本編

○ ブラックアウト

   カチンッ。

   と、カチンコが鳴る音。


○ 高校・外観・校舎窓際(午前)

   校舎脇の樹木で鳴いているセミ。

   教室内で席についている生徒達。

梅田の声「夏休み後半ではセンターの問題解

 いたりするけど、まずは公式とか、基礎の

 復習からしっかりやってくから」


○ 同・教室・内

   席の六割程が生徒で埋まっている。

   男性教師の梅田うめだ(43)、数学ⅠAの公

   式を板書している。

   ブブー、ブブー、とバイブ音が響く。

梅田「(黒板見たまま)誰だー、スマホの電

 源は切っとけ。初日からたるんでるぞ」

   切沢きりさわたくみ(17)、隣の席をチラ見。

   机に突っ伏す格好の宮崎みやざき友春ともはる(17)、

   机下でスマホをいじっている。

   匠、苦笑して視線を黒板へと戻す。

   ガタンッ、と大きな物音。

梅田「なんだ?」

   友春が椅子とともに床に倒れている。

   ざわめく生徒達。

   友春、よろよろ立ち上がる。

友春「(頭を押さえ)……イッテェ~」

梅田「友春、どうした?」

友春「……え? 梅田……先生? 高校んと

 きの?」

梅田「なに言ってんだ、大丈夫か?」

匠「友春、なにやってんの」

   友春、隣の席の匠を見つける。

友春「匠!? なんで高校の制服着てんだよ」

匠「はぁ?」

   友春、自分の体を見下ろし、自分も制

   服を着ていることを認識。

友春「(混乱)え? 高校? 制服? 待って

 待って、どうなってんの?」

梅田「……匠、ちょっと保健室連れてってや

 れ。もう沖野先生来てると思うから」


○ 同・外

   匠、友春を小脇に抱えて教室から出て

   来くると、そのまま廊下を歩いて行く。

友春「これ夢? なあ、夢だよな匠?」

匠「(呆れ)いいから黙ってなよ友春……」

友春「……マジ……マジなの?」

梅田の声「(教室内から)このごろ暑いから

 体調管理には気をつけろよ。さもないと、

 ああなるぞ」


○ 同・保健室・外

   匠、保健室入口で廊下を見回している。

匠「沖野先生いないぞ……」

友春の声「髭薄ッ! 顎ツルツルッ!」


○ 同・内

   友春、壁掛け鏡で顔を観察している。

友春「髪も黒いし、顔がちょっと若い!」

匠「(来て)寝てろって言ったろ!」

友春「(興奮)夏期講習で梅田先生の数Aや

 ってるってことは、今は2018年で、俺

 ら高二だろう!? なぁ!」

匠「……いいから休んでなって」

   と、友春をベッドへ連れて行こうとす

   る。(ベッドは二つあり、そのうちひ

   とつのカーテンが閉まっている)

友春「待てよ、俺の話聞け!」

   と、匠の手を振りほどき、

友春「いいか。体はその時代の自分のもので、

 意識だけ跳んできたパターンなんだ」

匠「はい?」

友春「俺は、3年後の2021年から来た」

匠「……それって」

沖野の声「タイムリープ」

   と、ベッドのカーテンが開けられ、白

   衣姿の女性保健医――沖野おきの(27)が姿

   を現す。頭を掻き、寝起きの様子。

匠・友春「沖野先生!?」

     ☓   ☓   ☓

   立っている友春、身振り手振りで話し

   ている。沖野は診察椅子に座り、匠が

   その隣に置いた椅子に座っている。

沖野「消臭スプレーでタイムリープって。し

 かもラベンダーの香り(爆笑)」

友春「ほんとなんすよ! 大学のトイレでう

 んこして、なんか個室に置いてあったその

 スプレー使おうとしたら、中身あるはずな

 のに出なくて、おかしいなぁってトリガー

 引きながら顔に向けた瞬間、プシュッ! 

 で、次の瞬間、三年前の今!」

   笑いこける沖野に、匠が耳打ち。

匠「これ救急車呼んだ方よくないですか?」

沖野「まあまあ、今診察してるから」

匠「絶対楽しんでるだけ……」

沖野「ところで友春、そんなことべらべら喋っ

 ちゃって大丈夫なの?」

友春「え?」

沖野「だから、未来が変わってしまうとか、

 世界が消滅してしまうとかあるでしょ。映

 画とかで」

匠「先生もそういうの見てるんですね……」

沖野「いや、ちょっと前流行ったからぁ」

   「未来が変わる、未来を変えられる」

   と呟いていた友春が、ハッとして。

友春「先生、今日は何日?」

沖野「7月23日だけど?」

友春「……7月23日。そうだ、たしかこの日

 だ。(と、匠を見つめる)」

匠「なんだよ?」

友春「匠、萩塚はぎづかゆうを救えるぞ!」

匠「……誰? 救う?」

友春「誰って……萩塚ゆうだよ! お前何言

 って(口を押さえ)そうか、まだ……」

沖野「あ、言っちゃいけないことを言っちゃ

 ったパターン?」

友春「と、とにかく!」

   と、匠に肉薄。

友春「今日ぜったい公園に行くなよ!」

匠「公園?」

友春「だから青葉のもり公園だよ!」

匠「(苦笑)なんでそんなとこ行かなきゃな

 んないんだよ」

友春「……え? だって……」

沖野「あ~、あれだ。(と、手を叩き)元々

 行く予定になかったのに、友春が喋っちゃ

 ったからそこに行くパターン」

友春「……嘘、マジ? 俺のせい?」

匠「けど、それだとタイム・パラドックスに

 なるんじゃないですか?」

沖野「なんだ匠も詳しいんじゃないか」

匠「いや、流行ったから」

   友春、匠に顔を近づけ体を揺さぶる。

友春「あ~、もうなんでもいいから、ぜった

 いぜったい行くな! ぜったいだぞ!」

匠「やめろ! 近い! 近いっての!」

   と、友春を突き飛ばす。

   友春、床にうつ伏せになり、そのまま

   動かない。

匠「友春……?」

友春「イッテェ~……(と、立ち上がり)…

 …あれ? 保健室?」

沖野「大丈夫か?」

友春「(振り返り)匠……沖野先生……。な

 んで俺、保健室にいるの? 数Aの講習中

 だったよな?」

   匠と沖野、顔を見合わせる。

沖野「(友春に)消臭スプレーでタイムリー

 プ」

友春「……なんすか、それ?」


○ 同・ラウンジ(昼)

   生徒達が集まり、弁当をテーブルで食

   べている。匠と友春も昼食中。

   友春、上機嫌でご飯を頬張っている。

匠「……保健室で寝てなくてよかった?」

友春「なんで寝てなくちゃなんないんだよ」

匠「だってさ、倒れて頭打っておまけに」

友春「おまけに?」

匠「……ほんと何も覚えてない?」

友春「だからそうだって。てかさ、気失った

 人間床に寝転がしとくなんて酷くない? 

