第3話

星空、銀河、ミルキーウェイ

単語の意味は理解していたが、実際に見るのは初めて、というか同じものなのか?

星々が強い光を放って漆黒の空に川を作り、川の周囲でも小さな星が無数の光を放っている。

なんにせよ美しい。

気温は間違いなく下がって来ているが、右隣にミケ、左隣にゾフィーが肩を寄せているので寒い感じはしない。

誰も隣にいなければきっと寂しさが加わって凍っていたに違いない。

ただ、リア充初心者のため膝枕などという高度な要求はできず、3人で固まって寝転ぶ形になっているが、両側に彼女?がいるというだけで気分がハイになっている。

森の中の開けた場所なので360度見渡す限りというわけではないが、星空を堪能するには十分で、暗い森の中のぽっかりと明るい空間というのも面白い。

もぞもぞと手のひらを探すとミケもゾフィーもすぐに察して手を握ってくる。

リア充最高!と叫びたくなる瞬間である。

左を見るとゾフィーが首を少し傾けてこちらをうっとりと見ているのがわかる。

魔力か星の光かは知らないが、白く輝くゾフィーの肌はとても美しい。

次いで右を見ると、ミケもこちらを見ているが、その表情は指示を仰ぐ時のものだ。

「ミケ」

「はい」

「何かいるのか?」

「近くで男が10名ほど動き回っています。盗賊でしょう」

近くでということは、他にもいるということか・・・

「銭と砂金目当てかな」

「おそらくは」

昼間、娼館前で元代官が女達に切り刻まれるのを見物した後、ゾフィーの進言で金持ちの貴族ということにして市場を回った。

その際に砂金入りの袋をミケに出させて換金したのだが、この地方には金脈がなく金は高値で取引されているため大きな箱2箱分の銅銭が手に入った。

普通なら宿屋に運び入れさせて馬車を待ったりするのだろうが、従者を装ったミケが軽々と2箱を担ぎ上げた。

魔法の存在が見えない者とってはどこから見てもただの少女が、である。

ミケの懐に収納した方が実は簡単なのだが、わざと見せびらかしたのである。

注目を浴びていることを確認しながら食事と買い物をし、森へ向かった。

力があると言っても女である。貴族の坊ちゃんと女2人のカモ一行を暗くなったら襲撃をしてやろうというのはとてもわかりやすい。

室内と比べ屋外ならどこからでも襲撃できるし、焚き火などの目印があるだろうし、寝ているところを襲えば楽に済むというお気楽な気持ちでいるに違いない。

「まさかこうやって寝っ転がってるとは思ってないだろうな」

「はい、それにこうやって私に繋がっている限り私たちは背景にしか見えません」

要は相手が至近距離からこちらを見ても光学迷彩が施されているのと同じ状態になっていて見えないということだ。

「ミケ、もしかして」

「はい」

「村の男たちは酒を飲むのが仕事なのではなくて盗賊が仕事なのではないか?」

「そうでしょうね、おそらく」

「今思いついたんだが」

「はい」

「お前、魔物を作れるか?」

「作れます。何を作りましょうか」

「スライムを」

「はい」

目の前、空中にスライムがあらわれた。

色はわからない。白く輝いてはいるが星が透過して見える。

「これは弱いのか?」

「はい、棒で叩いただけでも潰れてしまいます」

(ふむ、ゼリーのようなものか)

「この中に銅銭を入れたらどうなる?」

「スライムが生きている間は何も。潰した後に銅貨が残ります」

「よし、何匹か盗賊にぶつけてみてくれ」

「はい・・・あ、逃げられた・・・別の盗賊に・・・今度はうまく潰されました、でも銅銭に気がつかない・・・」

「潰された時に銅銭を光らせるようにできるか」

「はい・・・うーん・・・一瞬じゃダメですね、少しの間光らせるように調整します・・・できた」

「よし、銅銭を全部スライムにして周囲に撒いてくれ」

「はい、・・・ふう・・・」

「手は離して大丈夫か?」

「はい、近くに人間の気配はありません」

ホッとして繋いでいた手を離すと、体を少し右に傾け、ミケの首の下に腕を入れて巻き込むように体の上にミケを乗せた。

顔が急接近してミケが驚いた表情をしたが、ミケも右腕を回して来たので決して嫌がってはいないということはわかる。

「あの・・・」

ミケが恥ずかしそうな声で

「ミケの体、子供を産む準備が整っていないので、子種はゾフィーにあげてもいいです」

(おーい、この子今なんて言った・・・)

「ミケ、触られるのが嫌なら、そう言っていいんだよ」

「嫌なわけないじゃないですか、なんでそうなるんですか」

(まあ、確かに嫌なら魔力を使ってでも拒否るよな・・・)

「そうじゃなくて、ミケに相談があるんだった」

「はい」

「ここには冒険者とかいないのか?」

「昔冒険者は存在しましたし、冒険者ギルドも存在しました」

「なくなったのか・・・なぜ?」

「魔物やダンジョンが消滅したからです」

「なぜ消えたのだ」

「それは、当事者が生きていますので、明日ご案内します」

(当事者!?)

