 穴だらけになって息絶えた先ほどの警備員――おそらく武装犯と鉢合わせしてしまった故の末路。

 見るも無惨な光景の中、唯一無事である右手に握られたもの=九ミリのオートマチック拳銃。

「悪い……これ借りてくぜ」握り締められたそれを強引に引っぺがす/動作に問題がないことを素早く確認する。

 動作、残弾ともに問題なし――それをいつでも撃てる状態したまま、再び吹雪の元へと更に走っていく。

「吹雪……吹雪……!!」

 短距離ランナーも腰を抜かすほどのスピードで廊下を走破し、ようやくたどり着く=『吹雪・ペーター・シュライヒャー』と名札が掲げられた部屋。

「吹雪!! 助けに来たぞ!」大きな音がするのも構わず勢いよく扉を開け放つ/中に居るはずの少年に呼びかける。

「……居ない?」

 本来なら部屋の中で眠り続けている筈の少年――それがベッドごと姿を消していた。

「どういうことだ……? まさか……!?」

 嫌な予感が脳内を駆け巡る=最悪の可能性が浮かび上がる。

 気が付いたら部屋を取び出していた――そのままがむしゃらに廊下を走り抜け、施設の入り口の方へと一直線に向かう。

 そこに居た――少年を乗せたベッドを押し運んでいく黒ずくめの男たち。

「てめえらぁ!!!」

 気が付くより先に引き金を引いていた=容赦のない連射/男たちに弾丸を浴びせかける。「そいつを返しやがれぇぇ!!!」

 涼月の存在に気が付いた男たち=数人の男を先に行かせ、残りの全員が手に持っていたライフルの銃口を涼月の方へと向ける。

 襲いかかってくる銃弾の驟雨――涼月の命を奪おうと殺到する。

「クソ! クソ! クソ!」

 咄嗟に廊下の曲がり角に飛び込む=数秒後に凄まじい量の銃弾が元居た場所を駆け抜ける。

 特甲も飾り耳も持たない涼月――飛び出す事も反撃することも叶わず。

 ようやく銃弾が鳴り止む=次の瞬間、今度は金属が床を叩く音が聞こえた。

 音の原因=敵が投げた手榴弾/追撃してくる敵を振り払うためダメ押しの一手。

 なすすべの無い涼月=廊下のさらに向こうへと後退する羽目に/もう一つ後ろの曲がり角まで下がった所で、にわかに爆発が到来。

 廊下中に飛び散る破片/衝撃――逃げていなければ身体をズタズタにされていたであろう一撃。

 全てが終わってから慌てて元の場所へと戻る――既に無人の廊下/男も吹雪の姿も既になくなっていた。

「吹雪ィィィ!!!!!!!!!!!!」

 成す術のない涼月――ただただその場で叫び声を上げるしか出来ず。


 ◇


 ミリオポリス第二十四区エー・ヴェー――MPB本部ビル。

 無骨な机と椅子だけの殺風景な部屋/さながら刑事ドラマに出てくる取調室そのもの。

 静かにそこに座る涼月――そして対面には制服姿の少女。

「吹雪君を誘拐した連中については現在調査中だ」凛とした少女の声音。「お前に教えられる情報は今のところ何も無い」

 少女=炎のような赤い長髪ロート・グリューエント/透き通った灰色の瞳/モデル顔負けのプロポーションにMPBの制服を着用/任務に忠実な紅い猟犬の風情。

 制服の胸元に名札=『MPB 遊撃小隊〈ケルベルス〉 小隊長 陽炎カゲロウ・サビーネ・クルツリンガー』

「久しぶりに会いたいと思ってはいたが、まさかこんな再会になるとはな。まったく皮肉なものだ」

 困り顔と小さな微笑み=どんな状況であれ、久しぶりに仲間に出会えた嬉しさが滲み出した証。

「ああ。あたしもだよ」やや皮肉っぽく答える涼月=疲れた顔に浮かぶ弱い笑み。「近いうちに会いてえと思ってたが、こんなに早くその機会が来るなんてな」

 それから交わされるいくつかのやりとり/事情聴取――事件に遭った経緯と状況を詳しく伝える。

 そしてそれらがひとしきり終わったところで、やおら涼月が切り出した。

