第32話 鋼太朗side
-午後八時・郊外某所裏通り。
「そこのお前。異能力者だな?」
伯父の店のバイトが終わって自宅へ帰った後、ふと買い忘れた品物があった事を思い出した鋼太朗は、急いで近くのコンビニへと走って向かい目的の品物を購入し店を出た帰り道の事。
既に陽が沈み空が暗くなり、ぽつぽつと電灯が付き出す裏道を鋼太朗が歩いていると、背後からいきなり男に声を掛けられた。人通りの少ない道を歩いていた鋼太朗の後を付けていたのは、黒いライダースーツを来たガタイの良い男。
男は鋼太朗へと話しかけてきた距離から少し離れている。横目で確認すると背は鋼太朗と同じ位かほんの少し低い位か。まさかとは思いたくないが、もしかすると自分の後ろから話しかけて来る男が、数ヶ月前から神在始めとする周辺で噂になっている、連続殺人事件の犯人なのか?
更に性質の悪い事に、鋼太朗と男の周囲には人の気配は確認出来ず、男の言動から自分を初めから、異能力を持っている事を想定している物言いだった。もし相手が鋼太朗が異能力者であると、気付いているのなら余計不味い気がする。
「……だとしたら」
「死ね!!」
鋼太朗が一言だけを、言い終えた途端。その鋼太朗の反応を待ってたと言わんばかりに、ライダースーツの男はスーツの懐から、柄に仕舞われた『何か』を取り出すと、その『何か』を一気に柄から取り出し鋭利な『それ』を、一気にむき出しにすると同時に、鋼太朗へと襲い掛かって来た。
「!?」
鋼太朗は間一髪『それ』を紙一重の動きでかわすものの、男の攻撃を完全にかわしきれなかったか、鋼太朗がいつも着ている愛用のジャケットの袖が切れてしまった。
攻撃してきた男が手に持っている『それ』は、間違いなくサバイバルナイフ。刃の長さからして明らかに裏のルートで入手した物だ。刃の長さが国内で違法に当たるのは勿論の事、あのナイフ自体が何らかの方法で、殺傷力そのものも高められてあるらしい。
「つか危ねぇなぁ! 服の袖切れちまったじゃねぇか! これ高かったんだぞ!?」
「異端者が。さっさと死ね」
鋼太朗が次の言葉を発する間もなく、男は鋼太朗へ飛びかかり容赦なく鋭く光るナイフを突きつけてくる。
鋼太朗の心臓部を何としても狙うべく、蜂が何度も針を刺すように攻撃してくる男のサバイバルナイフを、鋼太朗はギリギリの間合いで何度も潜り抜けて行くかの如くかわしていく。
「くそっ!」
尚も続く男のナイフの連撃を、ギリギリ避けながらも鋼太朗は思案する。異能力者と聞いてる当たり相手が連続殺人事件の犯人だと、疑って掛かるのもやっぱり早すぎる。考えをよぎるのは行きつけの喫茶店で噂にした、数十年前から地下社会に潜伏し、徐々に表へと勢力を広げている異能力者狩り集団だ。
例の異能力者狩りの連中は、基本的に異能力者だけをターゲットにしている。だが彼らは異能力者達に協力する者であれば、力を持たない非異能力者すら無差別に殺しているとも耳にした。
―…ジャリ。
鋼太朗と男と向かい合っている合間から、砂と地面が摩擦する音がした。鋼太朗と男が物音に気付いたのはほぼ同時。其処には鋼太朗と男の間に挟まるように、茫然自失となり立っている一人の少女。
「ぁ…っ。あ……っ」
その呆然と立っている少女に鋼太朗は見覚えがあった。泪に何度も声を掛けていた同級生の冴木みなもだ。
先程より何度も鋼太朗を攻撃していた、男の激しいナイフ裁きを目にして恐怖を感じたのか、みなもは全く動かず目を丸くしてただただ呆然とその場に立っている。立ち呆けているみなもに気がついた鋼太朗は、即座にみなもの方を向いて大声を上げ叫ぶ。
「なに突っ立ってるんだ!? 早くここから逃げろっ!!」
「お前も仲間だな。丁度いい、死ね」
鋼太朗の叫びと同時に男はニヤリと笑みを浮かべ、立ったまま微動だにしないみなもに襲いかかる。叫びを終えた直後に鋼太朗は男に向かい、全力でみなもへと襲い掛かる男の方へ駆け出し、渾身の体当たりを繰り出した。
「ぐっっ!」
長身で体格の良い鋼太朗の体当たりを受けた男は、食らった衝撃で地面へ倒れそうになるが、咄嗟に片方の膝をつき何とか留まった。体当たりを繰り出した鋼太朗も、膝をつく男から目を逸らさずに何とか体勢を整える。
「この、っ!」
男が体当たりの衝撃で地面へ落としたナイフを拾い持ち直した直後、遠くから複数の足音が聞こえてくる。
「おいおい。何か向こうの方、騒がしくないか?」
「何々? あっちドラマの撮影でもやってんのかな?」
「撮影っ? 金属とかの音聞こえたから刑事ドラマか何かかなぁ?」
この滅多に人気のない路地裏の通りに、人が徐々に集まって来た事を察したのか、男は舌打ちをしながら灯りのない暗闇の中へ走り去って行ってしまった。
「まさか……な」
数年前。いや数十年以上前より、裏社会で幾度も発生し異能力者・非異能力者問わず、多くの者が犠牲となっている異能力者狩り。そして原因不明犯人不明の連続殺人事件。先ほどの襲撃者と繋がるピースがいくつか存在する。事件の犠牲者が異能力者非異能力者を問わない以上、異能力者狩り連中の一連の行動に対して、ある程度辻褄が合うのだが、異能力とは完全無関係の冴木みなもまで狙うあたり、どうにも附がおちない。
鋼太朗は襲撃者が逃げ去った方向を黙って見つめていた。
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