第28話 鋼太朗side
昼休み。
食堂で昼食を済ませた鋼太朗は泪の居るB組のクラスを訪ねる。幸い泪は教室の自分の席で昼食を済ませ、空の弁当箱を片付けている最中だった。
「泪。ちょっとだけ、話いいか」
「…はぁ」
鋼太朗の顔を見るなり泪は軽く溜め息を吐く。初日から鋼太朗にあまりにもしつこく絡まれ、泪もとっくに鋼太朗を追い払う気力を無くしたのか、それとも常に粘着してくる自分に対しすっかり呆れたのか。
「土曜は瑠奈達が、四堂君に何やら色々とやらかした見たいで…」
「…泪が謝ることじゃない」
身内や知り合いが、鋼太朗に迷惑を掛けた事に対して、止められなかった自分にも責任があるのか、黙っていれば女性をも思わせる泪の中性的な顔立ちからは、複雑な表情を見せている。
「ですが…」
「お前。今何処で暮らしてる」
泪は何事もなく平然とこの宝條学園に通っているが、何処で暮らしているのか聞いた事がない。今のところ泪は勇羅や瑠奈、探偵部の面々と交流がある。
「……言いたくなければ言わなくていい。だけど、俺はお前が知らない事いくらか知ってる」
鋼太朗が現在知る限りの情報だと、泪の素性データは以前、鋼太朗が在籍していた研究所に存在していた。泪には父親と二人の姉が居る、しかし泪自身に家族との面識は全くない。泪は生まれてから家族の顔すらも知らないのだ。
そして調べれば調べる程泪の個人情報には、数十年以上も穴が空いたように所々が抜け落ちていて、鋼太朗と再会するまで、彼が今まで何をしていたのかが全く分からなかった。
「……」
鋼太朗の知らない事を知っているとの言葉を聞いてか、何か考え事をするかのように俯いている泪。直後一人の女子生徒が、鋼太朗達の会話に割り込むように入り込んできた。
「ねぇ、あなた。さっきから泪君に何してるの? うふふっ、駄目じゃないの。泪君に迷惑かけちゃ」
「冴木、さん…」
冴木と呼ばれた女子生徒は鋼太朗に笑みを向けるが、鋼太朗は彼女の笑みに自分への明らかな嫌悪を感じ取った。前に対面した篠崎勇羅の友人でもある榊原麗二とは、あらゆる意味で嫌な予感を感じる。
榊原麗二はただ単純に、自分が顔を会わせた事がなく名前すら知らない相手との付き合いが苦手。と言った雰囲気を感じ取ったが、この女子生徒は自分以外どうでもいいと言う感覚で、相手と接している感じに思える。
「あ、あのね泪君…。私ね。今度、泪君のお家にお邪魔していいかな? 私、泪君にあの時のお礼がしたいの! 私、はりきって貴方の為に手作りのお夕飯作っちゃうね!
みなもの手作りの甘ぁい玉子焼きとみなもの特製ハンバーグ。可愛いテーブルの食卓でご飯を食べて、泪君の素敵なお部屋で、泪君と二人きりで可愛いお花に囲まれて…。うふふ、とっても素敵なひと時になるねっ」
泪との楽しい一時を彼女は夢見ているのか。自分だけの世界に入っているような冴木の言動に、鋼太朗は今これ以上、泪と話すと厄介な事になりそうだと思った。
「また…後で、な」
「え、ええ…」
まだ話を続ける冴木みなもに横槍を入れられる前にと、鋼太朗は早々に泪の席から離れる。教室から出る直前一瞬泪の表情を確認したが、延々と自分の世界の話を続ける冴木みなもに対し、泪の顔は能面の様な表情になっていた。
「……あいつ絶対引いてるな」
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