「陽炎、今すぐあたしをMPBに戻すように副長たちに言ってくれ」訴えかけるような声。「あたしも今から捜査に参加する」

 思わず顔をしかめる陽炎=『何を無茶苦茶な事を言い出すんだこいつは』と言わんばかり。「馬鹿を言うな。そんなこと出来る訳ないだろう。忘れたのか? 今のお前はMPBの特甲児童じゃない。今更になって捜査への復帰など、叶う訳がないだろう」

 学生となった引き替えにMPBの所属を離れた涼月――規定では彼女が高校を卒業するまで復帰は一切認められず。

 しかしそれでもなお食い下がる。「それが何だってんだ! 吹雪が攫われたんだぞ! そんな事言っていられるか!」

 憤慨する涼月――湧き上がる憤怒と興奮を抑え切れず。

「いいから落ち着け。ここでお前が喚き散らした所でどうにもならない」

「じゃあお前はあたしに指くわえたまま待ってろって言うのかよッ!!」

「だから落ち着けと言ってるだろう!」

 バシン! という凄まじい音=陽炎が思い切り机を叩きつけた。

 あまりの音に思わずぎょっとなる涼月。

 机に身を乗り出して詰め寄る陽炎。「私が何とも思っていないと思うか? 吹雪君は私にとっても大切な友人だ。お前一人だけが心配してると思うな!」

 数秒前の彼女とは比べものにならない剣幕――先ほどの涼月にも負けず劣らず。

「……悪い」気圧されて大人しくなる涼月=まるで棄てられた子犬のよう。「だけどあたしには……もうどうしていいか分からねぇんだ。吹雪が攫われちまったってのに、今のあたしはもう特甲児童じゃない。犯人相手に戦う事も出来ねぇし、捜査にだって参加できない。今のあたしはアイツの為に何一つしてやれねえんだ……」

 刻まれた無力感――大切な人の為が危機に晒されているというのに、何も出来ず/何の力にもなれず。

「涼月……」陽炎=慰めるような声音。「心配するな。私はもちろん副長も中隊長も吹雪くん奪還に向けて全力で動いている。それに今のお前には、他にやるべき事があるだろう?」

「……何をだよ?」

 思わず聞き返す――今の自分に一体何をしろと言うのか?

「あの二人さ」部屋の扉を指す――その向こうで待っている柳と冬月を示す。「学校の友達なんだろう? 今回の事件で随分と怖い思いをしたはずだ。お前が安心させてやらないでどうする」

 そこでようやく気が付く――もう一つの大切な存在/日常に戻ってきた自分に暖かく手を差し伸べてくれた友人たち。

「……ああ。そうだな」ゆっくりと立ち上がる――ようやく思い出したという風に。「すまねぇ陽炎。随分みっともない所を見せちまった」

 合わせて立ち上がる陽炎=涼月の肩を軽く叩くと、部屋の扉を開いた。「まったくだ。一つ貸しにしておくぞ。いずれ取り立ててやるから、そのつもりでいろ」

「分かってる」今度は力強く答える。「それじゃあな。事件が落ち着いたら、お前と新しく入ったっていう新人にもあいつらを紹介してやるよ」

「次の楽しみにしておこう。ではな」

 そうして部屋を出た二人――最後に軽く挨拶を交わした後、互いが戻るべき場所へと戻っていった。


 ◇


 取調室を抜けて待合ロビーへと向かう――そこで待っている筈の友人たちと合流する。

「涼月!」

 不安げにベンチに座っていた冬月と柳=涼月の姿を認めるや否や、立ち上がって駆け寄って来た。

「ホントにごめん。あたしたち、自分のことばっかで……」申し訳なさそうな顔を浮かべる二人。

 自分たちの脱出を優先するあまりに友人の恋人が誘拐される――責任を感じてしまうのも無理のない状況。

「気にすんな。二人は何も悪くねえよ」落ち込む彼女たちを軽く慰めてやる/気にしていないとアピールする。「それに仲間の特甲児童も言ってくれたよ。吹雪は必ず取り戻すってな」