 お前も沖野先生も。ベッドまで運べって」

匠「…………」

   匠、弁当箱を仕舞うと、バッグを手に

   立ち上がる。

友春「午後の講習、まだ時間あるぞ」

匠「午後は出ない。ちょっと用事」

友春「用事? なんの?」

匠「青葉の杜公園に行く」

友春「そんなとこになんで?」

匠「オレは青葉の杜公園に行く」

友春「……いや、二回言わなくても分るから。

 なんでって聞いてるんだよ」

匠「……萩塚ゆうって、知ってる?」

友春「萩塚ゆう? 誰? うちの女子?」

匠「…………」

友春「あ、デート……デートなのか!? 彼女

 は大学まで作らない、勉強専念ってお前の

 ポリシーはどこ行ったんだ!?」

   匠、バンッとテーブルを叩く。

匠「違うから! オレだって知らないよ!」

友春「……はあ?」

匠「行くな行くな言われたら気になるよね、

 行きたくなるよね、逆に!?」

友春「……どうした? なんか怖いぞ」

匠「じゃ、行くから。いいね?」

友春「なんで俺に許可とるんだよ。……行け

 ばいいだろ、行きたいなら」

   匠、立ち去っていく。

友春「……意味分かんねぇ」

   梅田が廊下を歩いてきて、

梅田「おお、友春。大丈夫なのか?」

友春「あ、先生。なんか授業中騒がせちゃっ

 たみたいで、すいませんした」

梅田「正気に戻ったみたいだな」

友春「はい、すっかり目、覚めたっす」


○ 青葉の杜公園・西側出入口(午後)

   看板に『青葉の杜公園』の文字。


○ 同・内

   ひとけのない公園内。

   東と西の二箇所に入口がある。

   西側出入口そばのベンチに、匠がぽつ

   んと座っている。

     ☓   ☓   ☓

   公園の草むら。

   何者か(匠と友春と同じ高校の制服を

   着用)が、ベンチで座る匠の様子を窺

   っている。

何者か「…………」

     ☓   ☓   ☓

   匠、待ちくたびれたように腕時計を見

   て溜息。

匠「……馬鹿馬鹿しい。帰ろう」

   匠が立ち上がりかけると、東側出入口

   から女子高生(匠たちとは異なる高校

   の制服)が入園、西側に向かって来る。

   匠、女子高生を注視する。

   と、その女子高生を付け狙うように、

   野球帽・マスク・サングラス姿の怪し

   い男が近づいて来ているのに気づく。

匠「ん? …………あっ!?」

   怪しい男、女子高生に背後から迫ると、

   通学鞄をひったくり、ダッシュ。

女子高生「きゃっ!(倒れる)」

匠「ひったくり!?」

   立ち上がる匠。

   怪しい男、後方に顔を向けながら西側

   出入口に向かってくる。

   と、匠が横から飛びかかる。

怪しい男「!?」

   匠と怪しい男、地面に倒れて通学鞄を

   掴み合う。

匠「(中腰で)離せよ、彼女の鞄だろ!」

   怪しい男、掴んでいた手をパッと離す。

匠「うわっ!」

   と、反動で後方に弾け飛び、尻もち。

   怪しい男、猛然と逃げ去っていく。

女子高生「大丈夫ですか!?」

   と、匠の元へ駆けてくる。

匠「ごめん、逃げられちゃったけど」

   と、立ち上がって鞄を渡す。

女子高生「いえ、ありがとうございます。ケ

 ガしませんでした?」

匠「ああ、平気平気。(怪しい男が逃げた西

 側出入り口の方を見て)あんなひったくり、

 ほんとに居るんだね」

女子高生「(匠を見つめ)あの、前にどこか

 で会ったことありません?」

匠「……え? 無いと思うけど」

女子高生「ですよね。ごめんなさい、変なこ

 と――あっ、これから時間空いてます?」

匠「時間?」

女子高生「私、近くの喫茶でバイトしてるん

 です。鞄を救っていただいたお礼に何かご

 馳走させてください!」

匠「救う……」

     ☓   ☓   ☓

   (フラッシュバック)

友春「匠、萩塚ゆうを救えるぞ!」

     ☓   ☓   ☓

女子高生「って言っても、オムライスくらい

 しか作れないんですけど。……どうかしま

 した?」

匠「あの……君の名前は?」

ゆう「あっ。ゆうです。萩塚ゆう」

   と、ニッコリ笑う。

     ☓   ☓   ☓

   公園内の草むら。

   何者かが、公園外(西口)へと向かっ

   ていく匠とゆうを窺っている。

何者か「…………」


○ 喫茶『城寺じょうじルーカス』・外観

   寂れた通りに建っている喫茶店。

   蔦が絡まっているようなレトロ雰囲気。

   看板『喫茶 城寺ルーカス』

店長の声「ほんとお手柄だよ、匠くん」

匠の声「でも犯人逃しちゃったんですけど」


○ 同・内

   カウンター席に座っている匠。その手

   を、カウンター内から男性店長(38)

   が握っている。

店長「(小声)ゆうちゃんが無事ならいいの。

 ほら、ここ立地が悪くてさ、彼女目当てに

 来るお客さんが頼りだから。鞄取り返そう

 と追いかけて、万が一ってことになってた

 らと思うと――よくやりました!」

匠「(ハッと)……そういうことになってた

 のか」

店長「ん? どういうこと?」

匠「あっ、なんでもないです店長さん」

店長「僕のことはマスターって――」

ゆう「お待ちどうさまで~す」

   と、カウンター奥からウエイトレス姿

   のゆうが来て、オムライスを置く。

   オムライスのケチャップはハート形。


○ 同・外

   何者か(匠と友春の高校の制服着用)

