第5話

目を覚ますと美しい幾何学模様

ベッドの天蓋に描かれた模様

うっすらと香る寝台に撒かれた花びらの香り

いつになくスッキリした目覚めだ。

(転移で帰ってきたのか)

一昨日と違うのは左側にぴったりとミケが体を寄せていること

「おはよう」

今度は抵抗感なくミケの唇に口を付けることができた。

「起きてるんだろ?」

「はい」

ミケは素直に目を開けた。

「お前素直だね」

「はい?」

「このまま寝たふりしていることもできたのに」

「あ、その方が良かったですか? 目が覚めたら色々しにくいですか?」

(今更目を閉じるなよ・・・)

「いやいや、本気で寝ている子にあれこれする趣味はない」

「わかりました」

ミケが体を起こすとシーツが滑り落ちて小さいながらも形の良い胸が露わになった。

手を伸ばすと嫌がらずに、それどころか身体をこちらに傾けてまで触らせてくれる。

ゆっくり感触を堪能し、そのまま手を滑らせて下腹部の上を撫でる。

「昨日は、その、大丈夫だったか?」

「あ、その、暴れてしまって、ごめんなさい」

途中でなぜかミケがパニックになってしまい、仕切り直したことを言っているのだが、それはおそらく優一の経験値不足が原因である。

「え、いや、あれは、その・・・」

「13年もブランクがあったので、きっと体がびっくりしちゃったんです」

(うわ、13歳だったのか・・・)

「大丈夫です。今もちゃんとここに入った感じが残っているので、次は体もびっくりしないです」

「すまない、なんか無理やりだったみたいで」

「違います、違います」

ミケは顔を真っ赤にして

「こんなに大きなものが入ったのが初めてだったんでびっくりしちゃっただけなんです」

(な、なんだって・・・)

これ以上聞くと押し倒してしまいそうだったので話題を変えることにした。

「そういえば、ゾフィーは?」

「バカ女がいた部屋に押し込みました。後で会いに行ってやってください」

「ゾフィーの弟は?」

「面倒だったので牢に入れて餌は与えています。別に村へ転送しても良かったんですが、ユーイチの指示を受けようと思って」

奴隷だった姉を買い戻したいというならともかく、返せなどという愚か者には相応しい待遇だろう。

「うん、えらいぞミケ」

掌を胸に戻して軽く撫でると気持ち良さそうな表情をする。

「両陛下、朝にございます」

凛とした声が響いた。残念、タイムオーバーだ。


今朝は月に一度の食評の日という、要は食事について直接あーだこーだ批評する日らしい。朝、昼、夜はそれぞれ別の日に設定されているのだそうだが、聞いただけですごく面倒臭そうだ。

(まあ、帝王のお仕事の1つだろうから嫌な顔をしてはいけないよな)

「両陛下ご入場!」

わざわざ朝食を別ホールでとる必要があるのかいとバカらしく感じながらもミケと腕を組んで進む。ミケはドレスと宝石で飾り立てると威光を放ち美しく見える。ま、ミケを鑑賞するイベントだと思えばいいか・・・

「ん?」

入ってすぐのところに既視感のある物体が・・・


ホール自体はシャンデリアが吊るされた巨大なホールで

見事な天井画と幾つものシャンデリアはどこかの美術館かと勘違いする。

贅を凝らした室内の真ん中には白いテーブルクロスを掛けられ花で飾られた大きなテーブルとその両端に大きな椅子が置かれ。テーブルを遠巻きにするように大勢が佇立している。

