第三章 アルディス城に戻る

【アルディスの日記】 珊瑚の月 6日目

【アルディスの日記:珊瑚の月 六日目 快晴】


 本日、やっと城に戻って来ました。


 我が愛すべき勤め先――マギーグランツ城は、青空を背景にした時が一番人気の景色です。

 泰然と聳え立つ白亜の城。それを囲む濃い深緑の森。陽光を浴びて濃い陰影を描く城壁の後ろに、濁りのない青空を合わせるとそれは美しい姿になるのです。


 数日離れただけとはいえ、長い馬車での移動を経てやっと帰って来て見た美しい風景に、私は懐かしさと安堵を憶え、随分癒された気分になりました。


 さて、当然ですが城に戻るなりフェナ様は女王様の所へ連れて行かれました。

 後でカロラさんに聞くと、たっぷりのお説教の末、謹慎一ヶ月。

 予想より長めの謹慎でした。


 私とリエトさんは、謁見の間へ連れて行かれると、殿下に事の次第の報告を命じられました。


 私は、真っ先に頭を下げて迷惑を掛けたことを謝罪してから、これまでの事を正直に話しました。


 フェナ様に強引に連れて行かれた事。

 人がいる中でリエトさんを勇者に勧誘した事。

 急遽モンスターを退治するため、城へ戻るのが遅くなった事。

 モンスター退治に行って、合成獣キメラを不法投棄している集団に会った事。


 カロラさんも言っていた通り、迷惑をかけた事の謝罪と、城へ戻って来るまでにあった事を正直に説明したら、特に怒られずにすみました。

 本当に良かったです。

 そもそも、私は巻き込まれた側。

 これで怒られたら、今日の日記が愚痴で埋まる所でした。


「さて、話は大体アルディスに話してもらったが、リエト=マレンツィオよ。面を上げよ」

「!――――はいっ!」


 名を呼ばれ、リエトさんは緊張した声で答えます。

 表情は大層強張っていました。

 入城は初めてとの話でしたので、リエトさんが緊張していたのも仕方ありません。

 しかも、殿下を含めた王侯貴族達が自分に興味の視線を向けているのならなおさらです。


「リエトよ。よくぞ城まで参った」

「はい!……お、恐れ入ります」

「ところで……」

 殿下はリエトさんをひと通り値踏みした後、期待を込めた瞳でお聞きになりました。


「大魔女オルカが授けた魔剣はどうした?」

「ま、魔剣ですか……」

 殿下の興味津々の声に、リエトさんは自分の右腕に手を当て、言葉に詰まりました。

 私は魔剣を見た後なので、リエトさんが躊躇う気持ちはよく分かります。

 しかし、相手が悪い。


「わし、見たいな~」

「…………分かりました」

 この国において女王の次に偉いヘルムフリート殿下からの直々のお願い。

 そんな物断れる訳がありません。

 リエトさんは、苦い顔をして了承しました。


 そして、その結果――――。

 殿下達の反応は、私が見た時の反応と大体同じでした。


 最初におおっ!と歓声が上がり、それはだんだんと戸惑いの声に変っていきます。

 どうみても木製の剣にこれでもかと可愛らしい飾りが散りばめられた姿を見て、本当に魔剣なのかという疑惑で満ちた視線がリエトさんに突き刺さりました。


 その後、召喚獣を出したり、魔法で出した炎を斬ってみせたため、魔剣であることは認められました。

 しかし、その全てにおいてファンシーなデザインに、殿下は首を捻って煮え切らない表情です。


「うーん。確かに凄い魔剣だが……。オルカってこんな趣味だったか?」

 戸惑い気味の殿下に、城に古くから勤めている魔法使い達も困惑した表情で答えを出せずにいました。


 魔女オルカといえば、この国が生まれる前から存在した大魔女です。

 その魔法も古典的クラシックな上、リエトさんの魔剣の様な可愛らしかったり、幻想的な魔法を扱う話は聞いた事がありません。

 どうしても、作った大魔女と魔剣のイメージが合わないのです。


「う、うーん。まあ、オルカの趣味は置いておくとして。リエトよ、勇者になってくれるという話だが……」

「申し訳ありません!その前に、尋ねたいことがあるんですが!」

「ほう、尋ねたいこととは?」

「勇者になってほしいと言いますが、何故勇者が必要なんですか?」

「え」

 リエトさんの言葉に、今度は殿下が言葉に詰まる番でした。

 左右に控えてる重鎮達は目を反らして、殿下の代わりに答える気は誰も無いようでした。


「理由は城に来てから教えてもらえると約束していたのですが」

「えー……。言ってないの?」

「はい、恐れ入りますが殿下。関係者以外が知るべきでは無いかと思いまして。極秘事項を城内以外で話した場合誰に聞かれてるとも知れませんので話しておりません」

 殿下の少し非難の籠った問いに、私はにっこり微笑みながら答えました。


 殿下は「あー、言ってないのかー。そうかー」と、言いながらたっぷり目を泳がせてましたが、誰も代わりに話してくれないので、仕方なさそうに事の経緯を語りました。


 玉座の間を離れた後、「アルディスさんよー、この国……大丈夫なのかなあ」

と、リエトさんが漏らした言葉が印象的でした。


「大丈夫です。ここは殿下ではなく女王が一番偉いんです!」

 と、リエトさんに言って置きましたが、これで彼の不安が少しでも減らせたら良いのですが……。


 それでは、今日は疲れたのでもう寝ようと思います。

 久しぶりに、自分のベットで寝れるのがとても嬉しいです!

 実家への報告は伝令に頼みましたし、後の事は明日以降片づけましょう。


 おやすみなさい。

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