第5話 小さな勇者、地べたを這う

「HAHAHAHAHA!流石の俺も入学初日に『ジャック・スプラットを使わせてくれ』なんて言われるとは思わなかったZE!そんなにこいつのことが気に入ってくれたんだな!嬉しいぞ息子よ!」

「うっせ、誰が気に入るか!已むに已まれぬ事情で乗らざるを得なくなったんだよ!」

「……半分くらいは自業自得だけどね」

 全くもってユナの言う通りなんだが、勝負すると言ってしまったものはどうしようもない。あんなに挑発されてすごすご引き下がるくらいなら死んだ方がマシというものだ。

 入学式終了後、俺は親父に事の次第を説明するとすぐに「なんだそうか良いぞ!」の一言で電話を切ると、30分と経たない内に演習区へとすっ飛んできた―――ホント、返す返すもこんなのが『MIRI』のトップで良いのだろうか―――とまあそれは置いておくとして、ともかく今演習区格納庫にてジャック・スプラットの出力調整を親父にしてもらっているところだった。この出力調整を怠ると戦闘の際思うように動かせなかったり、バッテリー消費が早まったりする等色々と不都合が生じる。

 出力調整のやり方自体は中等部で習うので勿論俺も一通り網羅しているが、親父の肩越しに調整用PCの画面を覗いてみると、見覚えのないパラメータを触っている様子が見られる。どうやら既存の機体とはやり方が違うらしい。いずれは自分でできるようにならないといけないので、後で詳細を確認する必要がありそうだ。本当にこの機体を使い続けるなら、の話ではあるが。

「よし、とりあえずはこんなもんでいいだろ」

 親父がパタンとPCの画面を閉じる。どうやら調整が終わったらしい。

「もういいのかよ?」

「ま、急だったからちぃとばかし調整不足ではあるけどな。野試合くらいならなんとかなんだろ」

 ……若干不安を感じる台詞ではあるが、今は信じるしかあるまい。

「ところで、その野試合の相手はどこに居る?そいつにも実機が必要なら用意してやろうか?」

「その必要はねーってよ。何でも本国から送られてきた量産型の試作機があるからそれを使うらしい」

 本国に使用許可を取り付けているのかどうかは分からんが。後でどうなっても知らねーぞマジで。

「ほーん、そしたらとりあえず心配はないか。ほんじゃ、こっちも現地に向かうとしますかねえ。さあ、乗った乗った」

 ……はあ、遂に乗らないといけないのか、この機体に。いやまあ乗ると言い出したのは俺なわけだが。仕方ない。グズグズしていても始まらないのだ。

 観念して搭乗台のタラップを昇り、機体の背中にあるコックピットハッチを開ける。

「狭っ!?」

 第一に思ったのがそれだった。同年代の連中と比べても遥かに小柄な俺がそう思うのだから相当な狭さだ。成程確かにこれでは俺以外のパイロットは乗ることなどまず不可能だろう。そういう風に作ったのだろうが。

 どうにかして体をねじ込んでハッチを閉め、通信用ヘッドギアを被ると同時に起動キーを差し込む。

 ブン、と音がして目の前に「SYSTEM START」の文字が表示され、次いで此方を見上げている親父達の姿が映し出された。どうやら無事起動したようだ。

『どうだ?見え方に問題はないか?』

 集音マイクが拾った親父の声がヘッドギアのスピーカーから聞こえた。此方も外部拡声器をオンにして答える。

「画像解像度、色彩、遠近感全て異常なし。視界カメラは問題なさそうだ」

『上々。ほんじゃまあ、ちょっと動かしてみてくれ。格納庫を一周するくらいの感じで』

 親父に促されるまま、俺は中等部でのシュミレーションの時と同じ感覚で右手のレバーをぐいっと前に倒し―――

「うぇっ!?あっ、ちょっ、おわあああああ!!??」

 俺の予定ではその動作で前に歩き出す筈だったのだが、違った。

歩くどころではない。前方に向かって。それも思いっきり。おかげで機体は格納庫の壁に激突する羽目になった。

親父とカズが爆笑している声が聞こえる。あいつら後で殺す。

『HAHAHAHA!スマン言い忘れてた!そいつ、普通の機体より操作感度をかなり鋭敏にしてあるぞ!なんせすばしっこさが命だからな!』

「そういう!ことは!先に言えっていうの!」

 壁にめり込んでしまった機体を何とか脱出させながら、俺は悪態を吐くのだった。


* * *


 演習区というのは、『MIRI』の南側に広がる広大な実戦演習場のことだ。その面積は全区画内でもぶっちぎりで広く、演習区内で更に市街地エリア、森林エリア、山岳エリアなどと地形の特徴ごとにエリア分けがされている程である。イアンとはその内の市街地エリアで落ち合うことになっていた。