色とりどりのドレスを着て膝を曲げているのが男爵令嬢、つまりは底辺貴族の娘

献立・買付・検品などを担当しているらしい。

メイド服で跪いているのが平民

調理と配膳を担当しているらしい。

粗末な貫頭衣で頭を床に擦り付けているのは奴隷

清掃や毒味などを担当しているらしい。

普段毒味以外の奴隷は目についてはいけないが、こういうセレモニーは特別なのだとミケは説明した。

「で、そこに転がっているのって・・・」

「はい」

ミケは頷いた。

縄で体の自由を奪われ、器具で無理やり口をこじ開けられているのは一昨日見たのと一緒だが、苦しそうに喘いでいるのはどう見ても年端のいかない幼女である。

「奴隷の中でも最下層の者が使い捨ての毒味になりますので」

「なるほどな、おい」

転がされている幼女の傍らで大きなスプーンを手にして這いつくばっている奴隷に声をかけた。

「その者の縄をとき、服を脱がせろ」

その奴隷は一瞬驚いた表情をしたが、すぐ縄を解き始めた。

優一はその奴隷が残虐な笑みを宿していることに気が付いた。

自分より下層の者を辱められるといった歪んだ喜びである。

案の定その奴隷は幼女の縄を解くと引き剥がすように貫頭衣を脱がせ、よろよろと立ち上がったところを汚らわしいとばかりに蹴りを入れて陽一の前に転がした。

転がされた幼女は慌てて全裸のまま額を床に擦り付けたが、そんなことをさせたくて戒めを解いたのではない。

「立て」

幼女はゆっくりと立ち上がった。

貴族と平民は王が奴隷という「物」をどう扱おうが口を挟む権限がないので素知らぬ表情でチラ見をしている。先ほど手伝った奴隷はニヤついて見ているが、他の奴隷は這いつくばっているので何が起きているのか分かっていないだろう。

「後ろを向け、よし、こちらを向け」

髪の毛は不揃いなショートカットというより坊主に近い。

身体のあちこちに切り傷と打撲痕、胸の焼印の痕は爛れて膿んでいる。

「ミケ」

「はい」

奴隷印や傷などがゆっくりと消え去り、水が身体をぐるぐる回って綺麗にしている。無論一瞬でできることであるが、ホールにいる連中に見せつけるためにゆっくり視覚化しているのが優一には理解できる。

「髪は肩の長さに伸ばして切り揃え」

「はい」

こうして見るとふわっとした栗毛で色白の可愛い女の子であり、縛り付けて転がされていた印象とは全く違う。

「服はいかがいたしましょうか」

立っている姿勢が良すぎるし、裸にされて恥ずかしがる様子もない。

これはどちらかというと貴族の姫に近い属性だろう。

「姫に見えるように」

「はい」

ミケは柔らかい生地でできた薄紅色のドレスを纏わせ、小粒のダイヤモンドを散りばめたティアラを髪に、紅珊瑚のネックレスを首にかけさせた。

「いいね」

優一は歩み寄り、片膝をついて幼女と目線を合わせた。

「汝の名は?」

「エリカと申します」

エリカは右足を引いて両手でスカートの裾を持ち、まっすぐに目線を合わせて答えた。

奴隷が出来る所作ではない。

本当に奴隷だったらミケの示した「奇跡」に冷静を保つことなどできないはずだ。

幼く見えてもこれは淑女として扱うべきであろう。

「必要なこととは言え衆目に裸体を晒した事を許されよ」

帝王が口にする言葉ではないかもしれないが、優一は誠意からそうエリカに伝えた。

途端にエリカの顔が真っ赤になる。

言葉の意味が理解できたということと、目の前の相手が異性だということに気が付いてしまったということだ。

「気を辿ると微弱ながら辺境伯に繋がっています」

ミケが耳打ちをする。

「そうか」

なぜ奴隷になっていたかが疑問だが、まあ今知る必要はない話だ。

「エリカを奴隷から解放し、伯爵令嬢の身分をここに回復する」

「身分変更できました。爵位に応ずる魔術使用の能力再付与」

「その爵位に応ずるって何?」

「はい、自分以下の身分の相手にしか攻撃魔法は振るえないというものです。治癒魔法には制限はありません」

ホール内がざわめいた。

最下層の奴隷が帝王と后を除けばホールでは最上位になってしまったのであるから当然ではあろうが。

ふと左を見ると、先程エリカを蹴飛ばした奴隷が震えている。

まあ、知ったことではない。

「エリカよ」

「はい」

「余を許すのなら抱きついてくるがよい」

エリカは躊躇いの表情を見せながらも優一に近づき、首に手を回して抱きついた。

優一がそのまま立ち上がり、文字通りお姫様抱っこをしたが軽すぎる。

「給仕の者、余と后の椅子を机の中央に移し、椅子と椅子の間にエリカの椅子を準備せよ」

命令は即座に実行された。

「あの、私は毒味の命を解かれたのでしょうか」

エリカの言葉が綺麗な発音だというのがなんとなくわかる。

「ああ、そうだ。后がいるので毒味は不要、汝は伯爵令嬢として会食するがよい」


2 

「あの・・・」

王女を見に行く目的でミケを先頭に回廊を歩いていると、背後から遠慮がちにエリカが声を掛けてきた。

「よろしいのでしょうか」

「何が?」

「回廊では、絨毯の上は王族しか歩いてはならないと聞いています」

「王族って、余と后が一緒にいるのになんの問題がある?」

「はい、でも私は・・・」

「そういう遠慮、幼女らしくないぞ」

「幼女ではありません・・・」

(いや、どこから見ても10歳はいってないと思うが・・・)