   が、外壁に隠れ、ショーウィンドウか

   ら、店内にいる匠、ゆう、店長の様子

   を窺っている。

何者か「…………」

   ゆう、オムライスを匠に食べさせてあ

   げようとしている。匠、恥ずかしそう

   に断わるが、結局食べる。

   何者かの拳が、妬ましげにギュッと握

   られる。


○ 高校・教室・内(日替わり/午後)

   生徒達がプリント問題に取り組んでい

   る。梅田が室内を歩き、監督している。

   並んで着席している匠と友春。

   匠、友春のことをチラチラ見ている。

   友春、プリントを腕で覆い隠す。

友春「(小声)なんだよさっきから、覗いて

 くんなよ」

匠「(小声)昨日、数Aの時だったからさ」

友春「(小声)は?」

匠「(小声)来ないかなって」

友春「(小声)何がだよ」

梅田「――(咳払い)」

   匠と友春、会話を中断してプリントに

   向き直る。

   ブブー、ブブー、とバイブ音が響く。

梅田「またかー、昨日言ったばかりだろう。

 電源は授業前に――」

   ガタンッ、と大きな物音。

   友春、椅子とともに床に倒れている。

   ざわめく生徒達。

   友春、よろよろ立ち上がる。

友春「(頭を押さえ)……イッテェ~。突き

 飛ばすなよなぁ……え? 梅田先生?」

梅田「またか……」

匠「来たのか、友春!?」

   友春、隣の席で目を見開いている匠を

   見つける。

友春「匠……なんで俺ら教室に戻ってるんだ。

 保健室に居たよな?」


○ 同・外

   匠、友春を引っ張って教室から飛び出

   し、廊下を走っていく。

匠「来たーッ!」

友春「おい、どうなってんだよ!?」

   開きっぱなしの戸越しに、唖然として

   いる梅田と生徒達が見えている。

梅田「……誰か閉めてくれ」

   ガラガラと戸が閉まる。


○ 同・屋上

   匠と友春、対面している。

友春「1日!? あれから1日経ってる!? 

 なんで!?」

匠「知らないよ。タイムリープなら中身が未

 来人の友春の方が詳しいだろう?」

友春「俺だってわかんねぇよ! 消臭スプレ

 ー顔に吹きかけただけで――」

   と、言葉を切り、匠をまじまじと見る。

友春「……ちょっとまて匠、俺が三年後から

 来たって信じるのか?」

匠「信じるよ」

友春「保健室じゃ胡散臭そうな顔してたろ」

匠「1日あれば人は変わるんだよ友春くん」

友春「そうだ。1日後……まさか!?」

匠「わかってる。行くな行くなは、行け行け

 ってことだったって」

友春「……行ったのか、青葉の杜公園に」

匠「心配ご無用、ちゃんと救ったから」

友春「救った?」

匠「(ニヤッと)彼女、女子校の生徒で、歳

 はオレらと同い年、でしょ?」

友春「(額を押さえ)やっちまったよ……」

匠「友春……?」

   友春、匠に肉薄、胸倉を掴み上げる。

友春「あれほど行くなって言っただろ!?」

匠「な、なんだよ!」

友春「お前は、ひったくりから萩塚ゆうの鞄

 を取り返した。彼女はお礼に、バイト先の

 喫茶店でオムライスをご馳走した」

匠「……なんでそのこと――」

友春「(溜息)……俺が知ってる過去と同じ

 ことしただけって話だよ!」

匠「!? じゃ、救うって……」

友春「出会っちゃいけなかったんだよ! 救

 ったどころか逆にキッカケを作っちまった

 んだぞ!」

匠「(茫然)……キッカケ?」

友春「萩塚ゆうは、今夜、自殺する」

匠「はぁあああああ!?」


○ 電車・内

   ゆう、女子校の制服姿で席に座ってい

   る。膝上にある鞄を眺めて。

ゆう「――(微笑む)」

   前シーンから続き、友春と匠の会話声。

匠N「じ、自殺!?」 

友春N「匠、もし萩塚ゆうが今日告白してき

 たらどうする?」

匠N「はぁ!? それより自殺って――」

友春N「この質問と関係あるんだよ!」

匠N「……えぇ?」

   電車が駅に着き、ゆう、立ち上がる。


○ 街中・ブティック前

   歩いて来たゆう、ショーウィンドウの

   前で、自分の外見をチェックする。

ゆう「――(ニコニコ)」

友春N「彼女はお前との出会いを運命だと思

 った」

匠N「運命?」

友春N「夜ごと彼女の夢の中に出てくる――

 まあ、白馬の王子様的存在と、お前の顔が

 同じだったんだよ」


○ 高校・校門

   ゆう、匠たちの通う高校の校門に入っ

   て来て、女子生徒A、Bとすれ違う。

ゆう「こんにちは~」

   女子生徒A、B、挨拶を返すと、

女子生徒A「今の子、女子校の制服だよね?