「だけど……」

 未だ言い淀む彼女たち――その肩を軽く叩くと、涼月が出口を指して言った。

「それより早く帰ろうぜ。いつまでもここに居たって、仕方ねえだろ?」

「……ああ。そうだね」

 彼女の言葉に従って二人がビルの入り口へと歩いて行ったその時、不意に涼月の鞄の中で何かが震えた。

「……? 何だ?」

 身に覚えのない振動――鞄に震えるような類の物を入れた記憶は無し。

 咄嗟に中を開いて調べてみる/出てきたもの=誰の物とも知れぬ携帯電話。

「ケータイ……?」

 見たところプロテクトやロックなどは掛かっていない――不審に思いながら画面を操作してみると、中からメッセージボイスが流れ出た。

『涼月、このメッセージを聞いていると言うことは、無事この端末を手にすることが出来たという事だな』聞き覚えのある少女の声=陽炎。『これはかつて吹雪君が意識を失う前に私に託してくれたもので、様々な〝工夫〟が施されている。密かに捜査データをお前に流したとしても、発覚することはないだろう。IDも私のものにしてあるから、万が一追跡されても問題はない筈だ。私にはこれ程度でしか力になれないが、どうか許してくれ。また何か情報が入ったら、この携帯を通してお前に送っておく。それと、最後に一つお前に約束しよう。吹雪君は必ず私たちが取り戻す。だからどうか、無茶な行動にだけは出ないでくれ』

「うっ……」

 思わず声が出た――仲間の優しさ/その気遣いに。

 焦りと無力感で当たり散らしてしまった自分――それを落ち着かせてくれただけでなく、こんな物まで用意してくれた。自分を安心させるために。

「ありがとよ……陽炎」自然と感謝が口から零れる/ずっと仲間であり続けてくれる少女に向けて。

 ボイスが途切れ、再びメニュー画面に戻った携帯を鞄にしまい込むと、涼月は出口に向かって再び歩き出した。

 ただ突き進むべき目標へと向かって。


 ◇


『吹雪君を攫ったのは、どうやら〈電脳解放軍〉と言うハッカー集団のようだ。連中の狙いは不明だが、数多く居た患者の中でわざわざ吹雪君だけを攫って行った点からして、彼に関する何かが目的の筈だ。心当たりがあるようなら教えて欲しい』

 送られてきた情報=捜査の進捗/彼女自身の所感/マスターサーバーの予測などなど――有益な知らせの数々。

 しかしどれ一つとて心当たりはなし――そもそもそんな馬鹿馬鹿しい名前の集団など、噂にすら聞いた事がない。

 とは言え貴重な情報源を無下にするわけにもいかず=『心当たりはないが、こっちでも一応調べてみる』とだけ返答しておく。

 ミリオポリス第二十五区ライヒェンシュマウス――かつて嫌と言うほど通い詰めた場所。

 近未来的なデザインの建築群を横切って二十五番街まで移動=懐かしのスラム街へと入っていく。

 足を踏み入れた途端、通りのそこかしこから様子を伺う人間たち――黒人/白人/東洋人/中東人/どこの国の出身かも分からない連中。

 そのどれもが一人歩きする自分に対して何ら行動を起こさず=かつて特甲児童だった自分を警戒している。

 構わず歩き続ける――勝手に警戒してくれる分には問題ない/むしろ特甲児童でなくなった事を知られる方がずっと危険だ。

 そうこうしている内に目星をつけた店にたどり着く=裏で違法な物品の販売や非合法な技能を持つ人間を紹介しているリサイクルショップ――かつて捜査中に締め上げた店のうちの一つ。

