第39話 鋼太朗side
「…悪ぃ。教えてもらったアドレス、瑠奈に教えちまった」
自宅へ帰宅した鋼太朗は泪へ電話を掛けていた。玄関の扉を閉めると同時に、鞄から携帯端末を取り出すとすぐにアドレス帳を開き、泪の名前を選択し二つある下の番号へ、発信画面の表示が出たの確認されると、発信ボタンを押して泪へ電話を掛ける。
『―もしもし。赤石です』
少し待つと意外にもすぐに泪は出てくれた。先に昨日泪に言いそびれた件を伝える。瑠奈へ泪のプライベートアドレスを教えた事を白状すると、携帯から溜め息交じりの泪の声が聞こえる。
『まぁ、大方予想はしてました。瑠奈からの通話着信が、いつも使ってる携帯からじゃなくて、私用で使ってる携帯から、いきなり瑠奈の番号が掛かって来たので少し驚きましたが。こっちの携帯で掛けてくるの、大体ユウ君か砂織先輩くらいですし』
話の内容からして、瑠奈は鋼太朗に教えて貰った連絡先を、いきなり使って泪に電話を掛けたようだ。瑠奈も昔から泪とお互いに面識があり、泪が瑠奈を覚えていたから良かったが。自分の場合だと泪側が鋼太朗を覚えていないだけあって、前もって断りを入れる間も何もなく、泪に電話を掛けたら怒られるだろう。
今話している泪の携帯の番号は、鋼太朗が瑠奈に教えた方だ。瑠奈に教えてしまった件もそうだが、こちらの番号にかけたのは、もう一つのある事情を泪に話をして置かなければいけないのもある。
『それで四堂君。以前、暁研究所に居たと言うのは』
「ああ、俺は昔暁特殊異能学研究所に居た。他に存在している異能力研究所と決定的に違うのは、俺やその暁研究所出身者は、そこまで酷い扱いを受けてないって事」
ただしそれは、『四堂両兵所長管轄下』の暁特殊異能学研究所だけに限る。
両兵自身が異能力者であったが故に、皮肉にも鋼太朗達を初めとした、異能力者達は『被験体』として扱われても、異能力実験の『研究材料』としての難を逃れていたのだ。自分達がその実験を逃れていた裏で、『研究材料』への実験が行われていたのだから。
そして『宇都宮一族管轄下』にある、『もう一つの暁異能力研究所』では、自分達以外の異能力者がどのような扱いを受けているのか、周りから噂程度に聞かされてはいた。鋼太朗も今までは、もう一つの暁研究所の実態すらも知らなかったからだ。
実際『被験体』としての扱いも、念動力測定や異能力の測定テストを除いては、単純に健康診断や運動能力を測る等『人間』として扱われていたし、自分達の研究所と他の異能力研究所との、余りの扱いの差を知った時は絶句した程だ。
「…だから暁研究所へ行って、俺が知らなかった事実を知りにいく。俺が今までまだ知らなかった事実も」
『…暁研究所の場所は?』
「その研究所は神在市郊外裏通りからもっと離れてる。裏通りからバイクで片道二、三時間位だな。丁度明日から連休だ、侵入にも情報収集するにも時間がたっぷりある」
『四堂君。貴方まさか…』
泪の声が聞こえる前に鋼太朗は携帯を切る。通話を切る前、泪は何かを言おうとしていた。
―午後五時半・マンション前。
「またお前か…」
「鋼太朗…」
マンションを出て一階へ降りると、外には瑠奈が居た。伯父の店でバイトしてる際見た私服を着ている。自分以外に昔の泪の事を知っている鋼太朗に聞けば、何か掴めると思ったのだろう。
「言っとくが、もう連れてけねーぞ」
連れていけないと言う鋼太朗の言葉を、前回の一件である程度は予想していたのか、瑠奈は大分落ち着いている。
「うん、知ってる。ちょっと気になる事があって…」
やっぱり自分を連れていってくれない事は、理解していたようだ。気になる事とは何だろうか。
「昔、お兄ちゃんが住んでた所。帰りに聞いたんだけど、お兄ちゃんは鋼太朗と同じ場所に居たかもしれないって」
ここ数日間のやり取りで、泪の方もかなり勘づき始めている。だが暁研究所は二つの管轄下が存在する。
「半分当たってる。そうそう、お前も昔泪と会ってたな。初めて泪に会ったのはいつ頃だ」
「十年くらい前。小さい頃にどっかの施設で会った」
研究所の実態を知らない人間から見れば、異能力研究所の外観や内部は施設にしか見えない。瑠奈の話からして彼女は異能力研究所そのものを知らないようだ。
「転勤族って奴かな? 父さんと母さんの仕事の都合で近くの町に住んでた。その時詳しい事は分からないけど、父さんと母さんと一緒にいた施設に」
異能力者である瑠奈の両親は、普段何の仕事をしているのだろうか。娘が異能力を持っているなら、何ら普通の仕事ではないかもしれないが…。
「こんな事聞いちゃ悪いんだが、お前の両親の仕事は」
「普通の会社員だよ。普通より移動や転勤が多かっただけって父さん言ってたし、今はこの町で落ち着いてる」
力を持つが故周囲の迫害を恐れながら、それでも普通の生活を送る為に、普段は力を隠しながら過ごしている異能力者特有の傾向だ。話の内容からして彼女の両親も異能力者に違いない。
「そうか」
「私の事聞いて何かあるの?」
連れて行く事だけは絶対に出来ないが、ある程度なら話しても問題ないだろう。暁研究所の件は瑠奈だけでなく泪自身にも大いに関係している話なのだ。
「今回の件はもしかしたら、泪も研究所に居るかもしれねー。泪も神在周りの事や、異能力者の事知りたがってたからな」
泪も研究所に居ると聞いて瑠奈の表情に曇りが入る。泪が異能力者の事情に踏み込んでいる鋼太朗とも、大きく関係しているから尚更心配なのだ。
「俺と同じ昔の泪の事知ってるお前に頼みがある」
「何?」
瑠奈は戸惑いながら、少し首をかしげる。
「丁度明日から連休で休みだし、泪の事務所行って俺達を待っててくれ。向こうでちゃんとケリ付けてから、泪と一緒に帰ってくる」
一緒に帰ってくると言われて安心したのか、瑠奈の表情はホッとした笑顔を浮かべた。
「うん、まってる。お兄ちゃんと一緒に無事に帰って来て」
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