第3話
それから、三人はこの一月の間に宝玉を求め東西南北を縦横無尽に駆け巡った。
あるときは――
「なんでこんな所にマーダーグリズリーが出るんですか!?」
「俺がしるかよ!? リエラここはお前のバ火力の出番だろう!」
「ここ森ですよ!? 火事になりますって!!」
「アースウォール!! お二人とも逃げますわよ!!」
森で凶暴な熊の魔物の群れに襲われ、
火属性のダンジョンの奥地で巨大なドラゴンと出会ったときは、
「私はこんな所で止まっていられない!! はぁあ! イグニッションバースト!! いっけぇー!!」
ドラゴンブレスと張り合った末、見事ドラゴンの討伐に成功し、
「真正面から撃ち勝ちやがった……うそだろ」
「流石です! リエラお姉様!!」
「乙女パワーを全開にしなかったら少し危なかったかも」
「いや、それで済ませられる出来事なのか……」
火の宝玉を手に入れる。
またあるときは――
「うーんきもちいいー」
「ダンジョンの近くに温泉街があるなんて……ついてましたねお姉様!」
「あいつら随分、余裕だな……いや、確かに休息も大事なんだが、なんか違うような?」
温泉で疲れを癒やす。
闇属性のダンジョンへと挑んだときは、迫り来るアンデッドモンスターをくぐり抜けながら、骨だけでできたスカルドラゴンと戦っていた。
飛んで来たダークブレスを、
「先生、光属性でしょ、防いでください!!」
「バカヤロウ!? いきなり前に押し出すんじゃねえ!? フォ、フォトンシールド!!」
レオンハルトが光の盾を顕現させて防ぎ、
「グランドインパクト!! 三・連・弾ですわ!! 骨の怪物など衝撃を加えればこのとおり!!」
ミリアリアが大地より呼び出した石柱で粉砕し、闇の宝玉を手に入れた。
土属性のダンジョンへと挑戦したときは、果てしない奈落へと落ち、
「助けてぇえぇぇぇぇ!?」
「すまん、俺たちを受け止めてくれ!!」
レオンハルトの精霊魔法によって発動された風がクッション代わりとなり、無事に着地をするが、
「っち、今度はゴーレムが相手かよ」
降り立った先には自分達の数倍の大きさであるゴーレムが待ち構えていた。
巨体通りのパワーと頑丈さに苦戦しつつも、
「先生! 加熱し終わりました!!」
「よっしゃあ! とびっきりの冷水を頼むぜ!!」
リエラの炎とレオンハルトが呼び出した水の精霊の力を借りてゴーレムの体躯を打ち砕き、土の宝玉を手に入れた。
またあるときは、
「あんたらが最近宝玉を集め回っているっていうパーティか……命が惜しけりゃ俺たちに大人しく宝玉を渡しな」
数十人ほどの山賊に襲われた。
だが、
「ふん、汚らわしい。近づくんじゃありませんわ!! 沈みなさい! マッドスワンプ!!」
「な!? 足が!?」
「あーあー、ミリアリアの奴張り切りやがって……おっと、魔術は使わせねえぞ。シャインフラッシュ!」
「っが!? 目が!? これじゃ狙いが!?」
「私も行くよー! ファイアーカーテン!!」
あっさりと返り討ちにする。
風属性のダンジョンへ挑んだときは、
「リエラお姉様、ここは右上を動かすんですよ!!」
「バカ!! 左下から動かさねえと途中で詰まるだろうが!!」
「違いますわ!! 絶対右上です!!」
「だーかーら! 手順はここがこうなるだろ? そうすると、この左のがな……」
「もう! どっちから先にやればいいのぉー!?」
知恵を試されるような謎解きを突破し、巨大なガス状の魔物と出会う。
「攻撃が当たりませんわ!?」
「おそらく魔術でも物理の側面があるやつはきかねえぞ――」
「なら、ここは私の出番ですよね! ラーヴァブレイズ!」
リエラの火の魔術によって引火しガス状の魔物ごと爆発する。
「密室でなんつーもんを使いやがる!? こっちこい!! ミリアリアもだ!! ホーリーバリア!!」
灼熱の爆風を光の球体でやり過ごす。
「このバカが!! 使う魔術はもう少し考えてから使え!!」
「でも、結果的には倒したじゃないですかー」
味方の攻撃で死ぬような目にあいながらも風の宝玉を手に入れた。
またあるときは、
「これを受け取ってください。あなた方が探していたのは水の宝玉と聞きました」
「え!? いいんですか!?」
「はい。私の命を救っていただけたのですから、宝玉の一つ渡すことなど問題ありません。リエラさん達の旅に祝福がありますように」
後ろ暗い陰謀から貴族の息女を守った報酬によって水の宝玉を手に入れた。
「ぐぬぬ……あんなに手を握って……リエラお姉様を一番慕っているのは私ですのに……」
「あれはお前と違って純粋な感謝なだけにみえるがな……」
光属性のダンジョンへと挑んだときは、
「はえ!? ここどこ!?」
「天空島……まさか実在していたとは……地下のダンジョンが入り口になっているとは思わなかったな」
「ふふふ、自慢出来そうな光景ですわね」
空飛ぶ島へと転送され、
