馬の骨ではないぞ

僕はやっぱり2018年にタイムスリップしたことで正常な判断ができなくなってるのかもしれない。大体、常識的に考えて道端で寝てたやつに、ウチくる?なんて言わないだろう。そこで気づくべきだったんだ。もう取り返しはつかないぞ、これ。

「…で、道端で拾ってきた人」

「うむ。なかなかいいツラ構えをしておるわ」

怖いよ!腕組みして仁王立ちとかいつの時代だよ!ああそう言えば大昔だったなここ!しかも筋肉!昔文献で読んだことがあるぞ。世紀末覇者とかいう……。

「まあまあ、おじいさん。そこまで凄まなくても」

「おじいさん!?」

これでおじいちゃんなのか……。この時代の老人は皆こうなのか……?いやしかし隣にいるおばあちゃんはいたって普通だ。なんら変わらないぞ。ていうかこの家すごいな。豪邸だし、やたら賞状も飾ってあるぞ。でっかい盾みたいなのもある。校章か?

「して、名前は?」

「あ、すいません。ワタル・ナガレといいます。」

「そう言えば名前聞いてなかったね。私は--」

「まてい!こんなどこぞの馬の骨とも知らぬやつに我が孫の名前を教えるわけにはいかん!」

え、名乗らせておいて自分は言わないつもりなの?

「わしは仙道 忠勝」

「わたしは妻のチエです」

「あんたらは名乗るのかよ」

「ん?」

「ナンデモナイデス」

危ない危ない。この人ツッコんだら命が危ない気がする。大人しく話を聞いていた方が絶対にいい。だって今もちょっと胸筋ピクピクしてるもん。

「ワタルとやらよ。どうしてお主は道端で倒れてあったのだ。見たところまだ成人もしておらんのではないのか?」

「複雑な事情というかなんというか……。あまり詳しくは言えないです」

「身分を証明するものもなければ事情も言えないか。自分の立場をわかっておるのか?年齢不詳、住所不定じゃぞ。普通はこのまま警察じゃな」

「ちょ、ちょっと待ってください。警察って……」

「身元を確認して、それでそのあとは手続き等もあるじゃろ。住民票をもらって生活保護で生活するんじゃ」

確かにそうするのが一番だと思うけど……。自由に動けないんじゃ、この後未来へ帰る方法を考えるのだってできなくなっちゃうじゃないか。このままここで暮らして行くか考えるのはその後だ。

「それはちょっと困ると言うか。自由に動けなくなるのはイヤというか」

「じゃあ野垂れ死じゃな」

このジジイなかなか無慈悲だな。昔のニホン人はもっと隣人に優しくて粋だったって聞いてたのに。まあ完全に僕が悪いんだけど。

「図々しいのはわかってます!でも、職が決まるだけでも置いてくれませんか……?」

ジャパニーズドゲザだ!いやまあ僕にもニホンの血は流れてるんだけど。

「潔いな。ただ今の世の中お主のようなやつを雇ってくれるところなどほとんどないのじゃよ」

だよなぁ。わかってたけど普通こんなわけもわからない道端で倒れてるやつのことなんか誰も拾ってくれないよなぁ。折角の天才的頭脳があったってこれじゃあ宝の持ち腐れだ。未来ならいざ知らず現代で役になんて……。ん?いやもしかしたら--

「警察も悪いようにはせんじゃろうて。これから--」

「待ってください!僕には1つ、類稀なる力があるということをお伝えするのを忘れてました」

「……類稀なる力?そんなものがあったからどうだというのじゃ。結局身分が不確かなことは変わらないのじゃろう」

「ぐっ……。確かに。でも僕には天才的な頭脳という人類の宝がある!この頭脳、何か役に立つはず!」

「じゃあその頭で今後の打開策を考えるんじゃな。では--」

「まてええええええい」

ええいこのジジイ!この頭脳を世に解き放つどころか警察に引き渡そうとするとは。知らしめてやらねばなるまい。この圧倒的な才能を!