 なんで?」

女子生徒B「部活の合同練習とか?」

女子生徒A「ああ~」

   ゆう、玄関へと向かっていく。

匠N「そんな滅茶苦茶な話あり得る訳――」

友春N「無いだろうな。でもそういう夢見が

 ちな子だった。悪党から救ってくれた好青

 年のイケメンという漫画的ドラマ的シチュ

 エーションで、スイッチが入ったんだ」


○ 同・玄関

   下駄箱前に立っている、ゆう。

   『diary』と表紙に印字されたハードカ

   バーノートを鞄から取り出し、挟んで

   あった手紙を手に取る。

ゆう「――(笑顔)」

匠N「……じゃ、告白って」

友春N「萩塚ゆうは、今日、お前を手紙で青

 葉の杜公園に呼び出し、付き合って欲しい

 と宣言する」

   ゆう、手紙を下駄箱に入れる。

     ☓   ☓   ☓

   匠の手が下駄箱から手紙を取り出す。

   見開かれる手紙。

   『お話したいことがあります。

    夕方、青葉の杜公園で待ってます。  

    萩塚ゆう』

   手紙を見て立ちすくんでいる匠。

匠「……(愕然)」

   傍に立っている友春。

友春「ほらな」

匠「なんでオレの靴入れわかったんだ……」

友春「うちの学校にいた女友達に連絡とった

 んだってさ」

匠「友春、なんでそんなことまで……」


○ 街中・踏み切り前

   通りかかったゆう、遮断器がおりてき

   て、踏切待ちをする。

ゆう「――(相変わらずの笑み)」

友春N「日記だよ。日記を書いてて、それを

 鞄の中に入れて持ち歩いていたんだ。電車

 に轢かれたときにもその――」

匠N「電車に轢かれる!?」


○ 高校・玄関

   友春、匠の肩に手を置き。

友春「改めて質問です。『私とお付き合いし

 てください!』と、萩塚ゆうに告白された

 匠くんは、どう返事をしたでしょうか?」

匠「そんなの無理に決まってるだろ!」

友春「はい、正解」

匠「……え?」

友春「お前はいつも通り、これまで言い寄っ

 てきた他の女子たち同様、『そういうの大

 学に入ってからって決めてるから』、とか

 答え、そしてその結果」


○ 街中・踏み切り前

友春N「バンッ!」

   電車が勢い良く通過していく。

匠N「オレが告白断ったから、飛び込んだっ

 てこと?」

友春N「残された最後の文章は『目の前が真

 っ暗になった。もう生きていけない』」

   遮断器が上がり、ゆうが歩きだす。

ゆう「――(眩しそうに太陽を見て、晴れやか

 な笑み)」


○ 高校・玄関

   匠、屈んで頭を抱えている。

友春「その後、鞄から飛び出てた日記を誰か

 が広い、ネットに公開、拡散、全国ニュー

 ス。お前はひどいバッシングを受ける」

匠「えぇぇ!?」

友春「『あんな可愛い子の告白を断って自殺

 に追い込むなんて』」

匠「そんな、不条理だ!」

友春「やがて精神を病み、受験にも失敗。三

 年後の現在、お前は引きニート」

匠「嘘だ嘘だ……」

   匠、手紙を手に友春につめよる。

匠「昨日の今日だよ、名前くらいし知らない

 よ、友達って段階でもないよ! そ、それ

 で付き合えるわけ――」

沖野の声「あらあら? 付き合うとか、ふた

 りはそういう関係?」

   沖野、廊下に立ってニヤついている。

友春「せ、先生! いや、違うんだって!」

   と、沖野の元へ駆け寄ろうとして、床

   のスノコに足を引っ掛け、転倒。

   動かない友春。

沖野「お~い、大丈夫か?」

   友春、よろよろ立ち上がる。

友春「……イッテェ~……あれ? 玄関?」

匠「……友春、まさか」

友春「(匠に)数Aの講習してたよな?」

匠「(嘆く)ああ~、もうっ!」


○ 同・保健室・内

   匠と沖野、対面して椅子に座っている。

   少し離れて友春が座っている。

   前シーンの手紙を手に見ていた沖野、

沖野「マジモンのタイムリーパーだったとは

 ねぇ~」

   と、友春の方に首を向ける。

   友春、意味がわからず怪訝な顔をする

   と、自分の後方に首を向ける。

匠「(沖野に)……このまま無視して行かな

 いって選択はどうですかね?」

沖野「それだと、結果断ったって解釈されか

 ねないじゃない?」

匠「……(頭を抱え、溜息)」

友春「あのさ、取り込み中のとこ悪いんだけ

 ど、状況がまったく解らな~い」

匠「(睨み)……友春、お前のせいだ」

   と、立ち上がり友春に急接近。

匠「青葉の杜公園とか萩塚ゆうとか、うっか

 り口滑らすからこうなったんだぞ!」

友春「はぁ? それ昨日昼飯んとき、お前が

 俺に言ってたことだろ?」

匠「……今のお前じゃ話にならない。出て来

 い三年後! 出て来て責任取れ!」

   と、友春の頭をポカポカ叩く。

友春「痛、痛! 痛いっつの!」

   と、押しのけ、床に尻餅をつく匠。

友春「可哀想に、勉強のしすぎだなこりゃ。

 ちょっとオネンネしときな」

   と、立ち上がり、出入口へ向かう。

匠「ま、待てよ!」

友春「じゃ、沖野先生、あとよろしく~」

   と、廊下に出て、行ってしまう。

   沖野、膝立ちで茫然としている匠のも

   とへ来て、目の前にしゃがむ。

沖野「まあ、成るように成ってしまったなら

 しょうがないよねぇ」

匠「……(不安な面持ちで沖野を見る)」

沖野「告白を断れば、萩塚ゆうは自殺してし

 まう。匠は大学受験に失敗し、ニートコー

 ス確定。――ってことは、つまり、そうい

 うことでしょ?」

   と、匠の胸に手紙を押し付ける。

   匠、手紙を受け取って、見つめる。


○ 青葉の杜公園・内(夕方)

   匠、草むら脇のベンチに座り、神妙な

   面持ちで、手にした手紙を眺めている。

匠「…………」

ゆうの声「匠くん」

   ゆう、ベンチ傍に緊張して立っている。

ゆう「すみません。待ってますって書いてお

 きながら、遅れてしまって」

   匠、手紙をポケットに入れて立つ。

匠「……オレも今来たとこだから」

   ゆう、そわそわと落ち着きがない。

     ☓   ☓   ☓

   ベンチ脇の草むらの中。

   何者か(匠と友春の高校の制服着用)

   が、匠とゆうの様子を盗み見ている。

何者か「………」

     ☓   ☓   ☓

匠「……それで、話って?」

ゆう「た、単刀直入にお伝えします!」

匠「……(来たか、という顔)」

ゆう「私とお付き合いしてください!」

   遠くから電車の警笛の音。

     ☓   ☓   ☓

   (フラッシュバック)

