第4話

「おふざけはここまでにして」

小さなテーブルを挟んだ向かいのソファに座ったタマは

真面目な顔で右に視線を滑らせた。

右の空いてたソファにミケが現れた。

「席を外させる意味がないとわかっているだろうからミケを呼んだよ」

「ああ」

ミケはもう後ろ髪を下ろし、タマと同じ服を着ているから瞳の色以外違うところがなく、動かなければ可憐な少女の人形が斜向かいに並んでいるように見えるだろう。

「これだけの誘惑に耐えていることに敬意を表してマジな話をするよ」

ミケは驚いたような視線をタマに向けている。

「ミケとオレは全く能力は変わらない」

「魔力の話か?」

「そう。もっとも世界の魔力の調節なんて面倒臭いことはミケがやってる」

「なら、タマの役割は?」

「役割っつーか、オレは見ての通り遊び好きだからさ」

「うん?」

「ミケが使いきれない魔力で魔物を作って人間を遊ばせて来たわけよ」

「そう言うことか」

「いや、今多分想像したような目的じゃぁない」

タマは少し照れたように

「ダンジョンの一番奥にいるのはなんだかわかる?」

「魔王と幽閉された王女というのが鉄板だな」

「わかってるじゃん」

(何が言いたいのだ、タマは)

「オレたちさ、魔力使って何でもできるんだけど、何もしなくても魔力は体を蝕むんだよ。だから身体はもってあと10年っていったところ」

「なんだって!」

「焦るのは聞き終わってからにしてくれ」

「あ、すまん」

「で、強い相手と子供を作れば、その肉体はその分強くなるだろ」

「うん、それはわかる」

「オレたちの身体は特殊で、子宮で育っている間は魂は宿らないんだ。だから臨月になったら生まれる前に魂を乗り換えるんだ」

「・・・おい、それだと」

「そう、当然母体は死ぬから、旦那に腹を切り裂いてもらい、『やあ』と再会することになる。意識はそのまま移るので俺たちは問題ないが、旦那は目の前で死んだ女の腹を切り裂くという行為を生きている間繰り返すことになる」

「ということは・・・前帝王は・・・」

ミケを見ると素直に頷いて

「はい、経験しています」

「ん? 待てよ。腹の外に魔法で転移すればいいだけじゃないのか?」

「できますが、敢えてそうしているのです」

「なぜ?」

「魂が乗り移る瞬間、今までの記憶を消すからです」

「んん?」

「今まで愛した女の腹を自らの手で裂いた、つまり后になった女は愛する女の命を奪ったという誤った意識に変えて刷り込んで、肉体が成長するまでの間、嫌悪感という感情で遠ざける意味があるからです」

「それで前帝王は妾に走ったのか」

「いえ、それはちょっと違くて・・・」

ミケは少し言いにくそうにしながら

「ミケと子をなしてもミケにしかなりませんので、それ以外に子をなさないと帝国が維持できません」

「あ、帝王にも寿命があるってことか」

「はい、ミケが生まれ変われている間は若さを維持し続けられますが、もし失敗してミケが消滅したらすぐに老いが訪れます」

「なるほど」

「前陛下のように鬼畜で無能で害にしかならないような人でも帝王さえいれば帝国が傾くことはありませんが、帝王を継ぐ子がなければ帝国はそこで崩壊します」

(すごい言われようだな・・・)

「もし帝国が崩壊したらどうなる?」

ミケが視線をタマに送った。

自分が消えたあとどうするという話だから、それは当然か。

「オレが魔物の世界に変えるさね。あんたいい人だから死ぬまでは待ってやっけど、オレが人間を存続させる謂れはないし、人外との交尾でも生まれ変わりは可能っちゃ可能だからな」

タマは懐かしむように視線を宙に泳がせて

「まあ、昔はダンジョンに魔王っぽく見える魔物を作って置いて、オレは姫様に化けて待ってたんだけどよ、冒険者たちは威勢の割には弱すぎて途中でおっ死んじまうんだなぁ」

(まあ、レベルが足りなけりゃそうなるわな)

「次回期待ってことで生き返らせて放り出していたらダンジョンを攻略したとホラ吹く奴が続出でアホらしくなった」

「それで温泉経営に変えた?」

「そういうこっちゃね。まあ、人間だろうが人外だろうがここまでたどり着くのはかなりすごい奴だから、誘惑して取り込んで、生まれ変わったらポイッてことね、あはは」

(その件については踏み込まないでおこう(汗))

「まあ、それで魔物のことで相談なんだが」

「うん、何?」

「また魔物を作ってダンジョン遊びを始めてもらえないだろうか」

「いいけど、今みたいにとりあえずは食える時代に、冒険者みたいなかったるいことやろうって奴いるかな」

「それについてなんだが、銅銭入りのスライムを作って撒いたの見ていただろ」

「やだよ、人間のために銭を作るなんて面倒臭い」

「それについては帝国で鋳造してミケに送らせる。色々なレベルに合わせて得られる銅銭を調整してもらいたい。潰されるのが嫌なら逃げる時に置いて行くでもいい」

「ふむ」

「銅銭の代わりにポーションやアイテムを持たせる魔物も作れば、冒険者のパーティを再生してやる手間も減らせると思うが」

「まあ、オレは楽しけりゃそれでいいが、なんのためにやるんだ、それ」

「産業の振興だよ」

「産業?」

「棒切れでも始められてお金を得られるとなれば、職がなくて奪い合っている人間が小銭稼ぎを始め、より稼ぐために武器や防具を求め、宿泊する場所や酒場を求めるようになる。娼婦も実入りが良くなるしそれぞれの職業ギルドからの税収も期待できるということだ」

「ってことは大々的にやれってことだな」

「世界の魔力を動かせるタマやミケにしかできないことだからな」

「まあ、そうだけど」

「魔王に化けた魔物にアイテム持たせて『魔王を討伐しアイテム持ち帰ったら姫と結婚させる』という条件をつけ、姫に化けたタマと勇者が結婚というのもありなのではないか?」

「オレは別に結婚がしたいわけじゃないんで、男には子供を作る以外の役割は期待しない」

「そうか」

「ねえ、それならいい案があるよ」

ミケが身を乗り出しながら

「前帝王の娘が何人かいるから、それを景品にしたらいいんじゃない?」

(景品って、姫はおまけかよ)

「あ、そうだな、生まれ変わるまで男をキープして置いて、用が済んだらそっちへ送り返せばいいんだものな」

「うんうん」

タマとミケは意見が一致したらしい。

「ちょっと待て、それでいいとは思うのだが、ミケの言う所の景品を俺は見たことないんだ。それを見てからでもいいか」

「いいよ。案外好みの娘で手を出したくなるかもしれないしなぁ」

「ユーイチ、前帝王が作ったとはいえ、娘に手を出すのは奴隷を壊すより鬼畜だとミケは思います」

「ああうん、その感覚は多分一緒。ただ見たいだけだよ」

「わかりました、明日朝一番に戻ります」

ミケの言葉を聞いてタマがソファーから立ち上がった

「話がついたな、じゃあ夕食前に一運動しよう」

「運動?」

「ミケとオレ、まだ子供できないから安心して遊べるぞ。そろそろ我慢も限界だろ?」

タマはそういうとぺろっと自分の唇を舐めた。

























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