「この時代の…いや2018年の教育とはどのようなものだ、少女よ」

「え?国語とか数学とか英語とか」

「勝ったな……」

「何にじゃ。で、それがどうなるんじゃ」

「僕はスクール、いやさ学校で100点以外を取ったことがない!」

これはきっとどの時代でも共通だろ。僕は主要5教科8科目でミスをしたことなど一回までもない!天才的努力によって常に満点だ!

「おにーさんすごい」

「フッ。造作もないことよ」

「で?」

「えっ……?」

「それがなんの役に立つの?」

いたいけな少女にはわからないか。この偉大な頭脳を持ってすれば、学校の教育者にでも何にでもなれるはずだと。いやー僕の頭脳が怖い。だってすぐ結論を導き出しちゃうんだもの。

「まさか教師にでもなろうとか思っとるんじゃないだろうな。そもそも何処の誰かわからん奴を雇うところなどないと言っておるじゃろ」

「……仙道さんのところで雇ってくれませんか?」

「……わしが?どういうことじゃ?」

「仙道さん私立学校の経営者ですよね?賞状にも文部科学省とか書いてあるし、家も大きい」

「それだけで判断したのか?」

それだけじゃない。ていうか……

「この家入るときに校門くぐったんで……」

「あっ……」

どの時代でもおじいちゃんってのは物忘れが激しいのか。しかも堂々と、でかでかと校章飾ってあるから。わからいでか。

「お主のいうとおり、わしはここ"私立仙道学園"の理事長じゃ」

自分のとこの名前つけてるのかよ。多分この人のご先祖様だと思うけど。

「じゃがわしの一存でお主を雇うというわけにはいかん。しっかりと教員免許があって、それ相応の対応をしなくてはならん。急に雇うことなど……」

だよね……。普通に考えてこの時期にこんな若造を雇うってのはまずないよな。でもここしかないんだ。ここで無理だと言われてしまったらそれで終わってしまう。

「そこなんとか--」

「ちょっとごめんなさいね。おじいさん、お電話が来てますよ。学長さんから」

「むっ。少し席を外すぞ」

ああ……。タイミングが悪すぎる。勢いでなんとか押し切ろうと思ってたのに、これじゃああっちの頭も冷静になってしまう。次の作戦を練らなければ……なんとしてもここで働く!

「遅れてごめんなさいねぇ。お茶、飲んでちょうだい」

「あ、お構いなく……」

「おにーさんおにーさん」

「ん?なにか?」

「おにーさんは今何歳なの?何処の国の生まれ?茶髪だけど染めてる感じじゃないし、目も青いし」

「生まれも育ちもニホンの18歳だよ。まあちょっと特殊というか、ハーフだったかな。この時代の呼び名は」

「おお…ハーフ……。すごい」

最初はちょっとまともそうだったけどこの子ちょっとあれだな、うん。みなまでは言わないけど。

「あ、私の名前、ゆきって言うの。ゆきって呼んでね」

「え、ああ、うん。ゆきちゃん、よろしく」

勝手に教えられたけどこれあの人に聞かれたらタコ殴りにされたりしないかな。

「あのね、多分おじいちゃんはおにーさんのことちゃんと面倒見てくれるよ。じゃないと私も連れて来たりしないよ」

「そうかな。結構拒否というか、否定の感じだけど」

「何処の誰かもわからない奴を雇えないって、言ってたでしょ。見極めようとしてるんだよおにーさんのこと」

そうだといいけど。あとおにーさんっていうのはちょっとむず痒いな。僕が年上なのは間違いないけどあんまりなれない呼ばれ方だし。

「あのさ、僕のことはワタルって呼んでよ。おにーさんってちょっと呼ばれ慣れてないから」

「うん。わかったワタル」

「ありがとう。その方がいいなやっぱり」

「……わしがいない間に随分と仲良くなったようじゃな?」

殺気!右!

「ほう。よく避けたな。勘がいいようじゃな」

「いやいや危なすぎるって!いきなり背後からストレートは危ない!」

この筋肉量で殴られたら目も当てられない。未来どころか、来世からスタートだった。

「ところでじゃな、今連絡がはいっての。ウチの学校の教師が1人長めの休暇申請するそうじゃ。つまり、欠員が1人出るということじゃ」

「ということは……」

「お主にチャンスをやろう」

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