 古ぼけたスティール製の扉をくぐると、数秒前までしかめっ面だった中年店員が急にそわそわした態度に変貌=まるで蛇に睨まれたカエルのような表情に。

「――よう。景気はどうだい? おっさん」

 あえて砕けた口調で挨拶を交わす=この界隈でのちょっとした流儀。

「え、MPBの特甲児童さん……」おろおろと視線を彷徨わせる中年店員=まるで強盗に目の前で銃を突きつけられたような態度。「一体何のご用で……? 今のあっしは清廉潔白の身ですぜ?」

「今日はちょっと聞きたい事があって来たんだ」率直に尋ねる/まずは向こうの反応を伺う。「あんた〈電脳解放軍〉って名前の連中、聞いたことあるかい?」

「〈電脳解放軍〉……? あいつらが何かしでかしたんですかい?」

 〝あいつら〟という言い回し《フレーズ》=少なくとも相手の存在を知っている証拠。

「まあな。それよりアンタ、そいつらから何か買ったりしなかったか? それとも連中に何かを売りつけたとか」

「い、いえ……やつらここ最近、めっきり姿見せないもんで……」

 微妙な反応――とぼけている風にも見えるし、本当に知らないようにも見える。

 さらに一歩踏み込む/揺さぶりをかけてみる。「なあおっさん。ここらで一つ正直になっておいた方がいいぜ。もし連中がパクられた時にここで売ってる商品や紹介してる連中の名前が出たら、色々とマズいだろ?」

「そ、それはどういう……?」男の顔が一気に青くなる/正直過ぎる反応/間違いなく何かに関わっている。

「奴らは何日か前、第十一区にあった医療施設を襲ったんだ。だがハッカーなんて荒事に向いてない連中にそんな事が出来るとは思えない。あんた連中にそういった事が得意な連中を〝紹介〟したんじゃないのか?」

 更に圧をかけようと店員へと詰め寄る/何か隠すようならば容赦なく痛い目にあってもらうと言外に警告する。

 視線をさまよわせる男――どう切り抜けようか必死に考えている。

 下手な言い訳をされる前にさらに強く押す。「どうする? 何なら久しぶりに肩が外れる感触ってのを思い出してみるか? それともあのおっかない尋問官の姉さんと話すほうが好みか?」かつて男が味わった苦痛を引き合いに出す/ブラフを効かせる。

 逃げ場を探すようにきょろきょろする男――しかしどうにもならない事を悟る/静かに両手を上げる。「……分かった分かった。白状しますよ。確かにそういうのが得意な奴らを何人か教えてやりました。だけどそれだけだ。あっしは連中のねぐらも目的も知らないし、紹介した奴らを使って何をしでかしたのかも一切知らない。これで勘弁してくれやせんか?」

 足りない――吹雪を取り戻すにはもっと詳しい情報が必要だ=尋問を続行する。

「おいおいそれだけか? もっと他に言えることがあんだろ?」更にもう一押ししてみる/追加で情報を引っ張り出せないか試みる。「紹介した奴らの情報を出せよ。今すぐ全員ここに呼び出すんだ」

「そ、それだけは勘弁してくだせぇ……身内まで売っちまったら、今度こそ他の奴らにバラされちまう」

 肝心なところで拒否される――最後の意地を張られる。

 ここまで来て手詰まりに陥る――特甲児童ではない自分に行使できる権限は無に等しい/強引な逮捕も連行も尋問も出来ない以上、黙りこくられたらもう手が出せない。

 それでも強気に振る舞う/相手にイニシアチブを取られる事を防ぐ。「じゃあ仕方ない。またしばらくギプスを付けて生活をしてもらうとするか」

 涼月がわざとらしく手の関節を鳴らして男に掴みかかろうとした――その時。

「――失礼、取り込み中のところ悪いんだが、少しいいか?」

 不意に別の男の声が背後から割り込んでくる――自分の存在を主張してくる。

「ああ?」

 思わず振り返る涼月――正体を知ったその顔が驚きの表情に染まる。

「あ、あんたは……」

 目の前に現れたゴリラ男=かつて涼月と共に二十五区を駆け巡った相棒こと、ぺーア・ガブリエルその人だった。

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