『それが……君の機体なのかい?』

 十数分後。あれからレバーの操作加減を間違え壁にぶつかること五回、歩行のバランスが合わず転倒すること七回、そこから起きあがることに失敗して回転すること十回。

 散々な目に遭ったが何とか操作のコツを掴むことができ、待ち合わせの演習区市街地エリアに辿り着いたところでスピーカー越しにイアンが発したのがこの台詞である。

 明らかに当惑してるな。気持ちは分かる。俺もそうだった。

「ああ、そうだよ。こいつが俺の専用機―――『ジャック・スプラット』だ」

 改めて、イアンが乗っている機体を見上げる。ずんぐりしたフォルムの『おそれ』と比べると幾分スリムだが、それでもがっしりとした形状をしている。右手には近接戦闘用のランス、左手には大型の盾が握られている。

 確か機体名は『ロイヤル・ガーディアン』だったか。未だに王政を貫いているイギリスらしい名前だ。

 ……それにしてもまあ、こうして本格的な機体を目の前にすると己の機体の小ささが改めてよく分かる。まるで大人と子供だ。なんでMMマシンメイルに乗ってまで自分の小ささを実感せねばらんのか。嫌がらせにも程がある。

 などと内心親父へのヘイトを募らせているうち、当惑から回復したらしいイアンの声の調子が変わっていく。

『なるほど、それが君の機体か……くっ、くくくくっ……』

 ああ、見える。数秒先の未来が見える。あまりにも予想通りの展開だ。

 果たして、三秒後にその予想は現実になった。

『くっははははははは!なんだい君それは!?オモチャかい!?それでまともに戦えるとはとてもじゃないけど思えないけどねえ!?はははははははは!』

 大爆笑である。およそ中等部時代に出会った時から初めてではないかと思うような大爆笑である。実に腹立たしい。

『あはははははは!そりゃ小人君以外乗れるわけねえっス!傑作っス!』

『腰に下げてるの何?針?針で戦うのアレ?マジ受けるんだけど!』

『あまり笑ったら悪いんじゃ……ぶっ、ふふふふふっ』

 管制室で見物しているらしいクラスメートの笑い声まで聞こえてくる。マジで何なのコレ。完全に晒し者状態なんですけど。

 げんなりして溜息をついている間に、イアンは爆笑の渦中にありながらも何とか息を整えようとしていた。

『くふっ、いやまあなに、くくくっ……君が決闘を渋った理由が分かったよ。逆の立場だったら僕も恥ずかしくて人前に出てこれないだろうからねえ。く、くくくっ』

「だああうるせー!いつまでも笑ってねえでさっさと構えやがれ!てめえが挑んできた決闘だろうがよ!」

 遂に限界を迎え、マイクに向かって声を荒げるとようやくイアンは笑いを引っ込めたものの、余裕の態度は崩さなかった。

『ホントに良いのかい?今なら特別に決闘を取りやめても構わないけどね?』

「二言はねえよ!そこまで笑われて大人しく引き下がれるわけねえだろ!」

『ふん、後悔しないことだね』

 そう言うや否や、ロイヤル・ガーディアンがランスを構え、戦闘態勢に入った。こちらも鞘に入っているランス―――もとい、『一寸法針』に手をかける。ていうか後でもっとマシな名前を考えよう。口にする度にげんなりする名前の武装など御免である。

