第44話
1
「ん~なんだかんだ朝まで話し込んでしまったな」
「お祭りの話楽しかったですね~」
ジュリエットから周辺の村の詳細などを聞いているうちに朝になってしまった。
ミケが出してくれた甘草などがブレンドされたお茶を飲みながら、ソファでとりとめもない話を語り合う、修学旅行のようなノリである。
「ん? 誰か来るな」
「女3人ですが、毒を抱えています」
「ほう」
「相当バカですね」
「そうだな、2人とも服を脱いでベッドに入れ」
「え?」
ジュリエットがびっくりした顔で見る。
「もし町長の回し者だとしたら毒はあわよくば、だよ。お前が俺に抱かれているか見るのが狙いのはずだ」
「ああ」
納得したらしく、パパっと服を脱ぎ捨てベッドに飛び込むように潜り込む。
「えっと、します?」
「朝だぞ・・・普通はぐったりして寝ているものだろう」
「あ、そうですね」
右にミケ、左にジュリエット
3人で朝寝の図だ。
「失礼します」
ノック後、許可しないのに女たちが入室してきた。
宿屋の従業員のふりは得意でないようだ。
「朝食をお持ちしました」
「そう」
ミケが気怠そうに上半身を起こす。
「その場で一口ずつ食べなさい」
「え?」
「賓客に毒見もせずに食べ物を出すような無礼な宿ですか? ここは」
女達は顔を見合わせ、仕方なさそうにそれぞれが持ってきた皿から一口ずつ手掴みで食べる。
ミケは飲み込んだのを確認し
「お前たちは山猿ですか。下人の手あかのついたものなど食えぬわ。下がれ!」
と一喝した。
女達はミケの剣幕にすごすごと退出した。
「ふん」
珍しくミケの鼻息が荒い。
「ミケに食事をご馳走になってよかったじゃないか、あの子たち」
勿論皮肉である。
「ええ、自分たちがしようとしたことをたっぷり味わうといいですわ」
「あの、毒じゃなかったんですか」
ジュリエットも上半身を起こす。
2人の乳房が目の前にあるというのはいい光景だ。
「ああいう臭いのする毒は遅効性だから、あれ以上食べなければ苦しみだすのは昼頃、死ぬまで2日はかかるわね」
「そ、そうなんですか」
「ええ、だから町長に報告するのには差し支えない筈よ」
「あ、そうか、報告すれば解毒薬もらえるってことですか」
「まさか」
ミケはふっと寂しそうな笑みを浮かべ
「解毒薬は高価なのよ。あの手の工作をする連中の切り札なんだから、使い捨ての駒に与えたりしないわ」
「それじゃ、苦しみ損じゃないですか」
「そうね、でも私が手っ取り早く殺してあげる義理もないしね」
「は、はい」
ジュリエットは自分たちを殺そうとした相手に同情する滑稽さに気が付いたようだ。
「さて、どう動くかな」
「朝の挨拶にでも来るのでは。あれだけ欲まみれなのですもの」
「そうなると、利益誘導すればかかるか」
「はい」
「ヴァイオレットを呼んで、タマは覗き見させておこう」
「魔王ってステータスを見たら腰ぬかすでしょうね」
「あ、エルフも一応周辺に潜ませておいてくれ」
「わかりました」
「そうだ、エルフのパンが食べたいな」
「エルフのパン?」
ジュリエットが興味津々な顔をする。
「ああ、エルフが竈で焼くパンは絶品だぞ。森の果物のジャムで食べたらもう病みつきになる」
「おおっ」
『エルベレス』
『はい』
『お前のパンが食べたい。タマを立ち寄らせるから籠に詰めて持たせてくれ』
エルフに王宮で準備される脂コテコテの肉料理は向かないので、ミケは自分達で料理を準備できるよう、エルベレスの部屋の中に厨房を作り、小麦粉や野菜、豆類を自由に搬入することを許している。
エルベレスはパン窯で侍女の子らとよくパンを焼いている。
子供への教育になるし俺がいない時の暇つぶしにもいいだろうと思っている。