友春「萩塚ゆうは、今夜、自殺する」

     ☓   ☓   ☓

   覚悟を決める匠。

匠「わ、わかっ――」

ゆう「結婚を前提に!」

匠「け……結婚!?」

     ☓   ☓   ☓

   草むらの中。何者かの視点。

何者かの声「はっ、結婚!?」

   ぺらぺらと紙をめくる音。

     ☓   ☓   ☓

   ゆう、匠に詰め寄って、手を取る。

ゆう「匠くんは私の運命の人なんです。だか

 ら結婚が前提じゃないとダメなんです!」

匠「いやいやいや、結婚はさすがに!」

ゆう「(ショック)……お付き合いできない

 ということですか?」

匠「違う違う! まずは普通に彼女からで…

 …って、それでも一つ段階飛ばしてるんだ

 けど……」

ゆう「ダメです!」

     ☓   ☓   ☓

   草むらの中。何者かの視点。

何者かの声「結婚前提なんて、そんなのどこ

 にも書いてないぞ……」

     ☓   ☓   ☓

ゆう「あくまで結婚を前提にお願いします」

匠「……え、えぇっ!?(錯乱)」

     ☓   ☓   ☓

   (フラッシュバック)

沖野「匠は大学受験に失敗し、ニートコース

 確定」

     ☓   ☓   ☓

   匠、泣きそうな顔で意を決する。

匠「……わ、わかりました! お付き合い…

 …します」

ゆう「結婚を前提に?」

匠「結婚を前提に、お付き合いします!」

ゆう「ありがとうございます!」

   歓喜のゆう、茫然自失の匠。

ゆう「それでは」

   と、匠に向かって唇を差し出す。

匠「……え?」

ゆう「誓いのキスを」

匠「キス!?」

     ☓   ☓   ☓

   草むらの中。何者かの視点。

何者かの声「キ、キス!?」

     ☓   ☓   ☓

   狼狽している匠。

匠「……そ、それはのちのちということで」

ゆう「ダメです! 誓いのキスをもって、私

 たちの結婚を前提としたお付き合いがはじ

 まるんです!」

   と、キスを受ける体勢。

匠「……(ギュッと目をつむり、観念)」

   ゆうの肩を抱き、唇を近づける。

何者かの声「ちょっと待ったぁぁぁっ!」

   と、草むらの中から飛び出してきたの

   は、友春である。

   手に丸めて持った台本のような赤い外

   装の冊子で、二人の方を指す。

友春「どーなってんだよ! 結婚前提とかキ

 スとか、そんなん聞いてないぞ!」

匠「友春!?」

ゆう「(匠に)……誰です? お知り合いの方

 ですか?」

友春「しらばっくれんな、ゆう!」

匠「(ゆうを見て)……え、知り合い?」

   ゆう、匠の手を引いて、

ゆう「……匠くん、他所へいきましょう」

友春「いい加減にしろっ!」

   と、匠とゆうの手を冊子で振り切る。

ゆう「痛っ! ちょっとなにすんのよ友春!

 ……!?(慌てて自分の口を塞ぐ)」

匠「……(嫌疑の目でゆうを見る)」

ゆう「ああもうっ!」

   と、友春に食って掛かる。

ゆう「あと少しだったのに! なんでここに

 居るのよ、もうお役御免でしょ!?」

友春「なんでもいいだろ! あんなの見てら

 れるか、調子ノリ過ぎなんだよ! カット

 だカット、茶番はもうお終い!」

匠「二人共、どういうことだよ、これ……」

   友春、丸まった赤い冊子を匠に手渡す。

   匠、冊子を広げると、表紙に題字。

   『ミッション:サマータイムリープ・

   ラブ』

匠「……『ミッション:サマータイムリープ

 ・ラブ』?」


○ 巻き戻しモンタージュ

   前シーンラストから、それまでのスト

   ーリーを遡るように、映像が逆戻しに

   なっていく。

   下駄箱前で話す匠と友春……。

   公園で初対面をする匠とゆう……。

   保健室で話す匠、友春、沖野……。

   教室で倒れる友春……。

   などなど……。

   そして、――


○ ブラックアウト

   テロップ『夏休み一週間前……』


○ 友春宅・二階・友春の部屋(朝)

   ベッドで寝ている友春。

   室内に『マリオカートWii』のレー

   ス中のBGMが響いている。

マリオの声「マンマミ~ア……」

ゆうの声「ああんバカっ! そこでカミナリ

 は卑怯!」

友春「(目覚め)……んだよ、うるさいな」

   部屋着姿のゆう、床に座ってWiiで

   遊んでいる。

友春「勝手に部屋入るなよ……ゆう」

ゆう「いいでしょ、家隣りなんだし」

友春「よくねーよ。どういう理屈だよ……」

   友春、ベッドから起きると座卓にあっ

   たリモコンで、テレビの電源を切る。

ゆう「ひどっ! これ勝てばスペシャルカッ

 プ優勝だったのに! 150ccだよ! 小学

 校からの夢が!」

友春「ちっちぇ夢だな……」

   友春、クローゼット前に行き、寝間着

   を脱いで部屋着に着替え始める。

   ゆう、下着姿の友春を気にする様子も

   なく、ゲームを辞め、ベッドに座る。

ゆう「ところで友春、彼女できた?」

友春「(呆れ)なんで休みなるたびウチ来て

 それ訊くんだよ……」

ゆう「ウチらももう高二で。目前には夏休み。

 浮いた話の一つでも作っておきたいお年頃

 じゃありませんか?」

友春「……その前にやることがあるだろう」

ゆう「なに?」

友春「テスト勉強に決まって……(ハッとし

 て)今何時?」

ゆう「9時半過ぎだけど?」


○ 同・外観

   友春、玄関からゆうを外に押しやる。

友春「早く帰れよ!」

ゆう「誰? 誰と勉強するの!?」

友春「友達だよ」

ゆう「さては!」

友春「違う、男! さっさとハウス!」

   と、玄関ドアをバタンと閉じる。

ゆう「……(ニヤッ)」

   と、家の側面に回り込んでいく。

   ……間。

   カラカラっと、一階の窓が開く音。


○ 同・二階・友春の部屋・外

   ゆう、友春の隣の部屋の窓から出て来

   ると、張り出した屋根におりて、壁伝

   いに友春の部屋の窓へと近づく。

   窓越しに見える友春の部屋。

   友春、座卓に勉強道具を広げている。


○ 同・室内

   匠、部屋に入ってくる。

匠「ご~めん、遅くなった」

友春「いいよいいよ、俺も今起きたとこだっ

 たからさ」

   匠、座卓前に座り、顔をあげる。

   と、窓の外で頭を覗かせているゆうが

   目に飛び込む。

匠「わっ!」

ゆう「――(サッと頭を引っ込める)」

友春「え?」

   友春、匠の視線を追って窓を振り返る

   も、ゆうの頭窓の外から消えている。

友春「どうした、匠?」

匠「……友春ンちって、出たりするっけ」

友春「なにが?」

匠「……幽霊とか」

友春「(笑って)なに言ってんだよ。出るわ

 けないだろう。――あっ、でも、『れい』

 は出ないけど『ゆう』は出るかな」

匠「は?」

友春「なんでもないなんでもない。じゃ、数

 学から教えて教えて」


○ 同・外

   ゆう、壁に背を預けている。

ゆう「へぇ~、匠くんか。イケメンじゃん」

   と、また窓を覗き込む。

   室内で勉強をしている友春と匠。

   ゆう、友春の背中を視線に捉え。

ゆう「……(ニヤリ)」


○ 夜空


○ 友春宅・友春の部屋(夜)