 両者が戦闘態勢になると同時に、親父の声が響いた。

『よーし、二人とも準備は良いな?勝負は実機での一本勝負。移動可能なのはこの市街地エリア一帯のみ。先に相手の機体を戦闘不能にした方の勝ちだ。異存はないな?』

「ねえよ」『ありません』

『よろしい。分かってると思うがパイロットコアを狙った攻撃は厳禁だからな。危ないと思ったらこっちで止めるからそのつもりでいろよ。では―――始め!』

『はああああああっ!』

 開始の合図と共に、先手を打ってきたのはイアンの方だ。大型ランスの穂先が此方を狙って向かってくる。

「そんな分かりやすい攻撃もらうわけねえだろ、っと!」

『まだまだぁ!』

 横っ飛びで突進を回避すると、イアンは迷わずランスを横薙ぎに払ってきた。だがこれも予測できていたのでジャンプでかわす。

「隙あり!」

 ランスを払って無防備になったロイヤル・ガーディアンの懐に潜り込もうとダッシュをかける。だが―――

『ないよ、そんなものは!』

 接近しようとしたこちらの機体を、イアンは左手の盾を使って弾き返そうとしてきた。所謂シールドバッシュという奴だ。

「甘ぇよ」

『何っ!?』

 そのシールドバッシュすらもかわしてのけると、さしものイアンも驚愕の声を漏らす。

 この程度なら造作もない。相手の機体の予備動作さえ見逃さなければ、次にどんな行動を行うのか大体分かる。伊達に中等部を主席で卒業してるわけではないのだ。

「これで―――どうだっ!?」

 懐に入り込んだ俺は武装の針を鞘から引き抜き、ロイヤル・ガーディアンの膝部分目掛けて振りかざす。

 けぃんっ

―――という力ない音と共に、『一寸法針』は呆気なく機体の装甲に弾き返された。うん、まあ、ですよね。

『ぷっ、あははははは!なんだいそのザマは!?君は僕を笑わせる為にここに来てくれたのかい!?』

「うっせ、今に見てやがれ!」

 イアンの嘲笑を腹立たしく思いつつも、接近したままでいると危険なので一度大きく後ろに跳んで距離を取る。だが、イアンもそれを容易く許すほど間抜けではなかった。

『逃がしはしないよ!』

 ランスをその場に突き立てると、背中の格納スペースから副武装のアサルトライフルを取り出した。そのまま銃弾の驟雨をこちらに向かって浴びせてくる。

「ちっ!」

 流石にこれには逃げの一手にならざるを得ない。対MMマシンメイル用のアサルトライフルと言えど1、2発弾を食らう程度ならどうということはないが、連続して食らい続けると装甲が破損する恐れがある。なまじ小さい分動作信号回路が密集しているであろうこの機体がそうなってしまうと致命傷になりかねない。   ジャック・スプラットには遠距離武装が搭載されていないので撃ち合うこともできない。ただ逃げ回るしかなかった。