「なんだ!? コイツは!?」
「ゴーレムと似ているようで違いますわね……」
「ちょっと天使っぽいよね」
「こんな機械染みた天使がいてたまるか!? 迎撃するぞ!!」
機械のような、鎧のような、白い翼の軍団に襲われながらも、光の宝玉を手に入れた。
そして、祭壇を探していたのだが……候補地を何カ所か巡ってもそれらしきものは一切見つからなかった。そうこうしているうちに、時間ばかりが過ぎていき――
「いいか? ここに何もなかったら諦めて帰るぞ? 学院が始まるまであと三日……全力で戻ってギリギリって所だ」
「はい!!」
「リエラお姉様、今度こそ見つかりますわ!!」
「うん!」
「まあ、前向きなのはいいこった」
三人がたどり着いたのは神秘的な場所であった。
少し遠くには妖精種が奉っている世界樹の姿も見える。
「ここが……祭壇」
なんとなくだが、こここそが目指していた場所であると実際に目にしたら実感が湧き上がってきた。
「着きましたわ! 着きましたよ、お姉様!!」
「どうやら、最後の最後で当たりを引いたみたいだな……これ見よがしに宝玉が嵌まりそうな穴まで用意されてやがる」
ミリアリアもレオンハルトも感動しているのはリエラと同じようで、声が喜色ばんでいた。
「じゃ、じゃあいくね?」
「行きましょう!」
「おう、さっさと終わらせて帰るぞ」
リエラは祭壇へと近づくと今までの旅で手に入れた宝玉を一つ一つ、はめ込んでいく。
はめ込む場所は祭壇の中にある穴の開いた六色の柱だ。
風化しているものの色合いは残っており、どれを何処にはめればいいのかはなんとなくわかる。
「最後の一つ……」
緊張のためかやや震えながらも最後の宝玉をリエラははめ込んだ。
さあ、何が起きるのか、と不安と期待が入り交じった瞳で見守っていた三人だったが、何も起きない。
「あれ?」
「……変化はありませんわね」
「ここまで条件が揃っていて外れってか? そりゃないぜ……」
期待していた分全員が落胆したところだった――
だが、次の瞬間には石柱からそれぞれの宝玉の色にあわせたような光線が祭壇へと伸びていき、中央で重なるとまばゆい光があふれ出し、祭壇中を覆い尽くす。
「「きゃっ!?」」
「おおっ!?」
唐突な光に視界を奪われた三人は驚きの声をあげるが、どうすることも出来なかった。
いつまでも続くかに思われた光だったが、十数秒程度で収まった。
「う……ん」
おそるおそる、瞼を開ける。未だ視界が安定しない中リエラが見たのは竜だった。
全身が光り輝いており、輪郭もよくわからないが、形状から竜だろうと想像がつく。
ただ、なんというか火属性のダンジョンで戦ったドラゴンとは生物としての格が違うとでもいえばいいのだろうか。
神々しさのようなものを感じていた。
〝汝らが我を呼び出したのか?〟
不思議な声だった。男性的にも女性的にもはたまた中性的にも聞こえる声が三人の脳内に響いていた。
「は、はい、そうです! それで、その……願い事を叶えてくれるのですよね?」
〝如何にも。汝らの願いを言うがいい〟
リエラが口を開きかけたが、その前にレオンハルトが割り込んだ。
「俺たち三人の願いを一つ一つ叶えてくれたりはしないのか!」
〝我が叶える願いは一つ。幾人でこようともそれは変わらない〟
「……そう上手くは行かねえか」
「そんなこと考えていたんですのね」
「ここまで付き合ったんだぞ? それくらいの報酬があってもいいいだろうが……話を遮って悪かった。リエラお前の望みを言え!」
「私は最初からリエラお姉様のためですもの……さあ、どうぞ!」
二人に促されリエラは竜に自分の願い事を伝える。
「私の属性を変えてください! 今の火属性から水属性にしてください!!」
〝……承った。本当にその願いでいいのだな?〟
竜は一つ頷いた後、全員へと顔を向ける。
それを受けて三人は同時に頷いた。
〝よかろう! その願い承った!!〟
竜の言葉にあわせて小さな光球が空からゆっくりと降ってくる。
〝この欠片を二、三日肌身離さずつけるといい……身につけていれば今の火属性が弱まり、新たな属性が顕現し、汝が望みは叶うであろう〟
それをリエラは両手で抱え込むように受け止めた。
そこには宝玉と似た小さな欠片がおかれてあった。これが竜から送られたもののようだ。
〝では、我は帰るとしよう。汝らの願い確かに聞き届けた。再び願いを叶えたくば新たな宝玉と祭壇を見つけるがいい〟
羽ばたくようなモーションをとった竜はその場から一瞬にして消え去ってしまう。それと同時に祭壇も消え去ってしまった。どうやら、原理は分からないが祭壇は同じ場所には存在しないらしい。
「あ、ありがとうございま――ああ!?」
「「あ……」」
ゴクリ、と何かを呑み込むような音が響き渡るのだった。
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