「わかった、よし」

エリカの脇の下に手を入れて持ち上げるとあっけなく体が持ち上がった。

そのまま背中に抱えるようにして右腕で尻を支える。

「これなら文句なかろう」

「あう・・・」

「そういえばエリカっていくつ?」

ミケが歩きながら聞いた。

「20歳になります」

「んん??」

思わず立ち止まってしまった。

「なんだって?」

「私の母が奴隷エルフだったので、歳のとり方が違うんです」

エリカの足をゆっくりと床に降ろしてやる。

「なんか、色々すまない」

目を丸くしているエリカにとりあえず詫びる。

「見た目で最初から幼女扱いしていた。裸にされたり抱っこされたり、苦痛だったであろう」

「い、いえ」

「私も勘違いして身体を処女に戻してしまいました」

ミケも申し訳なさそうに言う。

「あ、それは嬉しいです。好きでしていたのではなく、無理やりされていたので・・・」

「けしからん! あ、いや、エリカ」

「はい」

「汝は伯爵令嬢だ、もうひどい事をできる奴はいない。安心するがよい」

「え、あの、奴隷に戻されないんでしょうか?」

「庶子だからと汝を売り払ったバカ親と一緒にするでない」

「あ、ありがとうございます」

「ミケ」

「はい」

「妾は何人まで持てる?」

「何人でも、が答えです。私が王子を生み得ないので」

と言いながらジトッとした視線を送ってくる。

「エリカを妾として辺境伯領に伴ったら、どういう扱いになる?」

「それは、私に次ぐものですから、伯爵より高位の令嬢になります。子を宿した場合には魔力を使う際の爵位の縛りをなくしますので、魔力的には更に高位に位置することになります」

一般的な概念の妾とは違って王位継承者を生み得るのだから当然と言えば当然なのだろう。前の世の概念で言えば側室様だ。

令嬢とか夫人と称されるのは父や夫の爵位で遇されるが女子そのものには爵位がつかないということを意味している。

したがって女子の地位が変われば自分の庶子よりも身分の低い父親が出来上がってしまうわけだ。別の言い方をすれば女子の場合、呼称される元々の身分+与えられた地位のプラス部分が大きいということである。

「子を宿すって、体は見た目通りだよな?」

「エルフはもともと帝国領外の生物なので、よくわかっていません」

前の世界でエルフの特徴といえば耳が尖っているというイメージだが、エリカはごく普通の耳をしている。人間の遺伝子が強く外見には出ているのかもしれない。

「そうか・・・エリカ」

「はい」

「話を聞いていてわかったと思うが、妾にならないか?」

「あの、私はもう、何十人もの男に汚されていますが、それでもよろしいのですか?」

「その汚れは無くなっているはずだぞ?」

「あ、はい、そうですが・・・」

「妾といっても子作りが一番の目的ではない。

まあそれは体が成熟してからの話で、それよりもエルフの血を宿す者としてどう成長するのか見せてくれないかと言っているんだが、ダメか?」

中身は大人だと言われても、やはり幼女相手にどうこうする気にはなれない。

それよりは家族ごっこをして遊んだ方が楽しそうだ。

「お待ちいただけるということなら喜んで・・・」

「ということだ、ミケ」

「はい、そういうことでしたら私も成長には興味があります。後宮に一番豪華な部屋を用意しますわ」

「うむ、まあ近いうちに辺境伯領には行こう」

「はい」

「ところで子を宿すと使える魔術に制限がなくなると言ったな」

「はい」

「その場合、寿命も縮むという認識で良いのか?」

「まさか、たかだか人間が使いこなせる程度の魔力量を体に溜めたところで寿命に影響など出るはずもありません」

(自分のことを人間じゃないと言い切ったよ・・・)