* * *


『なんだよ、やっぱり防戦一方じゃん』

『そりゃそうだろ、あんな機体で戦えるわけねえよ』

 口々に嘲笑交じりの感想を漏らすクラスメイトの声を、優奈は無感動に聞いていた。

 ―――ホント、見る目がない。重要なのはそこじゃないのに。

 そう思いはするものの、指摘する義理もないので何も言わずにおく。代わりに、モニターの中で戦っている二つの機体に視線を移す。

 琥太郎が乗るジャック・スプラットが、イアンの乗るロイヤル・ガーディアンが放つアサルトライフルの銃撃から必死で逃げ回っているのが見えた。

「……やっぱり、すごいわね……」

 ぽつりと、そんなことを呟いた。

「おー、やっぱりイアンも琥太郎に次いで2位だっただけはあるよなー。今日初めて実機に乗ってる筈なのにあそこまで使いこなせるんだもんな」

 隣で聞いていた一人かずひとの言葉に、優奈は呆れた目を向けた。

「…そうじゃない。琥太郎の方」

「あん?コタローの方は別にそうでもねーだろ。武装は役に立たねーし逃げ回ってばっかだし。むしろ予想通りって感じだけどな」

 やっぱり気づいていない。優奈は溜息をつくと、考えの足りない一人かずひとにも分かるように説明することにする。

「……カズ、あんたネットゲーム好きよね。FPSとか」

「ん?おう、たまにコタローも誘ってオンライン対戦とかやったりしてるけど?」

 なんで今その話をするのか、と言いたげな一人の視線を無視して優奈は話を続ける。

「……そのゲーム、マウスやコントローラーの感度を目一杯上げた状態でもプレイできる?」

「は?いやいや、無理無理。そんなに感度上げると視点移動も滅茶苦茶になるしまともにプレイできなくなるに決まって―――」

 一人かずひとの言葉が途中で途切れる。どうやら理解できたらしい。琥太郎が今、どれだけまともでないことをしているのか。

「え?何?もしかしてコタロー、そんな状態でやり合ってるワケ?ろくに練習もしてないのに?」

「そう……私でもカズでも……イアンにだってそんな芸当は無理……それをやってのけてるから琥太郎はすごいの」

「……ホント、勿体ねえよなあ。背が低いからってだけで、あんなちっこい機体に乗るしかないなんてよ……」

「コタロー!ファイトですヨ!怖がらずに突撃あるのみデース!」

 無邪気に応援するアンジェの声を聞きながら、優奈と一人はそれぞれ思い思いに未だ逃げ回るジャック・スプラットの姿を見つめていた。


 * * *


「くそっ、流石に全部かわしきるってのは無茶か……!」

 横っ飛びやバックステップ、時には建物を遮蔽物にしながら俺はアサルトライフルの猛威から逃れていた。幸いここは市街地エリアなので遮蔽物には困らないが、だからと言って秒間何十発という勢いで放たれるアサルトライフルの弾丸をそうそう全てかわし切れるものではない。まだ決定打には至っていないが、徐々に機体にダメージが蓄積しているのを何となく肌で感じていた。このままでは成す術なく負けてしまう。

 だが、恐らくそろそろの筈だ。その瞬間だけ、決定的な隙ができる。

―――カチッ

 果たして、その音は聞こえた。アサルトライフルのマガジンが切れた音だ。途端、鉛玉の嵐がポツリと止む。

「ここ、だぁっ!!」

 瞬間、俺は建物の影から飛び出て猛然とロイヤル・ガーディアンに向けて駆ける。マガジンを交換する隙も、武装をランスに持ち替える隙も与えない。ここで勝負をかけるしかない。

『ははっ、無駄なことを!武装など必要ない!虫けらのように踏み潰してあげよう!』

 先ほど俺の武装が自分の機体に通用しないことを確認しているイアンは、すっかり油断しきった様子で機体の右足を高々と上げさせる。そのままストンプ攻撃で迎撃するつもりらしい。

 ―――ああ、そうだろうよ。確かに俺の武装はお前の機体には通用しないだろう。だが、その油断がお前の命取りだ。

『潰れろぉ!』

 狙い定めて放ってきたストンプ攻撃を、俺は前転しながら紙一重でかわし、すぐさま機体を反転させる。そして―――

「調子こいてんじゃ、ねえよっ!!」

 機体の全体重をかけたタックルを、今しがた踏み出したロイヤル・ガーディアンの右足にお見舞いした。

『何っ!?うおおおっ!?!?』

 小さいとはいえ1t近くはある鉄の塊だ。そんな重量物が全体重をかけている軸足にぶつかってくれば、当然の帰結として―――

『ぐ、ぐおおおおっ!?』

 凄まじい轟音と共に、ロイヤル・ガーディアンは転倒した。


 * * *


『す、すげえ!転ばせやがった!』

『あんなに体格差があるのに……』

 クラスメート達が口々に叫ぶ。一方的にやられていたジャック・スプラットがまさかの反撃を見せたのだから当然だろう。だが、形成が逆転したのかと言えばそうでもない。

「いや、でもなあ。転ばせたところで武装が装甲に弾かれるんじゃ意味ねえよなあ」

 一人かずひとが言ったのはまさにその通りで、転ばせたところでそれ自体は大したダメージにならない。決定的なダメージを与えるにはやはり武装を使う必要があるのだが、その武装が装甲に弾かれるのでは話にならない。というかそれ以前に武装がランスではなく針なので、装甲を貫けたところでダメージになるかどうかは分からないのだが。

 などと戦況分析を行っていた優奈だったが、ふとあることに気が付く。

「……?……琥太郎はどこ……?」

「えっ?」

 優奈の言葉に釣られ、一人かずひとも思わずモニターの画面を隅々まで探す。が、どこにもジャック・スプラットの姿が見つからない。転倒したロイヤル・ガーディアンに気を取られている内に姿を見失ったらしい。他のクラスメートもそれに気づいたらしく、次第にざわつき始める。イアンの方は転倒状態から復帰するのに必死で、琥太郎がいなくなったことにまだ気づいていないらしい。