「あの」

今度はゾフィーだ

「こ、子種をいただけるのですか?」

「ゾフィー、それ意味わかって言ってる?」

「はい、陛下の物をいただけるのは光栄なことです」

(あ、だめだ、こいつわかってない)

「疲れた、寝よう!」

「はい」

「はい」

ミケは素直に体を右に捻って眠る体制に入った。

暗くなったから寝るという忘れてしまっていた感覚を思い出した。

今何時かわからないが、熟睡できるといいな・・・


もぞもぞと動く気配で目を覚ますと、既に空は明るくなっている。

アラームなしで目が覚めるなど引きこもり時代以来のことだ。

まあ、引きこもり時代は寝落ちが基本だったので、目覚めと言えるのかは疑問だが。

夢を見ず、よく寝たと思える感覚は新鮮だ。

空は明るいが夜明け前のようだ。

この場をそっと離れたゾフィーがくっついていた左肩が少し寒い。

体を少し右にひねると目の前にミケの顔がある。

(うーん、寝顔が可愛いすぎる)

思わずミケの頬に口付けをした。

唇を目標にするにはまだリア充レベルが足りない。

「起きてるだろ」

一瞬ではあったが表情がにやけたような気がしたのでカマをかけてみる。

「はい」

ミケはあっさりと答えて目を開ける。

「あんまりそうやって揶揄うと本当に襲うからな」

勢いで左手をミケの胸に置いてみる。アニメなんかだとビンタが飛んでくる展開だ。

「どうぞ?」

待ってましたとばかりの対応を取られると、逆に困る。

「あら」

ちょうどそこにゾフィーが戻って来た。どこへ行っていたか聞くほど野暮ではない。

「おはようございます、あ、朝食の準備しますね」

そういうとゾフィーは踵を返した。

「ふう」

ミケが起き上がりたそうにしたので手を貸すと

「大丈夫ですよ」

と耳元で囁いた

「大丈夫ですよ、少しくらい乱暴に扱ってもミケは壊れませんから」

そう言うと立ち上がらずに草の上に女の子座りで座った。

確かに女の子を触るのは初めての体験だから、昨日からずっと恐る恐る触っていたと言うのはあるかもしれない。

「昨日」

真面目な表情で伏し目がちにミケが話しかけてくる

「うん?」

「ユーイチは代官がやってる姿みて、ものすごい嫌悪感撒き散らしましたよね」

「やっぱり伝わっていたんだ」

「はい、それで本当に前とは違う人だなって・・・だって前の帝王陛下はもっと酷いことをしていたんですよ」

(おおい、どんだけ鬼畜だったんだよ・・・)