王女たちの部屋は噴水のある花一杯の庭園に面し放射線状に並んでいる。

部屋から出ればすぐに姉妹と遊べる親切設計とも言える。

「今の時間はそれぞれ教師がきているので部屋にいるはずですが」

「が?」

「第1王女が変なところを動き回ってますね。教師は部屋の中にいるようなので課題でも出したのかしら」

気を追うことができるミケは部屋に着く前から第1王女の不在を見抜いていた。

部屋に入っていくと教師は驚いた顔で迎えたが、王女の事に言及しようとはしなかった。

「ところで汝は王女がいないのに何故ここにいるのだ?」

「示された時間までここで教えるのが私の仕事ですので」

(公務員かよ・・・あ、公務員なのか)

「わかった、ならば今教えているはずだった授業を余の前に示せ」

「あ、はい、今の時間は歴史で、帝国歴75年の内戦から115年の辺境紛争までの出来事を暗記していただくものです」

「ふむ、115年の辺境紛争とはどのようなものなのだ」

「はい、辺境に侵攻した蛮夷のエルフを打ち破った戦いです」

「蛮夷のエルフとはどのようなものなのか?」

「人間以下の下等なものの1つです」

「ではその紛争で相対したエルフと帝国軍の規模は?」

「存じかねます」

「では、エルフ軍と帝国軍はどのような戦場で戦い、どういう態勢で終戦を迎えたのだ」

「そこまでは存ません」

「それを知らずに王族に何を教えるというのだ」

「歴史はいつ何が起こったのかを知る学問ですので」

「そういう認識であるのならば教師などいらん、下がれ」

ミケは魔法を使う事なく手でシッシッと視界から立ち去るよう促した。

これ以上なく相手を馬鹿にした所作だというのが優一にもわかる。

「そりゃ逃げ出したくもなるわな」

そう言って振り返るとエリカがびっくりしたような顔をしている。

きっとエリカも詰め込み教育をされてきたに違いない。

「まあ、果たしてそう言う理由で逃げているのなら良いがな」

待っていても仕方ないので第2王女のところへ向かった。

今度はフルートの音が聞こえてきた。

第2王女は音楽か、どうやら各自カリキュラムが違うようだ。

お嬢様の定番アイテムかいいよなぁなどと思いながら部屋に入る。

しかし何か違和感がある。フルートが下手なのはいい、学生なのだから。

「陛下!」

ピアノを弾いていた教師は立ち上がって跪いた。音楽教師は平民らしい。

「かまわぬ、続けよ」

教師はピアノの椅子に座って伴奏を始めたが、今度は王女の演奏が支離滅裂に・・・

「待て」

演奏を止めると王女の顔が真っ赤になった。

(いや、お前を責めるつもりはないから)

「汝は高名な演奏家なのか?」

「こ、高名などとは、滅相もない」

「ピアノは調律しておるのか」

「はっ、もちろん」

「ならば何故王女の音を狂わせたまま伴奏するのだ。自分が高名なるがゆえに鼻を明かしてやろうとの魂胆ではないのか?」

「な、なんのことやら」

「余は音楽に詳しくはないが、ピアノの音階の最初の音はド、あるいはCという認識で良いか」

「はっ」

「フルートも同じであるな」

「はっ」

「その音を出してみるがよい」

ポーンとドの音が鳴った。

「王女よ、吹いてみよ」

その音を聞いてミケもエリカも「あ゛〜」という表情をする。

「半音近く音が狂っているではないか」

「あ、では半音ずらして伴奏すればよろしいのでしょうか」

「あのな、他の楽器にはピアノの音に合わせて調節できる機能がついているのを知らないのか?」

(アニメおたくの知識にも及ばない音楽教師ってどうよ・・・)

「ユーイチ、その人は前陛下がバカ女と行った平民用の酒場に新しく入れたピアノを弾けたいうだけで気に入って教師にしてしまった人なので教育は受けていないと思います。魔術的にも楽士のスキルは見えません」

