触っていい?(ライトノベル)


 僕は一人で本を読んでいた。公立高校のこのクラスにいまいち馴染めないでいた。

 クラスの連中は楽しそうにはしゃいでいる。いったいなぜそんな気さくに友達と関われるのだろう。

 僕にはそれが不思議で仕方でなかった。それで僕は誰かに話しかけていくこともできずにじっと机に座って本を読んでいたのだ。厳密には読んでいない。読んでいるふりをしているだけだ。

 隣には僕と同じように本を読んでいる女子がいた。確か名前は小林玲香。見た目は普通で地味でやっぱり一人で過ごしている。

「ねえ、何の本を読んでいるの?」

 昼休みに突然声をかけられる。

「えーと。ゲーテ」

 僕の手元には若きウェルテルの悩みがあった。

「そんな難しい本をよく読めるね」

 玲香はぼんやりとそう言った。

 ほそぼそと僕らは会話を交わしていた。周りの連中はそんな僕らには気にもかけない。

「君は何の本を読んでるの?」

「えーと、最近発売されたライトノベル」

「ライトノベルかー。読んだことないな」

「おもしろいよ。ライトノベル」

 玲香はそう言ってほほ笑んだ。なんだか僕には彼女が疲れているように見えた。どこか目が虚ろで、顔はそんなに悪くないけれど、僕と同じように友達がいない。

「ねえ、この後カフェ行かない?」

 僕は突然玲香にそう誘われてどぎまぎしていた。

「別にいいけど」

「じゃあ放課後になったら」

 玲香はそう言って、読書に戻った。

 放課後になった。窓の外から夕暮れの太陽が教室に差し込む。とても綺麗な景色だ。

「じゃあ、行こっか」

 玲香はそう言ってバッグを担ぐ。

「うん」

 僕はそう言って教室を後にしようとした。

「ねえ、触っていい?」

 突然玲香はそう言った。

「どこを?」

「腕」

 彼女はそう言ってほほ笑んだ。

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