エルベレスと過ごした朝は必ずパンの香りに包まれるので、この時間なら間違いなく焼き上がっているはずだ。
『わかりました』
「タマ、後宮に寄ってエルベレスからパンを受け取ってからヴァイオレットを連れて来てくれ」
『あいよ』
やはりベッドで始まるかとワクワクしながらタマが覗いていたようだ。
2
「ぐへへ」
下種な笑いを隠そうともせず、町長が部屋に入ってきた。
ちょうどミケがジャムを塗ったパンの欠片を俺の口に入れようとしているところで、ジュリエットは夢中で食べている。
ヴァイオレットはなぜか給仕服で果物を絞っている。
「よくお休みになられましたでしょうか」
礼儀以前に常識に欠ける奴だ。
まともに相手するだけ時間の無駄だ。
「ジュリエットを気に入った。よこせ」
思わずジュリエットの手が止まる。
「はいはい、わかりますわかります。この娘の締め付けは最高ですからな。病みつきになってしまうのは当然でございましょう」
(おい、目の前にいるの、帝王の正妻である后だぞ・・・)
「お前もこんなところで満足する奴ではないだろう」
「お、お目が高い、ぐへへ」
「王都に呼んでやってもいい」
「!!」
「お前、女を責めるのが好きなようだが、女に責められるのも好きだろう」
ジュリエットに呼ばれて駆けだして来たレスポンスからの想像である。
「お分かりになりますか、ぐへへ」
「外国人ともそういうプレイを?」
「はい、鞭使いなど、最高ですな、ぐへへ」
かなり思い込みが強いらしく同好の士だと思い込んでいるようだ。
「ちなみに、そこのメイドはその道の達人でな」
「はい、ワタクシ脱いだらすごいんですのよ」
ヴァイオレットが目を光らせた。
伊達に裏稼業を仕切っているわけではない。この町長をどうしろなどといちいち説明する必要はない。
「お前には今まで経験したこともないような、「すごい」体験をこれからたっぷりと王都で味あわせてやる」
「ぐ、ぐへへ」
「お前の荷物だの仕事だの面倒なことは任せておけ。腹心や手下たちの名簿はあるか?」
「壁の金庫に、ぐへへ」
「よし、タマ、町長とヴァイオレットを転移させろ」
『あいよっ』
目の前から町長とヴァイオレットが消えた。
「じっくりと、存分に楽しむがいい」
「空気が腐るかと思いました」
「よく我慢した、えらいぞミケ」
「えへへ」
髪を撫でるとジュリエットが羨ましそうな表情をする。
きっとミケを撫でたいのだろう。
「町長がいなくても多分町政は問題ないだろう。それより、どの段階で気付かれるかだな」
「子供が戻って来たと言う話が耳に入った時でしょうか」
「そうだな、ジュリエット」
「はい」
「この町で読み書きできる人間は?」
「行政とギルドに関わる人間は読み書きができます」
「ミケ、ジュリエットが持ってきてくれた資料を編綴して、棄損できないよう魔法的に保護することはできるか?」
「もちろんできます」
「任せるよ。それをまず役場のエントランスで誰でも閲覧できるようにしようと思う」
「はい、では、いくら持ち出されても際限なく台の上に複製されるような仕掛けにしておきましょう」
「うん、そして冒険者ギルドに外国人排斥依頼と密輸品取締依頼を出す」
「それは、ギルドと冒険者の能力的にどうでしょうか」
「出来る出来ないの問題ではない。帝王がそういう考えを持っていると知らしめるのが目的だ。そうでないと、砲台を設置して外国船を追い返す意味が分からないだろう」
「鎖国すると宣言しますのね」
「ああ、冒険者を育成して力がつくまでな。そうでないとこちらが奴らの勢力に飲み込まれることになる」
「承知いたしました。ミケは全てユーイチの考えに従います」
「わ、私も、ジュリエットも従います」
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