「ミケは帝王陛下にいくら遠ざけられても、気は繋がっているので意識を重ねると陛下がしていることが見えてしまうのです」

「え、待てよ、ミケは生まれた時から繋がってるんだよな」

「はい」

「じゃあ、前の奴は女性にけしからんことをしているところを幼児に見せていたと」

「はい」

「そ、それは災難だったな、ミケ」

「最近では陛下は貴族の女を抱くのに飽きていて、様々なことを奴隷の女に試してよく壊すので、陛下が立ち去った後にその部屋に行って治癒をするのが大変でした」

「そう言うことか」

「はい、ですから優しくしてくださるのはとても嬉しいんですが、生娘のように扱わなくていいんですよ」

「いや、それは結論が違うだろ」

「結論が?」

「そうだ、前帝王に酷く扱われたので、あなたには優しく扱って欲しいとか、そう言う方向に行くんじゃないか?」

ミケはしばらく目を丸くしていたが

「ユーイチはいい人」と破顔一笑した。


「ここ、温泉、だよな」

目の前に大きな池。普通の池と違うのは湯気が立ち上っているということ。

池の向こうには大きな建物があり、周囲は低い山で囲まれたよく言えば風光明媚、悪く言えば客のいない萎びた温泉といったところか。

「はい、魔王温泉です」

「魔王温泉!? この世界にもスパ・リゾートがあるのか・・・」

「魔法が使えない人は帝国のはずれの村から馬車で8日はかかりますけど」

「帝国ではないんだ」

「だから、魔王温泉です」

つまりは魔王の領土か、と納得したところでミケがニヤッとした

「服を全部消しますよ」

「え、待て、ミケ、どういう意味だ?」

「ここに来たのはもう気付かれています。ただ、魔王は用心深いので裸で温泉の中に入っていかないと出てこないんですよ」

「なるほど」

寸鉄も帯びていないと言うことを裸で温泉に入ることで示すわけか。

説明は理解できたので、ゾフィーを見ると

「どうぞ」と頷いた。

瞬間、ものすごくたわわな、もとい目に毒なものが見えてしまったので視線をミケの頭に移す。

「あ」

「?」

「髪の毛をまとめないとまずいんじゃないか?お湯の中に浸かってしまうぞ、髪が」

「あー・・・」

歩きながらミケの髪の毛が一本一本意識があるかのように持ち上がり、頭の上に束ねられて行く。ミケを知らない者がいたら腰を抜かしてメデューサ伝説ができるんだろうなと思いながら見ているが、素直に言えば面白い。

優一には髪の毛を結うなどというスキルは当然持ち合わせていないので、変な甘え方をして恥をかかさないミケの心遣いが嬉しいのである。

ミケの髪に気を取られていたおかげで全裸で移動というイベントはクリアできた(と思う)

温泉の池は広いのに、なぜかミケとゾフィーはくっついてくる。

「ゾフィーの髪型がポニーテールになってる!」

「はい、髪の毛が勝手に動いて・・・」

温泉の泉質は透明なので、視線を上に保っていないと自分的にヤバイのである。

「よく来たな!」

突拍子もなく、目の前にミケそっくりの少女が現れた。

ただし髪の毛は銀色のボブで、瞳の色が緑ではあったが。

「マオー、髪型変えた?」

「いや、この御仁が長いのを気にするようだったから短くしただけだよ」

マオーと呼ばれた少女とミケが文字通り手を取り合ってきゃっきゃと喜んでいる。

「マオーというのは魔王のことか?」

(優一がユーイチだしな・・・)

ミケがはっとして

「あ、ミケの双子の魔王です」

「あ、どうも、魔王です」

「マオー、ユーイチは帝王陛下、私の旦那様なの」

「うん知ってる」

「大丈夫、討伐に来たわけじゃないよ」

「いや、そっちの遊びしたいんなら別にいいんだけどさ」

「ちょっと待て」

どんどんわけのわからない会話になっていっても困る。

「再会の積もる話は後にしてくれないか」

「はい」

ミケはおとなしく身を引いた。

「魔王とやら、サシで話がしたいんだが」

「いいぜ」

魔王と瞬間的に転移した場所は、どう見てもベッドの上だった。

風が通り過ぎたと思ったら濡れているはずの肌が乾燥していた。便利だ。

周囲を見回すと熱帯魚の水槽らしきものが見える。

どうやら豪邸のようだ。

「えっと」

そして魔王は目の前にいる。

「服は着ないのか?」

「男と女がサシでって、こういうことだろう」

と脚を広げながらニヤリとするので、思わず頭にゲンコツをくらわせた。

もちろん本気でなく、戯れにノリツッコミをするときの強さである。

いい加減理性がやばい。

「ごめんごめん」

魔王はあっさりと自分と優一に服を纏わせた。

髪も黒髪ロングに、つまり見てくれがミケそっくりに変化した。

「客が来るなんて本当に久しぶりなのではしゃいでた、非礼は詫びる」

「双子だけあって、やることが似てるけど、もう少しお前ら自分の体を大切にしろよ」

「大切にしてるぜ。なあ、あいつにミケってつけたんだろ? オレにも名前くれよ」

(オレっ娘かよ・・・)

「じゃあ、タマ」

ミケといえばタマだよな、という軽いノリだ

「やったぜ!」

(猫用の名前でそこまで喜ぶか?)

「タマは魔王だろう、魔王がなぜ俗名を欲しがる?」

「あんたが言ったんだろ、お互い陛下呼ばわりはやめようって」

「もしかしてミケとのことをずっと見ていたのか?」

ミケが前帝王を見ていたようにタマもミケを見ていたということか

「暇だからな」

タマはスッと視線を逸らした。

あまり良いことではないという自覚はあるようだ。

「ミケはここは勝手知ったる場所なのか」

「そうだよ」

「なら安心だな・・・とりあえずベッドから降りて椅子に座って話しよう」

「ん?ここで話して疲れたらそのまま寝ればいいだろ」

「押し倒したくなってしまうんだよ。理性があるうちに、行くぞ!」





























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