 一体どこに消えたのか。その疑問の答えは、ほんの数秒後に明らかになった。

『あっ、あそこ!!』

 クラスメートのひとりが指さしたのは、端の方にある小さなモニターだった。自然、全員の視線がそのモニターに集中する。

『な、なにやってるんだアイツ!?』

『え、マジかよ……MMマシンメイルであんな真似できるの?』

 クラスメートから驚愕の声が上がる。それもそうだろう。琥太郎が行っていることはそれくらい常軌を逸していた。

「「…………」」

 優奈と一人かずひとも、思わず言葉を失ってその光景を見つめている。そしてただひとり、

「HAHAHAHA!流石は、俺の息子だな!」

 父である大五郎は高らかに笑っていた。


* * *


 可能な限り勢いをつけて、壁を蹴る。その勢いで跳んだ先にはまた壁があり、その壁をまた蹴って跳ぶ。その繰り返しで、俺は上へ上へと跳んでいた。

 所謂「壁ジャンプ」の要領だ。通常規格のMMマシンメイルではまず間違いなく不可能な芸当だが、小柄で重量も軽い部類のこの機体ならばそれができる。

 戦闘場所が市街地エリアであることも幸いした。ここならば、壁ジャンプを行うのに適した建物間の路地を見つけることくらい造作もない。

「よい、しょっと!!」

 そして俺は、遂に建物の屋上へと辿りつく。

『く、くそっ!このっ!』

 イアンの声を聞く限りでは、まだ転倒状態から復帰できていないらしい。人が転倒した状態から体を起こすのとではわけが違うので、今日初めて実機に乗ったのであれば戸惑うのも当然だ。むしろ初めてにしてはよく動かせていた方だろう。

 だが、それとこれとは話が別だ。イアンには悪いがそれも利用させてもらう。

「行く、ぜぇっ!!」

 そのまま、イアンの機体が転がっている方向へと機体をダッシュさせる。

 俺が曲芸じみた壁ジャンプまでして建物の屋上に昇った理由はただひとつ。落下の勢いを利用する為だ。

 武装の針を普通に振りかざすだけなら装甲に弾かれる。では、針を突き立てるにはどうすれば良いのか。答えは明快だ。単純に機体以外の力を上乗せしてやればいい。

 ロイヤル・ガーディアンの装甲がどんなものであろうが、15m以上の高さから落下してくる1tの重さを持った鋭利物に貫かれない道理はない。

 親父の言った「一刺しするだけで敵がお寝んね」という言葉がどういう意味かは知らないが、それも関係ない。機体の顔部分に内蔵されている視界カメラを破壊してしまえばそれで終わりだ。視界を奪われてまともに機体を操縦できるパイロットなど居ないのだから。

「覚悟しやがれイアン!散々笑ってくれた礼――――を―――?」

 そして、まさに建物の屋上から飛び出そうという瞬間だった。

―――しゅぅん

 という音と共に、いきなり目の前の画面表示が消える。周りで光っていたインジケータも軒並み消え、機体の駆動音もしなくなった。

―――え?は?なに?機能停止?なんで急に?

 突然のことで理解が追い付かない俺だったが、その後すぐに画面に表示された文字を見て全てを察した。

 ―――BATTERY EMPTY―――

 このエリアに来るまでの間に散々ぶつけたり転げ回ったりしたこと。戦闘が始まってからも絶え間なく動き回っていたこと。そもそも機体が小さい分バッテリー容量も小さいということ。そして、多分まだ調整不足であるということ。

 色々理由はあるのだろうが、ともかくジャック・スプラットはバッテリー切れで機能停止してしまったらしい。

 ガクン、という衝撃と共に機体が揺れる。この機体はついさっきまで宙に飛び出さんとダッシュしていたところだったのだ。その寸前で止まったのだから、その後起きることは言わずもがなというところである。

 落下の衝撃に備えながら、俺は空虚な気持ちでただひとつのことを思っていた。

―――使えねー……

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