ミケが明らかに侮蔑感を込めて耳打ちする。

「王女も災難であったな。もっとまともな教師を与えよう。下がらせろ」

ミケのシッシッという手の動きでその音楽教師は部屋から放り出された。

「ところで王女よ」

「はい、陛下」

まっすぐに視線を向ける第2王女は髪の色こそミケと同じ黒だがかなり巻きが入り、化粧も厚い。おそらくは侍女たちの仕業であろう。

「好きな男はおるか?」

「おりません。ここには男がいませんので」

「実はな、魔王を討つ勇者が現れたら、その者に娶らせようと考えておるのだが、どうか」

「御心のままに」

あっさりOKが出た。

ならば長居は無用

第1王女を探すことにした。

ミケによると現在適齢期にあるのは2人とのことなので、その他の王女は捨て置いて良いだろう。

「花の中にいます」

ミケの指差す場所を見ると、花が盛り上がっている場所がある。

近付くと正面からは見えないよう三方を蘭の鉢で囲ませた平ベンチがあり、その上でスタイルの良い女性がうたた寝をしている。胸の大きさはゾフィーと同じくらいはありそうである。

ただ髪を手入れしていないのか、ひどい癖っ毛なのか、せっかくの長い黒髪がボサボサである。

「おい」

呼びかけるとすぐに飛び起きたのはいいが、何故か怯えている。

「だ、誰?」

「誰って、後宮に帝王以外男がいるか?」

「ば、化物・・・」

化物だとはご挨拶だなと思いながら思い当たることもあり、振り向くとミケが不敵な笑みを浮かべている。

「そうか、お前には魔力の流れが見えるのか」

「ひっ、来ないで」

「ミケ、話ができないのでちょっと魔力を隠せ」

「はい」

「どうだ、俺が見えるようになったか?」

帝王らしい口調が飛んでしまっているが、この際どうでもいいだろう。

「だ、誰?」

「誰って、お前のオトーサンの帝王だろ」

「嘘!」

「嘘って・・・」

「帝王は黄金の魔力など宿してない。ただ残虐なだけの無能者よ」

(ひどい言われようだな、おい)

「お前を作った帝王のことなど興味はない。俺は第1王女に話があってきた。下らんことで耳を汚すのなら王宮から叩き出すぞ」

こういうのは静かに淡々と言った方が効果がある。

現に王女の顔が見る見る青くなる。

「ではまずは聞こう、何故今お前はここにいる?」

「はい、授業を抜け出したからです」

「何故授業を抜け出したのだ」

「つまらないし、受ける意味がないと思ったからです」

「それについては俺も同意だ。あの授業を受ける意味はなかった」

王女はホッとした表情をした。

「王女に受けさせている授業など暇つぶしの遊びにすぎん。教師は追い出したからもう受ける必要などない。魔王を倒した勇者にお前をくれてやるまでに下々の生活を学んでおくが良い」

「ま、待ってください」

「ん?」

「どういう意味でしょうか」

「今言った言葉の意味がわからないほどお前の頭はバカなのか?」

「いえ、そうではなくて、私は王女です」

「うん、王女だな」

「降嫁するにしても公爵家ならまだしも平民になど与えられる謂れはありません」

「ほう」

(案外神経の図太い面白いやつかもしれない)

「ならばここで公爵家に嫁ぐに相応しい功績を示してもらおうではないか」

「こ、功績?」

「あるのか? ないならば平民で十分であろう」

温室育ちの姫君に功績などあるはずもない。我ながら意地の悪い言い方をしたとミケを見ると黙って肩を窄めてみせた。


王女の部屋の次に連れていかれた執務室は堆く書が積まれていた。

「あ〜これはもしかして」

「はい、各部署から上がった報告書です。向こう側は請願です」

「言った手前見ないとな・・・請願は後回しでいいか」

「あのっ」

エリカが熱意を込めて

「私読み書きができますので、あそこに積まれている請願を要約した一覧を作りましょうか」

この申し出には驚いたが、拒否する理由はない、大歓迎である。

「頼む、任せた」

「はい」

エリカは嬉しそうに請願の山の方へ向かう。

「この部屋にあるものは自由に使うが良いぞ」

「ありがとうございます」

「ミケ、ここにある報告書を帝国の法規類集に紐付けすることはできるか?」

「はい、その程度でしたら」

とりあえず手前の書を開き、キーワードらしい単語を押さえると根拠となる条文が宙に浮かび出る。これは便利だ。

「おお〜読める、読めるぞ〜」

ずっと言ってみたかったアニメの有名ワードを呟いてみる。

書かれている言語は分からなくても意味は理解できるというのはさすが魔法である。

前の世界でこの力があったらきっと古代エジプト語などを解読する研究者として名を馳せていたに違いない。





















































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