朝はゆっくりさせてくれ

「ん……。……ん?むっ!!」

どこだここは。僕の家はこんなに純和風じゃないぞ。さらわれたか?僕の才能を妬んだやつに。

「起きたかの」

「うわ!ビックリした!なんなんですかあなたは!?」

「寝ぼけてるようじゃな。顔を洗ってこい、小僧」

寝ぼけ……。ああ、思い出した。そういえば僕は困っていたところを少女に救われたのだったな。不本意ながらこのおジイさんにも。

「顔を洗うなら、まっすぐ行って突き当たりを右じゃ。朝飯も用意しておる。さっさと準備せい」

「むむ。では失礼して」

お世話になっているんだ。おジイさんのいう通り、ここはさっさと朝の準備を済ませてしまおう。

----------------

「それにしても広いなこの家は。洗面所までの道のりがまるで迷路じゃないか」

泊めてもらっている部屋から3分もかかってしまった。立派な家に憧れがないではないが、流石にこれはやりすぎだろ。それに洗面所でさえ物凄い豪華だ。蛇口は金だし、センサーで水が出るし、タオルはフカフカだし。

「一生このタオルに沈んでいられる……」

「おはよう」

「フゴッ!」

僕の背後になんの気配もなく忍び寄るとはこの少女、なかなかできる。

「大丈夫?」

「だ、大丈夫、大丈夫。おはよう、ゆきちゃん」

ふんふんと頷く様はまるで小動物だな。

「それでゆきちゃん、君も洗面かな?」

「ううん、遅いから見に来た。朝ご飯もできてるよ」

うーむ、あって2日目の素性の知れぬ男にこの油断の仕方。僕が悪いヤツだったらすぐにつけ込むところだが。

「天才の脳は糖分をより消費してしまうものだ。朝ご飯、早速いただこうじゃないか」

「うん、一緒に来て」

この従順さ。使い魔にしてやりたいくらいだ……。ん?使い魔?

「ああっ!忘れていた!!僕が寝ていた付近に黒猫はいなかったか!?耳がチャーミングな黒猫!」

「ん、もしかして……」

---------------

「いいご身分だな。僕の使い魔の分際で、僕より先に朝ご飯を食べるとはなぁ!」

キャットフードを食べながら、にゃーお、だなんてクソっ……可愛いじゃないか。ただ、無事で本当に良かった。肩に乗っていたんだから、一緒に飛ばされて来ていでも不思議じゃなかった。自分の状況のせいですっかり失念していたが。

「やっぱりお兄さんの猫だったのねぇ。朝玄関の掃除をしようと玄関を開けたら、チョコンと座っていたものだから」

「そうですか……。ありがとう、おばあちゃん」

どういたしまして、と言いながら座るように促してくれる。いやはやよくできたお婆さんだ。なんであんな筋肉ダルマと結婚したのか、全く不思議でならないな。それに、いい匂いのご飯と味噌汁だ。朝に和食は久しぶりだ。

「いただきます」

当然、うまい。子供の頃を思い出す暖かい味だ……あ、涙が出そう。

「美味しいです。おばあちゃん」

「お口にあってよかったわ」

「そういえば、きんに…ジジ…あの御老体は?」

「朝のお勤め。毎日裏の山で修行してる。ワタルも多分、連れて行かれる」

「へっ」

なにやら不穏な事を仰いますね?お嬢さん。いくら大天才と言えども欠点くらいはある。唯一にして一番の苦手分野。魔法を使わない戦闘実技は不得手中の不得手だ。その上あんな筋肉と修行だなんて……。

「その通りだ。我が私の孫よ。行くぞ、ワタル」

「いつの間に!いや、まだ食べ終わったばっかりでお腹が!」

「ええい!さっさとこんか!昨日の試験ではあんなに得意げにしてたではないか!」

「それとこれとは……」

「住まわせて、飯もやった。あとは働き口も。そうじゃな?」

ぐっ……。このジジイ!従わざるを得ないセリフを!なんとか、なんとか逃れる方法を!

「では、行くとするか」

「あっ、ちょっ、まっ」

「いってらっしゃい、ワタル」

ああ、助けて小動物……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ジ・オリジン・オブ・マジシャンズ 四条 一間 @HAL-969

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