   友春、風呂上がりの髪をタオルで拭き

   ながら入ってくる。

友春「(驚き)うわっ!?」

   寝間着姿のゆう、ベッドに寝そべり、

   漫画本をめくっている。

友春「お前、だから勝手に!」

ゆう「かっこよかったねぇ~、匠くん」

友春「……なんで……会ったのか?」

ゆう「いいえ、こっそり覗いてただけです、

 屋根の上で」

友春「くノ一かよ……」

ゆう「ど~して今まで黙ってたかなぁ、あん

 なイケメンがお側にいることを」

   と、起き上がって学習机に向かう。

友春「……(渋面)」

   ゆう、学習机の棚に漫画本を戻すと、

   友春に背を向ける形で座る。

友春「別に黙ってた訳じゃ……」

ゆう「(友春を見ずに)あ~あ、今朝あのま

 まだったら紹介されてたはずなのにな~。

 なんで追い出されちゃったのかな~」

友春「そ、それは……勉強の邪魔だったから

 に決まってんだろ!」

   ゆう、一瞬ムッとしたあと、「決め~

   た」と、体を友春の方へ向ける。

ゆう「(笑顔)私、匠くんに告白する」

友春「ハァッ!?」

ゆう「ついに今年の夏は彼氏持ちぃ~」

友春「ハァッ!? ダ、ダメだ!」

   と、ゆうの側へ踏み出す。

ゆう「ダメ? なんで?」

友春「それはその……無駄だってこと。匠は

 あの通り顔がいいから、しょっちゅう告白

 とかされてんだけど、大学入るまで彼女と

 か作らないって、全部断ってんの。だから、

 お前もどうせ――」

ゆう「そういうことなら」

   と、立ち上がって歩き出し、友春を通

   り過ぎて出入口へ向かう。

友春「お、おい……どこいくんだよ」

ゆう「帰ってシナリオを練るの。いい? 決

 定だから、絶対実行するからね!」

   ゆう、部屋を出て行く。

   浮かない表情の友春。


○ 喫茶『城寺ルーカス』・外観(日替わり

  /午後)

ゆうの声「徹夜で完成させた力作です。どう?」

友春の声「いや、どうもこうも……」


○ 同・内

   友春とゆう、カウンター座で並んで座

   っている。友春は学生服、ゆうはウエ

   イトレスの格好。

   友春、赤い外装の冊子を広げ見ている。

ゆう「これなら絶対告白を断られない」

友春「無茶苦茶だろ、これ」

   と、冊子を閉じてカウンターに置く。

   『ミッション:サマータイムリープ・

   ラブ』と、表紙に印字されている。

友春「……なんでタイムリープの設定にしち

 ゃった?」

ゆう「ほら、流行ってるし、すごくドラマチ

 ック!」

   カウンター内に居る店長。

店長「ゆうちゃん、好きだからね~、そうい

 うの。うちの本棚もいつの間にかゆうちゃ

 んが持ち込んだ漫画でいっぱいだし」

   店内の本棚に、少女漫画と少年漫画が

   半々くらいで並んでいる。

友春「あの半分、俺のっすから! 勝手に持

 ってかれたやつっすから!」

店長「(友春に)寄贈、どうもありがとね」

友春「(溜息)……っていうか、いいんです

 か店長!」

   と、冊子を店長に向ける。

店長「店長じゃなくてマスター」

友春「店長も出てるじゃないすか、それもひ

 ったくりの役まで!」

店長「だってさ、やらないとバイトやめるっ

 て言うんだもん」

友春「(ゆうに)お前……」

ゆう「――(取り澄ましている)」

店長「ゆうちゃんに辞められるわけにはいか

 ないし。まあ、面白そうだし」

友春「……実はノリ気?」

店長「あと僕はマスターだからね。キャスト

 のとこ、マスターって書き直して」

友春「そうだよキャストだよ!」

   と、冊子のキャスト欄のページを開き。

友春「(ゆうに)この『助っ人の先生』ってど

 うすんだよ!」

ゆう「それは友春に任せるから。夏休み中、

 暇そう、かつ、喜んで引き受けてくれそう

 な、ポンコツっぽい先生をあたって」

友春「そんな先生いるわけ……あっ」


○ 高校・保健室・内

   部活動中の声が屋外から聞こえている。

   沖野、机で『こち亀』を読んでいる。

沖野「(独り言)部活動終わりまで居なきゃ

 いけないって拷問でしょう。夏休み中に2

 00巻いっちゃうよ」

   校内放送のチャイム。

梅田の声「沖野先生、沖野先生、お電話が入

 っております。至急、職員室にお戻りくだ

 さい」

沖野「んん?」


○ 喫茶『城寺ルーカス』・内

   ゆう、友春のスマホで電話中。

ゆう「はい。はい。わかりました」

   と、通話を切り、無表情でスマホを友

   春に渡す。

友春「ほら、さすがに沖野先生でも――」

ゆう「(ニッコリ)オッケーだって」

友春「…………」

店長「いたね~ポンコツ先生」

ゆう「それで、やってくれるわよね、タイム

 リーパー」

友春「こんな現実離れした筋書きじゃバレる

 って。匠は俺と同じで私立受けるって言っ

 てるけど、国公立狙える頭あんの」

ゆう「(きっぱり)いいえ、バレない。確実

 に成功する」

店長「すごい自信」

友春「その根拠はなんなんだよ」

ゆう「

   友春と店長、顔を見合わせた後、

友春「――(ゆうに何かを言いかけるが)」

ゆう「言っておくけど、友春がやらなくても、

 代役を見つけて必ず実行するから」

友春「……やるよ」

     ☓   ☓   ☓

   友春、ゆう、店長、ジュース入りのジョ

   ッキを手に輪になって立っている。

店長「では、7月24日の成功を願いまして」

ゆう「カンパ~イ!」

友春「……カンパーイ」


○ 高校・教室・内(7月23日/朝)

   梅田、数学ⅠAの公式を板書している。

梅田「夏休み後半ではセンターの問題解いたり

 するけど、まずは公式とか、基礎の復習から

 しっかりやってくから」

   ブブー、ブブー、とバイブ音が響く。

梅田「(黒板見たまま)誰だー、スマホの電源

 は切っとけ。初日からたるんでるぞ」

   匠、隣の席をチラ見。

   机に突っ伏す格好の友春、机下でスマホ

   をいじっている。

   スマホ画面。

   萩塚ゆうからのLINEメッセージ。

   『ミッション・スタート!』

友春「……(それを確認)」

   匠、苦笑して視線を黒板へと戻す。

   ガタンッ、と大きな物音。

梅田「なんだ?」

   友春、椅子とともに床に倒れている。


○ ブラックアウト


○ 青葉の杜公園・内(7月24日/夕暮れ)

   友春と匠、対峙して立っている。ゆう、

   友春の後方で二人に背を向けている。

   匠、見開いていた赤い冊子をぐっしゃ

   っと潰して閉じる。

匠「……全部、芝居だったってこと?」

友春「……悪い」

匠「ねえ、萩塚さん」

ゆう「……(背を向けたまま沈黙)」

   匠、ゆうに詰め寄っていく。

匠「なあ、なんとか言えよ! ひとの気も知

 らないで! ふざけるなよ!」

   掴みかかろうとする匠を押さえる友春。

友春「(必死)止めなかった俺が悪いんだ、

 悪いのは俺なんだよ! ほんとごめん!」

   と、頭を下げる。

匠「……友春」

   ゆう、背を向けたまま震える声で、

ゆう「……ごめんなさい」

   匠、冊子を地面に叩きつけると、公園

   出口に向かって歩いて行く。


○ 同・ブランコ(夜)

   友春とゆう、並んで座っている。

   友春、くしゃくしゃになった赤い冊子

   を手に持っている。

友春「(空を見上げ)……明日から口利いて

 くれないよな……てか絶交か……」

   と、冊子を折りたたんでズボンのポケ

   ットに仕舞う。

   ゆう、うつむき、すすり泣いている。

友春「……帰ろうぜ、そろそろ」

ゆう「……なんで邪魔なんかしたのよ」

友春「あんな暴挙、見てられないだろ」

ゆう「そもそも友春はここに来ないはずだっ

 た。どうしているの?」

友春「……それは」

   と、立ち上がり、数歩前に出る。

友春「(背を向けたまま)……最初は、すぐ

 匠にバレて計画が潰れると思ってたんだ」

ゆう「?」

友春「それが、匠のやつ、馬鹿みたいに騙さ

 れちゃって。気づけばもう止める機会があ

 そこしかなくて」

ゆう「……え?」

友春「(振り返り)ゆうのこと、ずっと好き

 だったんだ。だから、その、俺と付き合っ

 て……ください」

   ゆう、無言で立ち上がって友春と対峙。

友春「あのう……」

ゆう「キスして」

友春「キ、キス!?」

ゆう「(笑顔)そしたら付き合う」

友春「!?」

   ゆう、瞳を閉じる。

   友春、肩に手を置き、唇を近づける。

   パシャッ!

   と、唇が触れそうになった瞬間、浴び

   せかけられるフラッシュ!

匠の声「はい、カーーーット!」

   匠、ブランコ前で、デジタル眼レフカ

   メラを構えて立っている。

友春「匠!?」

ゆう「匠くん!?」

友春「お、お、お前、帰ったんじゃ!」

匠「(笑顔)どーも、三年後の匠です」

友春「えぇっ!?」

匠「なーんて、うそ。帰ったふりして隠れて

 ました。友春が告白したら、その後こうい

 う展開になるんだろうなって」

ゆう「た、匠くんの役はあそこで終わりって

 言ったよね!? ……!?(ハッとして口を押

 さえ、友春を見る)」

友春「……ゆう!?」

匠「ちなみに、オレだけじゃないみたいだよ。

 ――(園内へ)ですよねぇ!」

友春・ゆう「え?」

   園内のそれぞれ離れたところにある遊

   具の影から、沖野と店長が現れる。

沖野「あれれ~? バレてた? やっぱり気

 になるじゃない」

店長「僕は決して覗いてた訳じゃないんです。

 決して覗いてた訳じゃ」

友春「(混乱)……沖野先生に、店長?」

   ゆう、顔を押さえてしゃがんでる。

ゆう「あとちょっとだったのにぃっ!」

   カメラの液晶画面を確認している匠。

   (※液晶画面の映像は出さない)

匠「……あれ。キスする瞬間を狙ってたんだ

 けどな」

店長「(来て)あ、ほんと。一歩手前」

沖野「(来て)あ~あ、下手だな匠ぃ~」

   友春、四人を指差し。

友春「な、なんなんだよ、どーなってんだよ、

 これ!」

匠「このミッションのターゲットはオレじゃ

 なかった」

   と、腰裏から青い冊子を取り出して友

   春に差し出す。

匠「友春なんだ」

   青い冊子の表紙に『ミッション:サマ

   ータイムリープ・ラブ オルタナティ

   ブVer.』と題字が印字されている。

友春「……え?」


○【回想】友春宅・外観(夏休み一週間前

 /夕方)

匠N「友春の家でテスト勉強した日。実はゆ

 うちゃんに会ってたんだ」

   玄関から匠が出て来る。玄関内で友春

   が見送り。

匠「じゃあ、また明日学校で」

友春「おう。気をつけてな~」


○【回想】同・前

   匠、友春宅から道路に出て来ると、

匠「(驚き)ゆ、幽霊!」

   ゆう、隣の家(ゆうの自宅)の前に、

   立っている。

ゆう「『れい』は余計。私は、ゆう」

匠「……え?」

ゆう「匠くんにぜひ協力して欲しいミッショ

 ンがあるんだけど」

匠「……え?」


○【回想】喫茶『城寺ルーカス』・内

 (日替わり/午後)

匠N「そして、友春たちが喫茶店でミッショ

 ン決行を決めた、その後日」

   ゆう、ウエイトレス姿でカウンター席

   に座っている。店長はカウンター内に

   いる。

   と、ドアベルが鳴り、沖野が入店。

沖野「どうも~、SF研究所はここですか~?」

ゆう「……沖野先生?」

沖野「ってことは、君がゆうちゃん。で、」

店長「マスターです」

沖野「店長さんね」

店長「なんでかなぁ……」

   沖野、二人のもとまで歩いて来る。

沖野「まだ友春は来てないの?」

   と、ドアベルが鳴る。

沖野「おい友春、主役が遅刻とはどういうこ

 とだい(振り返る)」

   入店してきたのは友春ではなく、匠。

匠「(笑い)どうも、友春です」

沖野「匠? ……が、ここに居ちゃマズいん

 じゃないの?」

   と、ゆうと店長を見る。

   ゆうと店長、見合って笑み。

     ☓   ☓   ☓

   ゆうと匠、沖野と店長、四人がけテー

   ブルに着いている。

   赤い冊子の『ミッション:サマータイ

   ムリープ・ラブ』と、青い冊子の『オ

   ルタナティブVer.』の二冊の冊子

   が机の上に置かれている。

沖野「ってことは、つまり、(赤冊子を指し)

 匠を騙すと見せかけておき~の、(青冊子

 を指し)友春をハメる計画」

ゆう「はい。だから匠くんをはじめ全員がグ

 ルなのでぜったい失敗しません」

沖野「でもさ、こんなアホな……もとい、ま

 どろっこしいことしなくても、ゆうちゃん

 から告白しちゃえばいいじゃない」

ゆう「私は告白したいんじゃないんです、さ

 れたいんです! 絶対的に!」

店長「てっきり、友春くんとはもう付き合っ

 てるとばっかり思ってたけどね」

ゆう「それがまだなので、こんなアホなこと

 をします! 女子校に入って距離を置いて

 みたら逆に迫って来るかなかと実行してみ

 たものの、効果ありませんでしたし」

匠「実は友春がゆうちゃんを好きだってのは、

 ゆうちゃんの勘違い――」

ゆう「じゃないの! 友春は私が好きで、私

 は友春が好き!」

匠「…………」

店長「言い切るね~」

ゆう「長い付き合いなので」

沖野「付き合ってもいないのにねぇ。(笑い)

 なんか一週回ってウケるな。よし、じゃあ

 詳しい話に――」

店長「その前に、匠くんだっけ? 君はなぜ

 参加の承諾を? 僕はゆうちゃんがバイト

 辞めないためだし、沖野先生は暇つぶし」

沖野「帰ろっかな(立ちかけ)」

店長「ああ待って待って、善意、善意で。―

 ―で、匠くんは?」

匠「それは――」

ゆう「もちろん、親友のため」


○ 青葉の杜公園・内(7月24日/夜)

匠「と、いうわけです。ごめんね、友春」

   匠、沖野、店長、笑んで立っている。

   友春、青い冊子を手にし、三人と対峙

   して立っている。その脇で赤面顔を押

   さえてしゃがんでいる、ゆう。

ゆう「なんでしゃべっちゃうのぉ~」

友春「え、え、ええっ!? じゃ、俺があの場

 面で止めに入ることって」

沖野「まあ、ゆうちゃんの計画通りだったっ

 てことね」

ゆう「(顔覆ったまま)って言っ

 たでしょ」

友春「……(顔真っ赤)」

匠「あ、このキス未遂写真送ります? 友春

 の告白記念にひとつ」

   と、カメラを店長に渡す。

店長「ああ~、いいねぇ。店の壁掛けにちょ

 うどいい」

友春・ゆう「ダ、ダメ、絶対!」

   と、店長に接近。

匠「店長、逃げて逃げて!」

店長「だからマスター!」

   店長が駆け出し、友春とゆうが追って

   いく。


○ 同・ブランコ

   匠と沖野、並んで座っている。

   園内では、友春とゆうが店長を追いか

   け回している。

沖野「青春だね~」

匠「ですね」

沖野「匠も大学入ってからとか意固地なって

 ないで、彼女作ってみたら? その面なら

 いくらでも寄って来るでしょうに?」

匠「(苦笑し)さっきちょっと意地悪しちゃ

 いました」

沖野「え?(匠を見る)」

匠「シャッター、わざと早く切ったんです」

   沖野、駆けまわている、ゆうを見る。

沖野「……この短期間で(ゆうを)好きにな

 っちゃったとか?」

匠「もっと前々からですよ」

沖野「あれ? だって初めて会ったのは一週

 間前なんだろう?」

   匠、薄く笑い、視線を友春へと向ける。

   沖野、その視線を追い、

沖野「えぇっ!? そっち(友春を)!? ――

 (ハッとして)じゃあ、なんであんな役回

 り引き受けたりしたのさ」

匠「いやぁ……好きな人には幸せになって欲

 しいじゃないですか」

沖野「(感動)なんて健気な子……」

   と、立ち上がって、匠の肩をガシッと

   掴む。

沖野「よし、私に任せなさい」

匠「……はい?」

沖野「終わったらまた次を始めりゃいいの」

   沖野、園内で追いかけっこを続けてい

   る三人の方へ歩いて行く。

沖野「店長~、今彼氏募集中だったりする~?

 若いピチピチの男子~」

   匠、慌てて沖野を追いかける。

匠「せ、先生! 店長は無しです、無いです

 年齢的に!」

   空舞台になるブランコ前。

店長の声「マスターって呼んでぇ~っ!」


○ 喫茶『城寺ルーカス』・内(日替わり

  /日中)

   額付きの写真が壁に飾られている。

   それは匠が夜の公園で撮影した写真。

   友春とゆうがキスしようとしている場

   面である。

   写真の下に、プレート。

   題『ミッション:サマータイムリープ

   ・ラブ』


○ ブラックアウト

   カチンッ。

   と、カチンコが鳴る音。

全員の声「はい、カット!」


                [END]

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ミッション:サマータイムリープ・ラブ のうみ @noumi

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